21 皇帝陛下からの、登城命令

「はあ? 城から登城命令が出ているって、なんで?」


 エディによるカルデラ壁の年代調査の結果が出てから、およそ一週間後。

 アニーの元に、件のグレゴリーから火急の知らせとともに、登城命令を知らせる書類が届いた。

 

 アニーは調査結果が出てすぐ、カルデラ壁のあったエリアから帝都に移動しつつ『Aランク:ヴァルティナ山脈の地震調査』の報告書を夜を徹してまとめ上げ、冒険者組合のグレゴリーの元へ早々に提出していた。

 精根尽き果てたのかノアラークに戻ってきたと同時に丸一日以上爆睡し、気分爽快ご機嫌だったアニーの表情が一気に崩れる。


「ねえ、登城命令っていったいどういうことなの!? 私は今回の調査結果を丁寧かつ詳細に報告書にしたためて、あとは悠々と依頼完了手続きを待つつもりだったのだけれど……どうして城に登城しなければいけないのよ!?」


 手元に届いた知らせや同封されていた登城命令に目を通すや否や、アニーはヘインズやエリックを引き連れて冒険者組合に飛び込んで行った。

 冒険者組合の三階にある組合長の部屋のドアを勢い良く開け、挨拶もなしに声を荒げてグレゴリーを問い詰める。

 

 アニーが来るのを予見してたのであろう。

 グレゴリーはお茶とお菓子を準備して待ち構えていたが、アニーはそんなことお構いなしとそのまま部屋に押し入り詰め寄っていく。


「落ち着け! アニー、待て待て、そう落ち着いて! お前の用件は分かっているが、どうどう、さあ椅子に座って? いい子だ、このお茶を飲んで落ち着くんだ。そうそう、いいぞ」


 アニー達のことを幼い頃から知っていると言っていたグレゴリーは流石、こういう時のアニーの扱いを熟知しているようだった。

 興奮して捲し立てようとしてくるアニーを宥め、椅子に座らせ、お茶を飲ませて落ち着かせることに成功する。

 

 アニーを後ろから追ってきたヘインズとエリックは、おそらく初めてではないであろうグレゴリーの華麗な対処に、目配せで軽く謝罪と感謝の意を表していた。

 遅れて二人の分のお茶とお菓子が部屋に届く。


 全員が椅子に座り、お茶を口にして少し落ち着いたところでグレゴリーがため息交じりに口を開いた。


「……はあ、何でって言われてもなあ。アニーから一昨日、報告書を受け取った後、中身を確認して急を要する事態だと察した俺は、そのままの足で依頼主である大臣たちに報告しに行ったんだ。大臣たちも報告書を読んで目を丸くしていたさ。それで、急いで皇帝陛下に報告するってんで俺は帰されたんだが、今朝、何の前触れもなくいきなり城から使いの者が来たかと思えば、まさにアニー達に送った登城命令が出されていたというわけさ。つまり、俺もよくわからん」


 グレゴリーは組んでいた両腕を手のひらを上にして左右に開き、首を傾かせながら自分に理解できないとばかりにそう言った。

 そして、自身の目の前に置かれたカップに手を伸ばし、お茶をすすりながら言葉を続ける。

 

「ただ、報告した内容が内容だったからなあ。念のため、報告者であるアニーたちを呼んで内容に間違いないか詳細含めて確認しようとしているのかもしれんし、噴火の対策としてお前たちに直接、追加で依頼をしたいのかもしれん」


「~~~そうにしてもよ! 代表者として私と、追加でせいぜい調査者として名前を記載したエディくらいに登城命令が出るならまだしも、調って何でなの? 私は、ロイドとニコラをあまり表に出したくなくて……まさか、ニコラのことを勘付かれたとか……!?」


 登城命令が出たこと自体もそうだが、ロイドとニコラを含めて全員で来いという内容が予想外だったのか、いつも比較的冷静なアニーにしては珍しく慌てた様子だ。

 さらに、話しながら途中でいろいろな可能性に行き当たっているのか、アニーの中で疑念がどんどん膨らんでいっているようでもある。


「まあ、落ち着けって。今のとこの情報じゃ、ニコラがらみなのか何とも言えん。この登城命令は皇帝陛下から出ているかなり権限の強いものだから、とにかく行くしかないとしか言いようがない。何かあったときに備えて、ニコラとロイドを守れる動ける奴らを連れて行くことと、ジルにいつでもノアラークを動かせるように準備させておくんだな」


 グレゴリーはアニーが握りしめていた登城命令を改めて確認すると、そうアドバイスした。

 登城命令には明日の朝、冒険者組合の前に迎えをよこすと書かれていた。

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