第8話 「彼女」の正体
あいりが綾香の存在に気づいてから、
「綾香の近親者が、以前自分の行動範囲内にいて、自分のことを好きになってくれていたのを感じたことがある」
と思っていた。
あいりの日頃から言っている、「自論」を展開させた言い方だったが、そもそも、自論自体がよく分かりにくいものだけに、話の内容もいまいち分かりにくかった。特に綾香は一人っ子で、姉妹がいるわけではないので、近親者と言われても、ピンとこなかった。
確かに従姉妹はいるが、近所に住んでいるわけではなかった。あいりがどこか他の土地にいたことがあるのかと聞いてみたが、
「いいえ、私はこの土地から離れて暮らしたことはないわ」
と言われた。
従姉妹も、この近所で暮らしたこともなかったので、あいりの発想は違っていることになる。
それにしても、あいりは、あまり綾香のことをまだ何も知らないのに、よく自分を好きになってくれた人が、綾香の近親者だと分かったものだ。普通、分かるとすれば、自分を好きになってくれた人が、綾香のことを親近者だというか、逆に綾香が、近親者を指定できるかなのだが、綾香自身が、
「近親者はいない」
と言っているのだから、後者はないことになる。
ということは、あいりを好きになったその人が、綾香とあいりが同じ大学で学んでいるということを知っていて、あいりの素性を聞いた時に、綾香の話をしたのだろう。
それ以外には考えられないが、綾香の知らないところで、そんな話ができあがっていたなどと思うと、気持ち悪い。しかも、自分はその相手が誰なのか知らないのだ。一体誰だというのだろう?
これはあくまでも、妄想でしかないが、父親がかつて不倫をしていたということであるが、その父親が不倫相手のお腹に子供を宿し、本来であれば、堕胎してもらいたかったのだろうが、相手の女性が頑なに産むことを主張したのではないか。
その時、
「決して、このことは口外しない。私が一人で育てていく」
ということを言ったのかも知れない。
父親が認知しているのかどうかは知らないが、どちらにしても、もしそんな腹違いの姉妹がいたとすれば、かなり精神的にも苦労をしてきたことだろう。少なくとも、
「お父さんは、いないのかい?」
と言われただけで傷つくくらいである。
これくらいのことは子供であれば、普通に聞いてくることだ。それに耐えなければいけないくらいなので、もっともっと辛い思いはたくさんしていることだろう。
親の不倫が原因で、両親の仲がぎこちなくなり、結局離婚したという自分の家庭を、
「不幸な家庭だ」
と思っていたが、上には上がいるのかも知れないと思うと、
「比較すること自体が難しい」
と思うようになったのだ。
自分のような境遇で、人によっては、不幸のどん底というくらいに思っている人もいるかも知れない。小学生の頃に感じた思いだったら、トラウマとして残るかも知れないと思うくらいだ。
もっとも、あいりが、自分の近親者の話を持ちださなければ、こんな妄想も浮かばなかっただろう。
あいりの話もどこまで信じられるか怪しいもので、むしろ、
「あいりの妄想なんじゃないか?」
と思うくらいである。
妄想だと思う方が自然であるのが本当なのだろうが、綾香の中であいりの言葉を打ち消すことはできないくらいに、信じてしまっていた。
「あいりが、自分を好きになる女性のことはよく分かると言っていたが、あいりにはこの私のことがどのように見えているんだろう?」
と感じていた。
「あいりは、私があなたを好きだという風に見えているの?」
と聞くと、
「いいえ、そうじゃないわ。綾香さんが私のことを好きだとは思っていないと感じているわ。でも、私があなたを気になっているの。これは好きだとか欲情するとかいうそういうレベルではないの。そばにいるということだけで気になっているといえばいいのかしら?」
と、意味深な表現をしていた。
あいりとは、大学で同じクラスだということも、最近まで意識していないほどであったにも関わらず、あいりの方では綾香を気にしていた。
「あいりのこと、あまり知らなかったんだけど、こうやって話ができるようになると、なんだか懐かしさを感じるのよ。以前から何か知り合いだったような気がするの」
という思いを思わず、あいりにぶつけてみると、
「そうね、私も綾香さんのことを前から知っていたような気がするのよ」
というと、
「それは、あなたのいう私の親近者を知っているからということでなの?」
「ええ、それもあるわ。でもそれだけではないの。私のことを好きになってくれた人だけが、私の後ろに回って、後ろから見ることができる人なんだって思っていたんだけど、あなたは、私に興味を持ってくれていないのに、後ろから見れる人ではないように思うのよ。今までに私が知っている人の中にはいなかった人。そういう意味で、興味もあるし、私があなたを知る前から、あなたが私のことを知っていてくれていたんじゃないかって感じたの」
と、あいりはそう言った。
あいりは、じっと、綾香を見つめていた。その目線の先に自分がいるのだと綾香は感じたが、どこか違和感があった。
――あれ? あいりの目線は本当に私を捉えているのかしら?
