第34話
えっ?
待って待って。なにこれ、どういうこと?
なんで、わたし、深月に押し倒されてるの!?
「深月?」
「なに」
「いや、えっと。ちょっとだけでいいから、どいてほしいかなぁ。なんて、思いまして?」
「やだ」
「またやだ!?」
さっきまで隣で一緒に横になっていた深月に、わたしは今なぜか組み敷かれていた。深月の長い髪がサラサラと流れて頬をくすぐる。深月の綺麗な顔が至近距離にあって、深月の甘い香りにつつまれて、心臓が主張を強くする。
「ねぇ、朱莉」
「⋯⋯なに?」
本当にこのまま話すじゃん。隣で寝るより落ち着かなくて困るんだけど⋯⋯。
「私が初めて?」
「えっ? なにが?」
「キスしたの。私だけ?」
「あぁ、そうだね。ふざけてした時も口にはしなかったかな」
「そっか。ほかには、なにしたの?」
そう言いながら深月はわたしの頬を撫でていく。どことなく不機嫌そうに見えなくもない。
「ほかにって?」
「ふざけて、ほかになにしたの? 頬にキスしただけ?」
「あー⋯⋯。キスマークつくか遊んでた、かな?」
途端、深月の顔から表情が抜け落ち、目が細められる。
えっ、なに、なんで!? 深月、怖いんだけど!?
⋯⋯なんか、怒ってる? また怒らせちゃった?
「深月、怒ってる?」
「怒ってない。キスマークどこにつけられたの?」
「えっ? あぁ。えっと、二の腕の内側」
わたしは右腕の袖を捲り、記憶の中にある場所を指し示す。皮膚が薄い方がつきやすいと聞いて、たしかこの辺りにみんなでつけ合いをしたはずだ。
「ふーん、ここ?」
「うん、たぶん」
「わかった」
わかった? なにが?
わたしが深月の言葉の意味を考えていると、ふいに深月がわたしの二の腕に顔を寄せる。冷たい髪の感触が二の腕をくすぐり、すぐに温かくて柔らかいなにかがわたしの二の腕にふれた。
「えっ!? 深月!?」
「うん」
返事をしてくれはするものの、今してるそれを、深月はやめようとはしない。二の腕にチクッとした痛みが走る。ほんのいっときのあと、深月が離れるとそこには赤い跡が残される。
気がついた時には、わたしは深月にキスマークをつけられていた。
「なっ、なんで!?」
「なにが?」
なにが!? むしろなんでそんな冷静なの!?
⋯⋯えっ? わたしが動揺しすぎなの?
「えっと? なんでいきなりこんなこと?」
「朱莉が悪い」
「だから、なんで!?」
全然わかんないんだけど!?
深月は依然として不機嫌そうで、わたしにつけたキスマークを細い指で撫でている。少しだけくすぐったいけど、正直わたしの心臓の主張が激しすぎてそれどころではない。
「ねっ、ねぇ深月? なんかよくわかんないけど、もういいでしょ? どいてほしいなぁ」
「まだ終わりじゃないから」
「えっ? あっ、ちょっと待って」
深月の顔がまた至近距離まで近づいて、頬を軽く撫でたかと思うと、そのまま頬にキスをされる。
「深月、ちょっと待ってってば」
「今まで、何回くらいされた?」
「話、聞いてくれるかな!?」
「何回?」
「えー⋯⋯、わかんない」
わたしの答えを聞くなり、深月の綺麗な顔に眉間の皺が深く刻まれる。
やっぱり怒ってるじゃん!?
