第44話 勇者の出立
中間試験が過ぎ、俺は学園よりもロンモールの拡張と防衛に力を注ぐことになった。
スラム街の開発に防衛ラインの設置。
騎士団の再編成に各地方との外交。
オルディネスを中心に、ロンモール地方全体の治安改善に取り組んだ。
学園の経営はパームに任せて、生徒の面倒はアルケインとフェリシアに任せた。
そんな折にジャージルが復帰してくれた。
父を亡くした戦いのあとも、変わらぬ忠誠を誓うと言ってくれて、改めて感謝した。
ジャージルの復帰は心強い。俺の目や耳となってくれて、情報をいち早く届けてくれた。
ある日、マインガザルからトルネリオの使者がやって来た。
使者は大量のブラックダイヤをランドレー学園に寄付すると申し出る。俺は同席していたパームと一緒に、その量に驚いた。
よくよく話を聞くと、ファライドロックから採れたブラックダイヤらしい。俺が権利を獲得してから、そのままにしていたので、サラが見るに見かねたのだろう。
そういうことなら、と言って俺はありがたくブラックダイヤを貰い、勇者養成の基金に充てた。
そして、第一期ランドレー学園の締めくくりとなる期末試験がやってきた。
期末試験ではパーティー戦を想定している。
エルピスの時と同様に、勇者パーティーの一員となったものは勇者候補から外される。
ランドレー学園においても、勇者となれるのは一人だけだ。
中間試験で優勝したマリアは勇者の最有力候補にあがっている。この流れを変えるには、期末試験でバクラかアイが、マリアを破るしかなかった。
いったいどんな戦いになるのか楽しみだ。
マリアは誰かと組みそうだが、バクラとアイは単独だろうな。
ロンモールの整備にあらかた目処がつき、書斎でくつろいでいると、ラームが慌てた様子で部屋に入ってきた。
「今度の期末試験……大変なことが起きたよ……なんと、マリアとバクラとアイが、三人とも同じパーティーで出場するって!」
「な、なんだって!?」
俺は書斎の愛椅子から飛び起きた。
期末までの間にいったい何があったんだ。
ちょうど庭でマリアが訓練をしていたので、俺はテラスから出てマリアに突撃する。
「マリア! いったい何があったんだ!」
「何がと言いますと?」
マリアは不思議そうに首を傾げる。
「バクラとアイは、マリアとパーティーを組むんだろ?!」
「え、ええ……」
「彼らは勇者を目指さないのか?」
「確かに、最初はそうだったと思いますが、私たちは何度も模擬戦をやっていて……。二人が、私になら付き従ってもいいと納得してもらえたようで」
あの個性の強いバクラとアイを納得させるマリアとは、一体どれだけ強いんだ……。
「それに、私たちは貴族ではないので、あまり勇者に拘りはないんです。魔王を倒せる道筋さえ見えれば」
たしかに……俺は勇者という称号に拘っていたのかもしれない。
期末試験では、マリアのパーティーにライバルなど存在しなかった。他を圧倒して優勝すると、マリアが勇者として確定した。
*
一期生の修了式――。
それは勇者の出立の日でもある。
マリアたちには、ランドレー学園より剣と防具一式が与えられた。
真新しい装備に身を包み、三人はロンモールの新しい外門に立つ。
「魔力の使いすぎには気を付けろよ」
アルケインがバクラに最後まで助言を送る。
バクラは目を潤ませながら小さく頷く。
「先生の技で、魔王を打ち負かせてやるぜ!」
アルケインは笑ったりせず、「頼むぞ」と真剣に答えた。
アイはフェリシアの胸の中で泣いていた。
「ほら。勇者のお供が泣き虫では示しがつきませんよ」
フェリシアはアイの顔をハンカチで拭う。
「……ハンカチ、貰っていい?」
優しく頷くフェリシアをもう一度抱くと、アイはハンカチを握り締めて、マリアの横に並んだ。
マリアの立ち姿は、最初に会ったときと別人のように立派になっていた。
この期に及んで、俺のなかに幾つもの不安があった。俺はアルケインやフェリシアのように、ずっとマリアの成長をみてやれなかった。
しかし――。
思わずセインと見間違えてしまうほど、マリアの瞳は凛々しく輝いている。
「あれ? ラームさんは?」とマリアが俺の後ろを見るように背伸びする。
すると学園の方から大きなリュックを背負ったラームが走ってきた。
「あ、あたしも行くーー!」
ラームは息を切らしながら、マリアの横に並ぶ。
マリアの表情が和らいだ。
「まだマリアちゃんの異才も開花していないし、ランドレー学園にいてもクビになりそうだしね」
「クビにしたりなんかしないさ。本当に行くのか……危険な旅になるぞ」
俺の忠告を聞いて、ラームは改めて考えてみると、額に脂汗を浮かべる。
「だ、大丈夫だよ!」とラームは苦笑いをした。
「私がラームさんを守りますから、大丈夫です!」
ラームの不安を払拭するように、マリアは力強い笑顔を見せた。
「それで、まずはどこを目指すんだ?」俺はマリアに尋ねた。
「最初に、エルピス学園を解放します」
そうか。
そこにはセインも眠っている。そしてエルピス学園が人間のもとに還れば、次の一手もみえてくる。
俺は確信した。
マリアは間違いなく魔王を倒すだろう。
勇者はロンモールを出立した。
<了>
――
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。
ラストは駆け足になりましたが、これにて物語は終わりとなります。
応援していただいた皆様、本当にありがとうございます。
また新作を書けたらなと思っています。
(次はもうちょっと落ち着いた感じの物語にしようかと)
できれば下の★評価をいただければ嬉しいです。
それでは、ありがとうございました。
悪役学園理事長に転生、魔王奴隷ルートを回避するため異才を極めてみる 下昴しん @kaerizakura
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