という思いであった。
目の前にいる綾香を捉えているはずなのに、視線はずっとその先を見ているような感じがした。
あいりは、自分がクラゲのように、後ろから見つめられると、自分が透けて見えるということを分かっている。綾香も、あいりがいうように、後ろから見ている感覚があり、後ろから見ると、あいりが透けて見えるのが分かるのだ。
その透けて見えるその姿は、くらげのような軟体動物ではなく、昔でいうところの、
「ぜんまい仕掛け」
とでもいえばいいのか、カラクリ人形とでもいえばいいのか、絶えず動いていて、最近アンティークショップで見た、昔の柱時計を思い出していた。
その柱時計は、機械部分が透けて見えていて、絶えず、ぜんまいがまるで人間の心臓のように動いていたのだった。
「チックタック」
音が静かな部屋に共鳴していた。
しかし、その音は意識していれば、次第に大きくなって、耳から離れないのだが、意識しなければ、音が鳴っていることを感じることはできない。
「意識しているのに、見えていない感覚だ」
というと、少し語弊があるが、どう表現しても、ピタリと当て嵌まる言葉がなかった。
そう思うと、どこか落としどころがなければいけないだろう。それを思うと、この言葉が一番しっくりくるのだ。
だが、本当に自分が意識しているのだろうか? それが分からないだけに、やはり、柱時計の音は永遠に頭の中に残ることにはなるのだろうが、次第に意識としては、消えていくものだという矛盾した状況を頭の中で形成しているように思えて仕方がなかった。
「あいりが、自分のことを意識してくれているということは分かったが、それは、自分があいりの中で、他の女性とは違った何かを持っているということで、興味を持っているからだということだ」
と綾香は感じていたが、あいりに対して、自分がどうしても、好きだという感覚になれないのは、どこかあいりに対して気持ち悪さのようなものを持っているからなのではないだろうか。
あいりと綾香の関係は、どうしても、
「あいりが綾香を意識しているが、綾香の方は、そこまでは感じていない」
ということになるのであろうか。
さらに、あいりが綾香を意識する理由の一つに、
「自分の自論とは初めて違う相手が現れたことで、少なからずの動揺を抱いている」
という感覚になっているからであろうか。
どちらにしても、綾香はあいりにとって、無視しようにも無視できない、そんな関係になってしまったということは否めない。
綾香はあいりを見ていて、
「ぜんまい仕掛けのアンティークショップで見た中が透けて見えた柱時計のようだ」
と思っていることだろう。
あいりの視線は、目の前に見えているはずの綾香と、倫太郎の彼女の間で、お互いに、日になり影になりというイメージがあったからだ、
片方が表に出ている時は片方は隠れている。だから、二人はお互いの存在を知らないのではないかと思えたからだ。
だが、綾香には倫太郎の彼女の存在が見えていた、ただし、あいりを通してでないと見えていないのだ。だから、
「倫太郎の彼女は、あいりと何か関係がある女性なのではないか?」
と感じていたのだ。
あいりの方では、あやかと倫太郎の彼女に何か関係があると思えていて、お互いにその感覚が、ほぼ間違いないと思っていたのだった。
そのうちに、倫太郎がどれだけ彼女のことを好きなのかということが気になっているのはあいりの方になっていた。
あいりにとって、倫太郎という男は、自分が好きになる男ではないと思っていたのに、なぜか引かれてしまっている自分に気づいた。
「惹かれるのではなく、引かれる感覚」
だったのだ。
あいりには、自分が、
「クラゲなんだ」
という意識があった。