だって、子供の頃からだし。いちいち数えてなんてないし、聞かれても正確な回数なんて答えられないよぉ。
「やっ、えっと! 5回くらい? かな?」
「本当に?」
「いや、あの⋯⋯、ごめん。ちゃんと回数わかんない、です」
「はぁ、そういうことじゃないんだけどな」
うぅ、またため息つかれたし⋯⋯。
「まぁいいよ。少なくとも5回以上だよね?」
深月がにっこり笑顔でわたしの頬を撫でる。笑顔なのに目が笑っていなくて、ちょっと怖い。
「深月、さん?」
「んー? なに?」
いつも通り優しいんだけど、ちょっぴ声に棘を感じる。
「機嫌悪い?」
「悪いよ」
「ついに認めたじゃん!」
機嫌の悪いらしい深月は、一見してそうは見えない笑顔で相変わらずわたしを組み敷いたままだ。
笑顔の圧がすごい。
「キスマークは1回だけ?」
「また話聞いてくれないしぃ」
「ねぇ、どうなの?」
「そうだけど」
「じゃあもう1ヶ所つける」
「なんで!?」
本当になんで!?
えっ、いや、ちょっと待って!
「よりによってそこ!?」
深月がわたしの首筋に顔を埋める。
「ダメなの?」
「だって、見えるじゃん」
「夏休みだし、友達に会わないしよくない?」
「家族には会うんだけど!?」
ムッとした顔してもダメだからね!?
笑顔だった深月は、不満そうな表情を浮かべて、首筋を下に向けて撫でていく。
「じゃあここ」
「えー⋯⋯」
深月がわたしのティーシャツの襟首を下げながら、鎖骨の辺りを指でなぞった。くすぐったさの中に熱が混じる。
「ここなら私にしか見えないし。ダメ?」
「ダメ⋯⋯じゃない、けど」
「ならいいよね」
返事をする間もなく、深月がわたしの鎖骨に唇を押し当てる。
「ん⋯⋯」
ついさっき二の腕に感じた、ほんのりした痛みと熱を鎖骨にも感じる。深月がわたしにキスマークをつけている事実を、より強く意識してしまう。
「みづ⋯⋯き?」
鎖骨から熱が引いて、深月の唇が離れたことがわかる。深月は返事をしないまま、わたしの首筋にキスをした。
「あっ。待って、だめ」
「大丈夫、跡はつけないから」
それもそうだけど、そういうことじゃないぃ!
深月の暴走が、まったく止まる気配がない。
何度か首筋にキスをした深月は、頬にもキスをしてくる。
「ちょ、深月くすぐったい」
「いいから、我慢して」
「えぇ、ちょっとぉ」
頬にもたっぷりとキスをした深月は、満足したのか少しだけわたしから身体を離して、鎖骨のキスマークをあらためてまじまじと見ている。
「ねぇ、もういいでしょ? そろそろどいてよぉ」
いい加減、押し倒されてるこの体勢から解放されたい。
「朱莉、ファーストキスは私だよね?」
「やっぱり聞いてくれないしねぇ。そうだよ、間違いなく深月が初めての相手です」
「じゃあ2回目の相手も私にしてもらう」
「えっ?」
深月の顔がまた近づいてきて――
思わず近づいてくる深月の口を、手で塞いで阻んでしまった。深月がムッとした視線で不満を訴えてくる。
「またする――うひゃ!」
えっ!?
なっ、舐めた!?
口に当てていた手のひらを急に舐められ、変な声がでた。驚いて手を引いた隙に、宣言通り2回目のキスが奪われる。
「んんぅ!」
ベッドに組み敷かれたまま、深月の唇がわたしの唇に重ねられる。2回目のそれはわたしがしたそれとは全然違っていて、思わず息が止まりそうになる。
「みづ、き。待って、ん」
2回目って1回で終わりじゃないの!?
深月の言う2回目とやらを散々味わい尽くされたわたしは、ようやく解放された。
満足そうにわたしを見下ろす深月を、呆然と見つめる。
わたしの心臓、冗談抜きで壊れたかもしれない。
もう、ドキドキし過ぎて苦しいんだけど⋯⋯。
「朱莉顔真っ赤。可愛い」
「ねぇ、ほんとになんでぇ?」
「全部朱莉が悪いから」
だから、なんで!?
お願いだから、誰か説明して!?
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*同時連載*
【私が抱き枕になるまでを説明をいたします
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好感度メータが突如振り切れた!?そろそろわたしの心臓は爆発します! 佐久間 円 @enchan--
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