『みかんゲーム』×『One-Sided Game』

すいかゲーム 《前編》

【character select】


姫路 りしゅう作『みかんゲーム』より久野鈴也、大塚沙鳥、アイ

https://kakuyomu.jp/works/16817330655974966128


『One-Sided Game』より参宮拓三、安藤モア(アンゴルモア)

https://kakuyomu.jp/works/16817330649620464506


【time stamp】


『みかんゲーム』本編終了後のとある夏


【START】



「すいかゲームで負けてくれ!」


 彼女のさっちゃんと共に海水浴を楽しみにきたぼくは、そのウキウキな気分を大男の土下座により相殺された。


 我が身に降りかかった出来事とはいえ、なかなかない経験だと思う。考えてもみてほしい。大学の夏休み、相思相愛の彼女と水着を買いに行き、前日に「じゃあ明日ね」とバイバイして、当日の朝早くから移動、電車に揺られて小一時間。海の家で着替えて、ビーチボールを膨らまし、他の水着美女に目を奪われそうになりながら彼女の着替えを待ち、試着室以来となる水着姿を「かわいいよ」と褒めて、彼女が照れくさそうに笑い、さあ白い砂浜に繰り出すぞといったところで、この土下座だ。


「……話だけは聞いてみようよ」


 ぼくの二の腕にぎゅっとしがみつき、その大男を訝しむさっちゃん。身の丈は190センチメートルほどありそうで、この場所なのに何やら赤い――果汁? が飛び散っているのが目立つ白いTシャツに紺色のハーフパンツ、クロックスを履いている。ぼくですら海パンを穿いているというのに、いったい海水浴場に何をしに来たのだろうか。

 しかし『すいかゲーム』というどこかで聞いたようなフレーズに、引っ掛かりを感じなくもない。さっちゃんに免じて話を聞こう。


「負けてくれ、とは?」

「ありがとう!」


 まだ受けるとは一言も言っていないのに、大男はぼくを拝み倒した。何度も何度も「ありがとう」と繰り返す。さっちゃんにならまだいいけれど、男、しかも年上っぽい容貌の人に泣きつかれるなんて、これもまたなかなか経験できない出来事だ。いや、さっちゃんがぼくを拝み倒すシチュエーション、そうそう想像つかないけど。


「あの、いったい何があったんですか?」


 ぼくは大男の肩を叩いて落ち着かせてから訊ねる。大男はようやく「あ、ああ、すまない……こちらの事情を説明するよ」と語り出した。


 大男の話を簡潔にまとめると、大男とその彼女・モアさんがここに着いたのは今から三日前のこと。モアさんが綺麗な貝殻を拾うと、そこからが姿を現した。

 モアさんが「砂浜に来たのだから、すいか割りがしたいぞ!」と提案すると、幼女の姿でありながら年寄りめいた口調で話すその子が話に乗ってきて「ただのすいか割りでは退屈じゃのう。ギャンブル要素を付け足して『すいかゲーム』というのはどうじゃ?」とそのルールを魔改造し、さらに『すいかゲーム』に勝利しないとここから帰らせない、とまで言い出す。

 初日はすぐにでも勝って夕方には帰ろうとしていたが、どうしても勝てない。モアさんは「勝つまでやるぞ!」と意地を張っている。三日間割れたすいかしか食べていない。カブトムシになった気分だ。人命救助の一環だと思って、どうか


「そのって、アイじゃない?」


 さっちゃんがぼくに耳打ちする。ぼくもそう思った。ゲームへの強制力を持たせるあたりもアイのやり口だ。ギャンブルに絡めてくる辺りもアイっぽい。

 おそらくこの大男は幾度となく脱出を試みたに違いない。それでも解放されていないのは、アイの力で幽閉されているからだろう。だが、その姿を確認するまで、アイのせいにするのはよくない。他の不可思議な力が介在しているかもしれない。


「その幼女と、モアさんはどこに?」


 ぼくの質問に「ここだぞ! 我がアンゴルモア! モアと呼ぶがいい!」と答えたのは、モデルさんのような抜群のプロポーションにキメキメのメイク、オレンジ色の際どい水着の美女。レンズを向けられたかのようなヒマワリのような満開の笑顔の周りにはキラキラと星が瞬いている。


「すずくん?」

「あ、いや、ヒマワリと星がセットなのはおかしいか」

「す ず く ん?」

「さっちゃんがナンバーワンです」


 可愛らしく頬を膨らませてプイッと向こうを向いてしまった。ぼくにとってさっちゃんがいちばんなのは紛れもない事実だけど、この場においては取ってつけたような言い訳と捉えられてしまったかもしれない。あとでフォローしないと。


「相変わらず仲が良いのう」


 そのモアさんの腕にぬいぐるみの如く抱っこされているのがアイだった。ぼくたちを船上の『デスゲーム』に誘った、ギャンブルの仲介人。やはり関わっていた。そうそうなんていないか。


「このふたりが次の『すいかゲーム』の参加者か?」

「ああ、そうだよ」


 参加する方向で話が進められている。アイが関係しているとなると、ぼくにとって他人事にはしておけない。だが、その『すいかゲーム』がどのようなルールなのか、すいか割りの派生系というが、その一切の説明がないままではアンフェアだ。どちらにせよ参加はするのだけど……。


「なんだか、おふたり、雰囲気が似てませんか?」


 不意にさっちゃんが問いかけて、モアさんは「我らはやがて結ばれるのだからな! 共に暮らしていれば自然と似てくるというものだぞ!」と胸を張る。さっちゃんが言いたかったことはそうではなく、どことなく身体のパーツや顔の感じが似ていると伝えたかったのだろうけど、惚気で返されてしまった。


 そんなふたりとの『すいかゲーム』のルール説明は、後編へと続く。

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