海の中で自由に泳ぎ回っているという感覚だったのだが、実際のクラゲは、自分で泳ごうとしてしまうと死んでしまう。だから、水流を利用して、浮き上がったりしなければいけないのだ。そういう意味で、クラゲとしては、何かを利用して生き残るという感覚は、「卑怯なコウモリ」のように、うまく立ち回って生き残ろうとしていたコウモリと似ているのかも知れない。
まわりから見ると、まったく共通点など見つけることのできないクラゲとコウモリであるが、冷静に考えると同じところは結構あるようだ。
それを最初に見出したのは、倫太郎だった。
綾香とあいりの、平行線のように交わることのない二人をいかにどの角度から見ることで、自分との距離を保とうから感じた時、
「倫太郎の彼女」
と言われるその女性を、自分に見立てて、二人には見せているような気がしていたのだ。二人には、
「倫太郎の彼女」
という女性は存在している。
しかし、まわりから見てそんな女性はどこにも存在せず、実際にもいなかった。
ただ、以前、倫太郎が付き合っていた女性の中に、一番親しい女性がいて、その女性が数か月前に自殺をしたということがあった。
彼女は倫太郎以外にも付き合っている人がいたようで、その人の存在は明らかになっていない。警察の方も一応は調べてみたが、やはり見つからなかった。
倫太郎も彼女の死に対して何らかの責任があるのではないかと言われ、調べられたが、実際に、彼女の死に関わっているということはないようだった。
その時の倫太郎は実に真面目で、彼女と付き合い始めてから、彼女以外と付き合うことをやめてしまったようだ。
「俺は、彼女だけを愛していくので、今後他の人を好きになることもないし、今までのように、他に女を作るなんてこと、もうしない」
と言っていた。
実際に、それまで関係があった女性たちともきっちりと別れたようだ。
その時にトラブルがあったわけではない。元々、倫太郎との関係は身体だけの関係で、お互いに束縛はしないという約束だったのだ。
当然、自分を含めた女性たちにも誰か一人を決めたのであれば、束縛をするようなことはしないという約束を交わしていた。
だが、その約束に従って、一人を愛したいと言い出したのが、倫太郎だっただけに、さすがに最初は皆ぎこちなかった。
「誰か一人が抜け駆けしたんじゃない?」
という話もあったくらいだが、実際にはそんなことはなかった。
あくまでも倫太郎が、これまでに感じたことのない感情を、初めて新鮮に受け入れたのだ。
「皆には悪いと思うが、一抜けさせてもらいたい」
と倫太郎がいうと、皆、
「約束だから」
と渋々別れることになった。
というよりも、解散と言った方がいいかも知れない。
その人だけを必死に愛していくことに決めた理由は、その女性に今までに感じたことのない種類の癒しを感じたからだった。母性に近い愛ではあるが、微妙に違う、裸になっている姿を想像しようとすると、身体が透けて、向こうが見えているようだ。透けている向こうに見えている光景が、最初から分かっていて見えているような感覚だ。
「人間の身体が透けて見えるはずがない」
と思いながらも、その状態を見ていると、
「水の中にいて自由に泳いでいるクラゲ」
を想像した。
しかし、クラゲが自由に泳ぐということが自分の寿命を縮めていると考えると、この想像は実に酷なことであった。
彼女が次第に弱っていくのを何となく感じていた。
「大丈夫かい?」
と聞いても、
「ええ、大丈夫よ」
としか聴かない。
もっと気遣える男性であれば、無理にでも病院に連れて行こうというくらいのことがあってもいいのだろうが、倫太郎は、
「それならいいんだけど、体調が悪くなれば、ちゃんと言ってくれよ」
というだけだった。
彼女も、病院に行くことは嫌がったこともあって、あまり強く言えない自分が、どうしてそんなに引っ込み思案なのか、考えざるおえなかった。
「ひょっとすると、彼女が短命ではないかと感じたから、他の女性と別れてでも、彼女と一緒にいたいと思ったのだろうか?」
