『砂竜使いナージファの養女』×『One-Sided Game』
翔んでマルシブ 《前編》
【character select】
平本りこ作『砂竜使いナージファの養女』より、アイシャ、ファイサル
https://kakuyomu.jp/works/16817139554878036293
『One-Sided Game』より安藤モア(アンゴルモア)
【time stamp】
『砂竜使いナージファの養女』終章後
【START】
宇宙の果てより来たりし侵略者ことアンゴルモアの敵は、何も人に限らない。
地球を侵略すべく日夜活動を続けるアンゴルモア(以下、モア)であったが、今回の敵はこの暑さであった。侵略者にして宇宙人であるモアは、とにかく暑さに弱い。思い起こせば1999年の7の月に初上陸した際も、この暑さによって撤退を余儀なくされていた。照りつける日差しのせいでなすすべなく体力を奪われてしまう。
「暑い……暑いぞ……」
口を開けば弱音を吐き散らしながら、砂に足跡を残していく。残された足跡は瞬きもせぬうちに風に流されてて消える。こうして、どこからきたのか、これからどこへ向かえばいいのかすらわからないまま、砂漠の砂の一部と成り果ててしまうのだろう。そう、ここが世界の終わり――
「タクミぃ……」
愛する者の名前を呟いて、砂に大の字になる。天に手を伸ばせば、その青さと同化してしまいそうだった。どうして斯様な過酷な地を訪れてしまったのかといえば、偶然に偶然が重なった結果であった。
モアがいた現実に類似する世界(第四の壁に捕捉されている世界)とこのマルシブ帝国の存在する世界とでは、空間座標としてのずれが大きい。したがって、通常プレイでは介入できない世界となっている。基本的には『異世界ファンタジー』と呼ばれるジャンルには侵略者を退けるほどの脅威が存在しやすい。すなわち侵略者は現代に近しければ近しいほどその侵略活動を容易く行うことができるのだが、稀に周期が合わさって線と線が重なる箇所がある。えいやっと飛び込んだ先がこのマルシブ帝国近辺の砂漠だった。着地地点が砂でなかったら足を挫いていただろう。
モアには母星から課せられた使命がある。地球を移住先として考えている母星の方々のためにも、その地を先に制圧している生命体を滅せねばならない。あるいは植民地として、侵略者の武を示さねばならない。ただし当の本人にやる気があるかというと……この話は本編の『One-Sided Game』にて触れさせていただこう。
非力な乙女――モデルの
「くぁ~……」
人の姿が見えねども、間の抜けた声はした。モアは上体を起こす。砂の山の中から、ひょっこりと首を持ち上げて、侵略者の面前で大あくびをする蜥蜴がいた。背中には、その巨躯を天空で舞わせるには適さない小さな翼が生えている。白銀の鱗が太陽の光を反射し、思わず「まぶしっ!」と右手で顔を覆うモア。
「?」
つぶらな瞳がモアの姿を捉える。純朴にして邪気のないその双眸は、あろうことか、宇宙人をこの地球上の住民と誤認したらしい。四本の足でのそのそと危険極まりない侵略者へと近付けば「撫でろ」と言わんばかりにその頭を垂れた。
「ドラゲナイ!」
まだ夜ではない。脱水症状一歩手前状態のモアは、意識朦朧としながら、その幼い砂竜の頭を撫でた。砂竜は鼻面をくすぐられて、機嫌よく「グルルル……」といななく。
人間の思考は流れ込むが、人間以外の生命体は未知の存在。ましてやモアの元いた世界には不在の砂竜を相手取って、モアの能力が十二分に発揮されるはずもない。
モアは多くの人間に好意的な動物がそうであるように、愛情表現のひとつとして求められる行為、(故ムツゴロウ先生のような)撫で回しを、ただただ続けて、やがて、
「ゆー、あー、でっど……」
ホラーゲームのゲームオーバー画面のように倒れた。
しかし、幼い砂竜のそのいななきに気付いた少女がいる。長き黒髪にあどけない灰色の瞳と、健康的に日焼けした肌、その平均身長よりも小さな体躯とは到底結びつかぬ勇気を秘めた『砂竜使いナージファの養女』の主人公、アイシャ嬢だ。タイトルにある『ナージファ』とはアイシャが現在所属する赤の氏族の女傑の名であり、故人である。
アイシャは群れからはぐれた幼い砂竜を探して駱駝を駆け――否、歩かせていた。この駱駝という生き物は砂漠に適した進化を遂げているものの基本的には気分屋さんなので、内心おおわらわなアイシャの気持ちにはそっぽを向けるようにして、のんびりと砂上を闊歩している。これではアイシャが走ったほうが速い。
「いた! ……もう! 急いで!」
幼い砂竜は、モアが志半ばにして力尽きたことにより撫でられが中断したのを不服に思ってか、ふて寝ならびに二度寝としゃれこもうとして「ふぁ~あ」とまた大あくびをした。
「誰か倒れてる!?」
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