メイキング・オブ・イモウト
高田正人
第1話:その日から、ちなみは俺にとっての大事な妹になったのだった
第1話あらすじ:小学生の時、主人公手塚正孝に義理の妹ちなみができた。二人は成長して高校生になってもそこそこ仲が良く、正孝はちなみと週末にショッピングに行く約束をするのだった。
◆◆◆◆
小学生の頃父親が再婚した。俺、手塚正孝(てづかまさたか)に義理の妹ができた。妹の名字は旧姓槇原。名前はちなみ。だから今は手塚ちなみだ。
「正孝、今日からこの人がお前の新しいお母さんと妹だ。仲良くしてほしいな」
父親から紹介されたふくよかな人と、その後ろに隠れて、俺をうかがっている可愛い小さな女の子。それがちなみだった。
「……こんにちわ」
俺と目が合うと恥ずかしそうにちらっと顔を出し、挨拶する。そんな仕草も可愛かった。
「ああ、こんにちは。俺は正孝。今日からお前のお兄ちゃんだ。よろしくな」
「……うん、分かった。ええと……お兄ちゃん」
その日から、ちなみは俺にとっての大事な妹になったのだった。
◆◆◆◆
「あーもう! 兄貴ってばまたこんなに散らかして! たまには掃除しろ~」
そして現在、ちなみは高校一年生になり、俺は二年生になっていた。最初に会った時の人見知りで怖がりで、怖い話とか読んで一人で眠れなくて一緒に寝たような控えめな妹はどこへやら。
「ちなみ、またお前ノックもしないで俺の部屋に入ってきたな。あさるな!」
「別にいいじゃん。たまには兄貴の読んでる漫画とか見せてくれてもさあ」
今ではすっかり生意気になってしまった。思春期特有のあれだろうか? いや、でも昔からちょっと大人っぽいところがあったような気がするし……。まぁいいけど。ちなみに今朝も俺の部屋に入ってきて、勝手に本棚をあさっていた。
「まったく……」
散らばった雑誌類を俺は片づける。もっとも、これは俺が出したやつだ。ちなみはあさりはするけど部屋を散らかすことはしない。
「じゃあ、今度はお前の部屋に俺もノック無しで行くぞ。夜とか」
「は? やめてよ兄貴。妹の部屋に無断で入るとか絶対ダメなんですけど?」
うっ……相変わらず容赦ない。これが義理とはいえ兄妹って関係なのか……?
毒舌じゃないけど結構正論でびしびし攻めてくるのがなかなかきつい。でも、ちなみは真面目だし、さすがに俺の嫌がることは絶対にしないから、なんだかんだで仲がいいんだよな。たまに一緒に出掛けるし。
「はいはい。それより早く降りてきて朝ごはん食べなさいよね。冷めちゃうじゃない」
「ありがと。作ってくれたのか」
「まあね。明日は兄貴が作ってよ」
素直じゃない奴だ。口ではいろいろ言うくせに、こうして料理を作ってくれるあたり、やっぱり優しいところあると思うんだけどな。着替えて階段を下りると、テーブルの上にはすでに朝食が用意されていて、ほかほかのご飯とみそ汁からは湯気が立っていた。目玉焼きもある。
「うまそうだな。いただきます」
席に座って手を合わせる。すると、キッチンの方にいたちなみもエプロンを脱いで向かい側に座った。
「いただきます」
両親がどっちも忙しくて先に出かけているときは、こうして俺たちは交代で朝食を作って一緒に食べる。
「ちなみ、お前ほんと料理上手だよな」
「え~、別に私、レシピ見てその通りに作ってるだけだよ。これくらい普通だって」
そう言いながら、箸を進める。ちなみの手料理を食べるのが最近は楽しみだ。最初の頃はあまり上手くなかったけど、最近はすごく美味しいものを作るようになってきた。ちなみは見た目もいいし、成績優秀で運動神経だっていい。おまけに性格も悪くないし(俺に対しては気のせいかきついこともあるけど)、理想の女の子って感じだ。
髪はちょっと染めていて、それがまたよく似合っている。目元もぱっちりしていてまつ毛も長いし、スタイルもいい。全体的に手足が長くてバランスが取れてる。モデルってこんな感じかな? それにひきかえ俺は……特に秀でたところもないごく普通の男子高校生である。顔もそこそこだとは思うけど、ちなみの方が断然上だと思う。