と感じた。
そして、その間は、彼女のいうことをできるだけ叶えてやろうと思ったこともあって病院に連れて行くこともしなかったのだ。
彼女に対して、クラゲのように透き通った身体を見ていると、自分も水の中を泳いでいる気がしてきた。だが、自分は自力では泳げない。泳ごうにもその力もなければ、その術も分からない。
クラゲと同じように、水流に流されて漂っているだけだ。
だが、その場所は水流などなかった。目いっぱいに水に包まれていて、元来真っ暗なはずなのに、なぜか照明がついていて、光で水が光って見えた。
そこは、非常に狭い場所だった。自分が一人漂うだけの十分な広さしかなく、、身動きすらできない状態であった。
手も足も動かすことはできない。身体を丸めて、まるで冬眠でもしているかのようだった。
目も開いていないのに、見えている。光っているものも分かっているが、理解できているのかどうなのか分かるはずもなかった。
「どうして流れがないんだろう?」
そもそも、思考回路など備わっているわけではないのに、どこで誰がそれを感じているのだろう。
いや、それは自分が考えているわけではなく、遠くの方から聞こえた声がそう言っているのだった。
その声は、明らかに女性の声で聞き覚えのある声だった。
「そうだ、今俺が一人に絞って付き合おうとしている彼女の声ではないか」
と感じた。
倫太郎は今見ているものを夢だと思っているのだが、夢の中で、彼女が、しかも声だけで姿が見えないというのもおかしな感じだった。
彼女のことを思い出してみようと思ったが、どんな顔だったのか、思い出すことすらできなかった。
ただ、声だけは覚えていて、その覚えている声が聞こえてきたのだった。
水流が存在しないその場所は、どこかの水槽の中のような気がしたが、誰かが水槽を覗き込んでいた。どこかで見たという感覚もあったのだが、思い出せなかった。それを思い出すことができたのは、彼女がいなくなってから、しばらくして、あいりや綾香と知り合ってからのことだった。
その覗き込んでいたのが、あいりだということを、倫太郎が気付くまで、すぐのことだった。
あれは、いつかの夢で見たのを思い出したのだが、綾香がアルプスの少女ハイジに出てくるような山の中での高原の家の前で遊んでいる時、ちょうど羊飼いの少年のところにある羊が逃げ出した、そして、羊は自分たちの領域である、牧場に戻ったのだが、綾香と羊飼いの少年が走ってそこまでやってくると、山の向こうから一人の巨人がこちらを覗き込んでいた。
「うわっ」
と、少年は叫んだが、綾香は微動だにできなかった。
踏み出そうとするのだが、綾香はその巨人に見つめられて動くことができない。その巨人というのは女性で、見覚えのない人だった。
その女性はまったく表情を変えることもなく、綾香だけを見つめていた。お互いに緊張で時間だけが過ぎていく。
「この人も、身動きができないんだろうか?」
彼女の無表情さが不気味だった。
だが、よく考えてみれば、綾香もその時、自分が無表情であることを自覚していた。顔も緊張していて、表情を作ることができないのだ。
そう思うと、巨大な女性も怯えているが、顔が硬直してしまって、動かすことができないのかも知れない。それを思うと、お互いに同じ立場であることを理解した。
すると、綾香は今度、自分が相手の巨大女性の目になっていることに気が付いた。
まるで、箱庭のような中を覗き込んでいて、中にいる人を見ている。女の子なので、ちょうどイメージとしてはドールハウスのような感じであろうか、その中に模型のような家や山、そして高原が広がっていた。
そこには無数の羊の模型と、男の子と女の子の模型があった。上から見ていると、皆模型なのだが、女の子だけが動いているのだ。まるで虫のようであり、ちょこまかしていて、女の子なら気持ち悪いと思うだろう。
