第43話 中間試験の勝者2
――中間試験、二日目。
決勝戦は各ブロックの一位がトーナメント形式で戦う。
このトーナメントで優勝した者が、ランドレー学園の勇者候補になるのだ。
勇者になれば、金、権力等のあらゆる面で支援される。
いま俺はランドレー学園の理事だけではなく、ロンモールの賢老議会員でもあるから、ロンモール全体で勇者を惜しみ無く支援するつもりだ。
マリアはあと二回勝てば優勝するところまできていた。
次の対戦相手はクーフと言う名の武闘派だ。
二人が戦闘エリアについて向かい合うと、会場が盛り上がった。
決勝戦が始まる――。
しかしながら……対立して向かい合う二人は、まるで大人と子供だ。
マリアは低身長で、一方のクーフは二メートルの長身だ。
その身長差は五十センチほどある。
「お前の技はすべて見切った」
開始早々にクーフはマリアに向かって口を開いた。
「一瞬で間合いを詰め、出の早い攻撃をする――得意技をブロック戦で使い過ぎなんだよ」
クーフは自信ありげに笑う。
「そうですか。私の技を見切れた人は、今まで一人しかいませんので、本当かどうか確かめさせてもらいます」
マリアは実直に『俊足』の構えをすると、クーフに一撃を見舞う。
しかし――剣戟は空を裂き、クーフの回転蹴りがマリアの胴体に入った。
「ウウッ!!」
地面に転がると、すぐにマリアは起き上がった。
クーフの動きは速い。さすがにブロック戦を勝ち抜いただけある。そして、マリアの技を研究し、今日までに備えていたのだ。
「だから言っただろ。俺は一度見切ると、もう二度と同じ技はくらわない。さっきの一撃であばらが折れただろ? 棄権しろ」
しかしマリアは何食わぬ顔で立ちあがり、また『俊足』の構えをした。
「なっ――」
クーフは驚きを隠せない。
『自己修復』か。
ただでさえ頑固なマリアに『自己修復』だ。負けを認めさせるのは、骨が折れる……どころじゃないな。
「それでは、参ります」
マリアはさきほどの速度を越えて、クーフの手前まで走り込むと、宙に舞った。
くるりと球のように体を丸め、肩の上を抜けると、回転の終わりに剣でクーフの背中を斬る。
「うがっ!!」
まさか途中で空を舞うとは思わず、クーフはまったく反応できないでいた。
ただ一直線に進むだけではない、『俊足』をアレンジして何通りもの型を体に覚え込ませているんだ。
直線の攻撃に合わせることでしか見切れなかったクーフは、次々と変則的に繰り出される攻撃に翻弄された。
「ま、まいった!」
体中から血を流し、クーフはとうとう音を上げた。
会場は歓声を上げ、マリアの勝利を喜ぶ。
「マリアちゃん! 次も頑張ってね!」とラームが手を振った。
マリアが会場から去ると、次にバクラとアイがエリアに入る。
その会場外では、なぜかアルケインとフェリシアも火花を散らしていた。
「魔術だけではバクラは倒せまい。ゆけ! バクラ!」
「アルケイン先生は、魔術の神髄をご存じないのかしら。アイ! 教えて差し上げて!」
まるで我が子のように、弟子を送り出した。
バクラは剣を構えると、闇の魔術で刃文を黒く染める。
アイは片手を突き出して、風の魔術を唱えた。
猛烈な突風がバクラに襲い掛かるが、魔剣を振り闇魔術の波動と相殺させた。
「はっはーッ! やっぱりそこら辺の魔術師とはわけが違う。痺れるぜ!」
「……」
アイは手元で円を素早く描くと、光輪がブレスレットのように描かれる。
光の帯がレーザーとなって手から発射され、バクラにぶつかった。
「ぐうぅぅっ!!」
軽口をたたいていたバクラも、収束した光を剣で受けるのが精いっぱいだ。
光の圧力と言うべきか、恐ろしいほどの力でバクラを押しやる。
「……」
ぐっと力を込めるアイ。
冷静な表情だったが、額には玉のような汗が浮いてきた。光の魔術は大量の魔力を消費する荒業だ。
フェリシアの光焔魔術を模した魔術なのだろう。手から発する分、自由が利いているように思える。
「や、るな……っ、さすがだぜ!!」
バクラはわなわなと今にも吹き飛ばされそうな腕で剣を片手で握ると、もう片方で水球を作った。
あれは……『透化』か。
光の束の中に溶けるように、バクラが姿を忽然と消した。
まさか高等な魔術まで使えるようになっていたとは。
「……!!」
アイはバクラを捉えられず、全身から風の波動を周囲に放出した。
会場全体に突風が吹き荒れる。
そのなかで、風を斬る音だけが聞こえると、剣を振り上げたバクラが宙に姿を現した。
「俺の勝ちだ」
アイはバクラに距離を詰められてしまっていた。
無防備だったアイの肩に、刀身の腹で横殴りにされる。アイは倒れて気絶した。
勝負がついて、倒れたアイにフェリシアが駆け寄った。
「大丈夫?! アイ!」
「……先生、ごめんなさい……」
アイはか細い声で答えた。
ほっと胸をなでおろすと、フェリシアは微笑んだ。
*
一時の休憩を挟んで、中間試験最終の決勝戦が行われようとしていた。
戦闘エリアにはマリアとバクラが立っている。
色々と挑発してきたバクラだったが、このときは無言だった。
互いが剣を主体にした技を習得しているため、距離は近い。
始めの合図で剣と剣がぶつかった。
マリアは魔剣で刃こぼれしないように、刃を寝かせている。闇の魔術で鋼鉄を強化しているので、単純に刃をぶつけると折れる可能性もあるからだ。
さすがだな――魔剣の性質を観察し、攻略法を考えているようだ。
バクラは力を込めて鍔迫り合いを制すると、追い込んでマリアに一撃を繰り出した。
しかしマリアは『俊足』を回避に使ってよけた。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
バクラはアイの戦いで魔力をかなり消耗していた。
マリアの切り込む攻撃をバクラは剣で受けながら後退する。
驚くことにバクラは『俊足』を見切っていた。おそらく、過去にマリアと手合わせをしたことがあったのかもしれない。
「バクラ! 魔術に頼るな!」
アルケインが叫んだが、時すでに遅し。
魔剣は闇魔術を常に使い続けているため、常人では十分ももたない。
マリアは一歩下がって呼吸を整えると、これまででもっとも速い『俊足』を見せた――。
剣は勢いを増して、バクラに重なると、クロスを描くように互いの刃が交差する。
パキィィン――。
魔力を失い普通の剣となったバクラの刃は、中央から綺麗に折れた。マリアの幾度もの訓練で磨かれた剣に対する慧眼が、バクラの剣と心をへし折る。
「ば、馬鹿な……」
バクラが剣に気を取られた瞬間に、マリアの剣の切っ先が、バクラの首筋にあった。
マリアは足元に小さく蹲り、長剣が斜め上に伸びている。バクラの視界にマリアの姿は捉えられなかったのだ。
バクラは潔く敗けを認めた。
ランドレー学園の中間試験で、マリアは学園一位の成績を修めたのだった。
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