「どうしたの兄貴? 私の顔じろじろ見ちゃってさ」
「ああ、なんて言うか……お前可愛くなったなって思ってさ」
つい本音を言ってしまい、俺は内心で絶句した。こんなことを言ったらちなみになんて言われるか。呆れられるか見下されるか。俺はマゾヒストじゃないから、あんまりきついことを言われるとさすがに心が痛む。
でも、ちなみの反応は予想とは違った。
「そ、そう……ありがと。まぁ、兄貴もそれなりにカッコいいんじゃ……ない? うん」
顔を赤くして目を逸らしながらそんなことを言う。
「お、おう……素直に受け取ってくれるんだな」
なんかこいつこんなキャラだったっけ? 俺の妹ってもっとこう毒舌なイメージがあったのに……。
「当たり前じゃん。私高校生だし、おしゃれとか髪型とかいつも気を遣ってるんだよ? それなのに可愛くないとか言われたらさすがに悔しいってば」
確かに最近のちなみは、おしゃれとかにかなり力を入れていた。髪も前みたいにショートボブじゃなくてロングにしてるし、服とかもちょっと高めの感じのを買ってる。
もちろん散財とかしてないし、女の子は服にお金を使うのも当然だろう。
「やっぱ服とか金かかるか?」
「当然。最近欲しいコートがあってさ~、今度買っちゃおっかな」
「あ~、そういうの俺には全然分からないな。でも、俺も一応兄貴だからさ、妹がオシャレしたい気持ちくらいは理解したいぞ」
「そっか。兄貴は彼女いないもんね。じゃあさ、今度付き合ってよ、私の買い物。荷物持ちとかじゃなくて、兄貴の買い物にも付き合ってあげるからさ」
「いいのか?」
「いいよ、兄貴なら。たまには男の視点とかあるとファッションの参考になるし。あ、でも変な格好させたら許さないから」
「わかった。約束する」
昔は一緒に遊んだり一緒に寝たり仲なんだが、まさか兄妹でデートするとは思わなかった。二人で朝食を食べ終え、俺が食器を洗う。その間にちなみは学校に行く支度を整えていく。毎日の変わらない日々。義理の妹との暮らし。最初はいろいろあったけど、今はすっかり慣れた。今日もまた、いつも通りの一日が始まる。週末のデートが楽しみだ。
◆◆◆◆
日曜日の午前中。両親に冷やかされながら俺は義理の妹のちなみとのデートの支度を終えていた。デートと言っても、主にすることはちなみの買い物の付き合いだ。ちなみはお小遣いも前借りして、今日は一通り季節のものをそろえたいらしい。ちなみは残念そうに「ブーツとか欲しいんだけど、ちょっとそこまでは手が出ないかな~」と言っていた。
「おーいちなみ、まだか~」
部屋の前で俺は妹を呼ぶ。
「まだでーす。バッグとアクセとかは決まったけど、着ていくものが決まらない。どれがいいと思う?」
ドア越しにちなみの声が聞こえてくる。
「なんでもいいんじゃないのか?お前の好きなので」
「適当だなぁ。せっかく兄貴のために選んであげようと思ったのに」
俺はリビングに戻ってソファーに腰掛ける。しばらくして、ちなみが部屋に入ってきた。
「どう?似合ってる?」
ちなみはその場でくるっと一回転してみせる。今日は厚着してマフラーとコート、頭には帽子。スカートは長めのプリーツだ。
「うん、すごくいいんじゃないか」
「えへへ、そうかな~。兄貴の好みに合わせたんだけど」
女の子は本当にいろいろ着るものにこだわるんだなあ。でも、ちなみが俺の好みに合わせてくれるなんて言ってくれるとかなり嬉しくなってしまう。俺も単純な兄貴だな。
「じゃあ、行こっか。バスに乗り遅れちゃうからね」
「ああ。荷物持ちは任せとけよ」
「そんなことしないってば。そこまで私わがままじゃないし」
ちなみはそう言って嬉しそうに笑う。何だかんだ言って兄貴を立ててくれるところが俺も嬉しい。
「いやいや、俺がお前にしてあげられることってそれくらいしかないからさ」
「もう、また兄貴は自分を卑下する。もっと自信持っていいんだよ?」
そう言って俺たちは両親に見送られて家を出る。今日一日が楽しみだった。
◆◆◆◆
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