「こんな風に見えていたんだ」
と思うと、あの時は夢から覚めた気がした。
今思えばあの夢に出てきた女性は、あいりだったのではないかと思えてならない。
そして一緒にいた男の子は倫太郎を子供にしたのを想像した姿だったのではないかと思うと、おかしな感覚になってきた。
綾香がそんなことを考えているのと同時刻に、倫太郎は、水流の中にいた。そこがどこなのか、次第に理解できるようになってきた気がするのだが、そこは、どうやら、母親の胎内であり、水中だと思ったのは、羊水に浸かっているからだろう。
綾香が、アルプスの高原で、羊飼いの男の子を、小さい頃の倫太郎だと思って見ていたのも、あながち偶然ではないかも知れない。
綾香の夢の中にいた倫太郎が、さらに生まれる前の胎児になって、まだ母親の胎内にいる感覚を持っていたのだ。
身体は小さく、意識があるはずのない母親の胎内であったが、倫太郎の意識はすでに大人になっていた。
羊水の中でクラゲのように蠢いているあいりの姿を追いかけている倫太郎。そして、あ倫太郎の母親というのは、倫太郎の彼女であった。
倫太郎が彼女の胎内にいると思ったのは、自分の子供を彼女が宿したからで、そのことを倫太郎は、彼女よりも先に分かっていて、羊水に浸かっているような癒しを、彼女がいつも与えてくれていたことを思い出すと、イメージとして胎内を想像したのではないだろうか。
そんな彼女の胎内で泳いでいたあいりは、今まで出会った女性の中で一番自分を好きだったのは、倫太郎の彼女ではないかと思った。だから、二人には幸せになってもらいたい。彼女がどういう人なのかを知っているあいりは、それを綾香に教えなければいけないと考えていた。
まずは、倫太郎に、彼女の素晴らしさを教えて、これから、綾香に倫太郎を諦めさせるように仕向けなければいけない。
彼女というのは、名前を綾乃と言った。実は、綾香の腹違いの姉であった。
父親の不倫は、綾香が生まれる前から続いていて、密かに綾乃が生まれていた。
綾乃は自分の妹が綾香であることは知っている。最初は、
「綾香に倫太郎を譲ろう」
とも考えたが、倫太郎の気持ちも考えずに勝手に決めることはできないと思った。
そこで、あいりに相談し、いかに、綾香を諦めさせるかを考えた。
「倫太郎さんと綾香に、幻影を見せるようにすればいいのよ。その役は私がやるわ」
と言った。
これが、彼女の「クラゲ」と言われる本当の力だった。
まわりからの力がなければ生きていくことはできないが、自分の力をまわりに与えることができるという能力を持っていた。
これは、超能力の一種だが、本当は皆が持っている。しかし、超能力は持っていても、それをいかに活用できるかということは、一部の人間にしかできない。
なぜなら、
「自分にはできっこない」
と初めから決めてかかるからだった、
それをあいりは、克服し、まわりの人に与えることができる。あいりにとっては、
「共存共栄」
ができなければ、生きていくことができないのだ。
そんなあいりを、綾香はすぐに許すことができた。むしろ、あいりに感謝している。失恋であっても、ほとんど傷つくことがなかったこと。そして、欲しかった姉ができたこと。姉から、与えられる癒しは、あいりによって、倫太郎に見せたような、羊水に浸かった癒しを今度はあいり本人が見せることになる、その前兆が、あの時のアルプスの箱庭で見た光景だったのだ。
綾乃は倫太郎の子を無事に産み、そして、幸せな結婚生活に入った。
綾香とあいりは、
「コウモリとクラゲ」
として、つかず離れずの一番いい関係を、今後も続けていくことになるのであった……。
( 完 )
クラゲとコウモリ 森本 晃次 @kakku
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