第4話:でもちなみって今誰とも付き合ってないんじゃなかった? 変なの
第4話あらすじ:俺とちなみはランチを楽しむ。その後、ちなみの同級生らしい女の子の二人組と出くわした。少し雰囲気が怪しい。
◆◆◆◆
「それじゃ、お昼にしよっか。兄貴は何が良い? 言っとくけど、おしゃれした女の子に焼肉食べに行こうなんて馬鹿なことは言わないでよ」
「分かってるって。さすがにそんなことしねえよ」
俺達は、ショッピングモール内のイタリアンレストランに入った。ランチタイムということもあり、店内はかなり混雑している。
「あ、ここ空いてるよ」
席を探していると、ちなみが窓際の席をうまく見つけてくれた。
「おっ、ラッキー。じゃあ、そこにするか」
「うん」
俺達がテーブルに着くと、店員さんがメニューを持ってやってきた。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
そう言って、店員さんは引っ込む。
「俺はピザにしよう。マルゲリータがいいな」
「私はチーズリゾットとジェノベーゼパスタにしようかな」
「二つ食べるのか?」
「ううん。半分ずつ食べようかな。兄貴はピザだけじゃ少し足りなくない? よければ私のもどう?」
注文してから、俺たちは水を飲みながら少しくつろぐ。ちなみがショッピングモール内のレストランで満足してくれてほっとした。こいつ、案外贅沢はしないからなあ。
「あ~よかった。兄貴がニンニクたっぷりのラーメン屋に行こうとか言い出さなくてさ」
ちなみはにこにこしながら俺をからかう。
「うまいけどな。背脂たっぷりの濃厚こってりスープに、どさっと乗った刻みニンニクにネギ。あのパンチは一度食えば病みつきになるぜ」
「やめてやめて。我慢してるんだから。も~」
「はは、すまん」
俺はすぐにやめる。男の俺なら食べたきゃ適当に満腹になるまで食べられるけど、ちなみは女の子だからなあ。絶対にダイエットしてる。まあ、ちなみのお母さん(俺にとっては義理の母親だ)は結構丸い体形だから、ちなみが気を遣う理由もよく分かる。
「服にラーメンの匂いがつくだろ? 行かないって」
「そういうこと。でも、そのお店行くなら誘ってよ。ちゃんとそれ専用の格好してついていくからさ」
「体重は大丈夫か?」
「……一杯くらいならセーフだって」
ちなみはそう言いながらも、ちょっとだけ目をそらした。そうしているうちに注文していたメニューが運ばれてきた。
「あ、これおいしい。私好みの味だ」
ちなみはジェノベーゼパスタをフォークで食べながら嬉しそうに言う。俺はマルゲリータを食べてみたが、ちょっと淡白だ。自分の切り分けた奴にタバスコを振る。
「ちょっと俺には薄いかな。もっとこう……」
「胃にガツンと来るのが欲しい、って感じ?」
「そうそう。俺にはお上品だったかなあ」
「兄貴、無理して私に合わせちゃって。焼き肉やラーメンは駄目でも、牛丼屋とかでもよかったんだよ」
「別にいいだろ。今日はお前が主役なんだからさ。お前の食べたいものを食べろよ」
「うん、ありがと。やっぱり、私が好きなものを一緒に楽しんでくれる人がいるのは嬉しい」
「そりゃあ良かった」
俺はマルゲリータを口に運ぶ。味は同じだが、少しさっきよりもおいしくなったような気がする。
「ところで、学校とかどうだ?」
俺はそう言うと、ちなみは目を丸くした。
「なにそれ。進路相談? それともカウンセリング? どうしたの兄貴」
「いや、こういう時、何を話していいか分からなくてな」
俺は正直に言う。実際彼女のいない身では、女の子と一緒に食事して何を話すべきか分からない。天気の話とかしたらちなみに笑われるのは必至だ。
「うーん、楽しいよ。毎日それなりにやってるかな。テストが多いのはきついけど、今のところ何とか追いついてるかな」
「悩み事とかあるか?」
さらに聞いたらさすがにちなみに笑われた。
「あはは、兄貴必死すぎ。私が悩み事で辛そうな顔してる?」
「あ、兄として妹を助けようとしただけなんだけどな」
確かに、俺の気づかいって不器用すぎたよな。ちなみは呆れた顔でちょっと笑ってから、穏やかな顔で俺を見る。
「はいはい。私と兄貴は義理の兄妹だけどさ。今日はデートしてるの。どうせなら楽しいこと話そうよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんなの。じゃあさ、兄貴が最近あった笑えること、話してみてよ」
「俺か? そうだな――――」
意外と俺たちは、ランチを楽しく過ごすことができた。単に食べて終わりじゃなくて、お互いに近況や思っていることをくつろいだ雰囲気で話すのが大事なんだな。
「へえ、そんなことがあったんだ」
「ああ。それでな、あいつがな」
「あはは、ほんと面白いよね。兄貴の友達」
「まったくだ。でも、ちょっと変わったところもあるけどな」
「あ、分かる――」
ちなみは俺のつたない話でも結構喜んでくれた。兄としてほっとしたのと同時に、男としても嬉しさを感じている自分に俺は気付いていた。
◆◆◆◆
ランチを食べ終えて店を出た後、俺はトイレに少し行った。そして手を洗い終えてちなみのところに帰ってきた時だった。ちなみが書店の前で二人の女子と話していた。
「……ないから」
「え~でも……」
「そうそう……」
何となく、ちなみが少し困っているような感じだ。少しちなみが書店の壁の方に寄っている。
ちなみと話しているのは、同じ学校の制服を着ている。たぶん同級生だろう。片方は日焼けして背が高くて髪にメッシュをちょっと入れた感じの、ギャルっぽい雰囲気の子だ。もう片方は背が小さくて、黒のロングヘアーをきれいに伸ばしている。
「それにしてもさ、今日はずいぶん気合入ってるんじゃない? どうしたの? 誰とデート?」
「でもちなみって今誰とも付き合ってないんじゃなかった? 変なの」
「うっさい。こ、これくらい普通だし」
う~ん。よく分からない。口調からするとなんだかちなみが問い詰められているようにも見えるんだけど、でもこれくらい女子の間じゃ普通かもしれないし。俺は一瞬どうしようか迷った。
このままにしていて、二人の同級生がいなくなってから顔を出した方がいいんだろうか。でも、長話になっていたら「いつまで兄貴トイレに行ってるんだろう」なんてちなみに思われるし。でも、俺がひょいと顔を出したらちなみはどう思うことやら。俺と買い物なんて同級生に見られたくないのかもしれないし。う~ん、どうしたものか。
「へえ、普通なんだ~」
「ね、それ見せてよ」
二人はそう言いながら、ちなみの持っている紙袋に手を伸ばす。
「……嫌って言ってるでしょ」
ちなみが逃げようとするが、二人の少女に迫られて壁際に追いやられる形になった。あ~これ、ふざけてるのかどうか本当に判断がつかない。でも、俺は思い切って顔を出すことにした。
「ちなみ、お待たせ……その子たちは?」
「あ、兄貴」
ちなみはほっとしつつも少し戸惑い顔だった。
「あ、あのさ、私たち……」
メッシュの子が俺を見つつ、何かを言いかけて黙り込む。黒髪ロングの方はちなみの方に伸ばした手を引っ込めて、こちらをじっと見た。
「誰?」
「……私の兄貴」
「……うっそ。ふ~ん」
◆◆◆◆
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