重力病トリアージ

逢原凪色

特効薬を探しています

人並みに生きる未来もあったかと

 悔やむは何も無い部屋 一人


戸には鍵 締め切った窓 浅い眠り

 明日も雨だとラジオが言ってる


気紛れに身体起こせど

 イヤホンのコードは首に絡まったまま


窓の外 微か聴こえるサイレンに

 患者はここだと叫びたくなる



制服の袖に隠した「つまらない」

 それがすべての始まりでした


心情を読み取ってみろと問われても

 進まないペン 賽の目は四


「大丈夫」 言い疲れたら花になる

 咲いたらあとは枯れていくだけ


心奥のマークシートを塗り潰す

 「どうでもいい」が口癖でした



本心は言わないことが誠実と

 履き違えてる愚かしさ 僕


知り得ないほうがいいことだってある

 学びと共に不信をも得る


新天地目指し飛び立つ若燕の

 姿見てさえ行く末を憂う


モニターの中の世界の清いこと

 暗転しても僕を映すな



ポケットに一枚限り残された

 病棟行きの片道切符


木漏れ日の庭に咲きたる鳳仙花の

 その実は じきに弾け飛んで死ぬ


治療には優先順位があるらしい

 笑える 「手遅れです」じゃなくてさ


灰被り 段ボール箱の仔犬より

 惨めになるなら何故生きている



片手間に 不本意ながら 仕方なく

 特効薬を探しています


雨乞えど夏待つ空は気紛れで

 僕のためには泣いてくれない


いつの間に 憧れていた日々を殺す

 黒の烙印つけられた手で


今もまだ未練がましく

 くしゃくしゃの診察券だけ握り締めてる

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重力病トリアージ 逢原凪色 @reruray2

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