#32 返却されたもの

皆さんお久しぶりです。更新が遅れてしまいもうしわけございません。

ここ数か月、忙しくしていたのが1つ、そしてもう1つは過去編とかこのストーリーの設定練ってたりとかしていたら年越してました。本当にすみません。

今年も書き上げ次第ドンドン更新していこうと思いますのでよろしくお願いします。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ベイルは風呂を堪能した後、シャロンが交代で風呂に入る。同年代の女子が自分の近くで一糸まとわぬ姿と考えるとどうしても興奮してやまないベイルは全力で考えないようにしていた。そう、考えないようにしていたが、どうしても思考はそういう風に考えてしまう。特にシャロンは女性的特徴が成長している事もあるが、ベイルとしては色々と思う事があった。

 その時、ドアがノックされるのでメイドが応対する。ドアの向こうからメルが現れてベイルが驚いていた。


「ベイル様!」


 ベイルの姿を確認するとメルはベイルの方にダッシュして抱き着く。メルの髪は少し湿っている上、シャンプーの良い匂いがベイルの鼻を刺激する。豊満な胸がベイルの身体に当たっている事で一瞬理性が崩壊しかけたが、ベイルは理性を抑え込んだ。


「ベイル様? 大丈夫ですか?」

「あ、うん。大丈夫」


 目のハイライトが完全に消えているベイルを見て、メルは本気で驚いている。


「本当に大丈夫ですか? とても辛そうですが?」

「その辛いのはあくまで彼の理性が崩壊しかけているだけで、あなたが離れればかなり楽になると思うわよ」


 シャロンがキャミソール姿でドアを開けて姿を見せる。声がした事でベイルがそっちを向いてしまった事でもろに見てしまい、興奮した。


(いや、ちょっと待て。何で俺、興奮しているんだ……?)


 これまでベイルは色々なものに例えて理性の崩壊を防いできた。だが何故か、この部屋で目を覚ました事でベイルの理性は崩壊しやすくなっていた。

 シャロンがベイルに近付いて舌を入れる程の濃厚なキスをすると、ベイルはより興奮しやすくなっている。


「ねぇベイル、お願いがあるの」

「何だ?」

「私たち2人をケダモノのように、一生あなたの奴隷になると誓える程の刻印を刻んで欲しいの」

「お願いします、ベイル様。私も、殿下と共に……」


 ベイルはそのまま2人を無理矢理引っ張り、それぞれをベッドに押し倒した。2人はようやくベイルと関係を持てると思っていると、ベイルは2人に手を出すかと思われたが、空中から札を出して空に投げる。


「吸」


 そう唱えると札に「吸」という文字が現れて空間内にある空気を吸い始める。ベイルはその筋を辿り、隠されている物を見つけた。


「あ、それは――」

「安心しろ。中身だけもらう」


 お香台の中に触れると、中身だけ完全に無くなった。


「さて、どういうことか説明してもらおうか?」


 するとメイドが全員ベイルに対して戦闘態勢を取った。ベイルが睨みつけたからとはいえ、流石に許容できる事は無いのだろう。だが、ベイルが本気で睨んだ時、彼女たちはまるで腰が抜けたかのようにそのまま座り込む。


「さ、流石はベイル。あ、彼女たちに対する無礼は私が身体で謝罪を――」

「お前の場合はそれが目的だろ」

「もちろん」


 詫びれもせず、自信満々に答えたシャロンにベイルは頭が痛くなった。


(黙っていれば綺麗なのに、言動が色々と残念……)


 そんな事を思うベイルだがシャロンはそれ以外の思考は無い。

 気が付けば先程の興奮状態では無くなっているが、それでもシャロンとメルの格好がエロくなくなったかと言われれば別だ。いつの間にかベッドのシーツは綺麗になっている事に気付いたベイルは同情的な視線をメイドらに向ける。


「とりあえず俺は別の場所で寝ることにする――」

「でも今のあなたの寝れる場所ってここぐらいしかないわよ? 従者用の部屋はたくさんあるけど、みんな少しでも給金が良い場所で働きたいと思うから他に開いている部屋なんてないし」

「別に俺はどこでも――」

「それに、メルの今後の事も知りたいでしょ?」


 そう言われてベイルは大人しく椅子を引き寄せてそこに座った。


「聞こうか」

「あ、みんなはもう大丈夫から部屋を出てくれないかしら?」


 シャロンに言われてメイドは全員外に出ていく。人払いが完了した後、ベイルが空気を読んで黒い結界を展開した。


「ありがとう」

「万が一、ここを監視している奴もいるかもしれないしな」

「ええ。実際周りはあなたの動向を知りたいって人も多いしね」

「物好きな奴だ」

「当然の事よ。理由はどうあれあなたは私と結婚する事が確定している。そして私もそれに関しては大賛成。興奮剤まで使ってあなたとの子どもを妊娠したいと考えたのはそれが原因よ」

「政略結婚って奴か? だとしたらごめんだ――」

「もう、何言ってるの? 状況はどうあれ、絶体絶命のピンチで助けてくれた男の子に惚れない女の子なんて、相手がよほどブサイクじゃなければいないわよ。あと、私は今すぐあなたと1つになりたいわ」

「そ、それは熱烈すぎるアプローチだな……」


 ベイルが本気で怯むが、シャロンはそれすらも可愛いと思ってしまいベイルを腕の中に囲う。薄い布切れ1枚だけで、ほとんど柔肌が直接感じれる状態でベイルは動揺と興奮しないわけがなかった。その証に触れたシャロンは逆に証を挟み、ますますベイルを追い詰める。メルもそれに倣ってベイルに抱き着いた。


「そういえば、何か話があるんじゃなかったか?」

「そうね。じゃあまず私から」


 ベイルによる深く抱き着くが、ベイルがなんとかして引き剥がすので仕方なく1度離れてベイルをベッドに押し倒した。


「あの、話をするんじゃ――」

「でも今日からは私と一緒に寝てもらうわ。当然、メルとも一緒よ。まぁ、本当は序列というのもあるから私を妊娠させてから、というのはあるけどね」

「いや、何で妊娠の順番が決まってるのさ。というか俺があんたと結婚するのは確定?」

「あ、形だけよ?」

「……いや、それは」


 あまり良い気がしないのかベイルは表情を曇らせた。


「実際は私たちが毎日あなたに奉仕するから――」

「あ、そっち? いや、それはそれで困るというか……」

「でも少なくとも私はそのつもりよ? 今も求められたら応じるつもりだし」

「それは……」


 シャロンは困った顔をするベイルを見て今度は短くキスをした。


「まぁ、ここからは本題。まずはエクランド家は没落。当主のオービスが戦時中にあるにも関わらず、その相手である魔族と繋がり、反逆を起こした事を理由にね」


 真剣な顔をしてベイルにそう告げる。


「こいつを殺す気は?」

「対外的には既に死亡扱い。でもここで通称の方でパーソナルカードを登録した事が功を奏したわ。彼女は正式に「メル」として登録されているから無関係。本物のメレディス・エクランドはあなたがエクランド邸で独自で救助活動を行っていた時に死体が発見されたと証言した事になっているから」


 それを聞いてベイルは心からホッとする。その様子を見てシャロンは嫉妬してベイルの右手を自分の胸に挟むとベイルは心から嫌そうにするわけでは無く、顔を赤くして離れたいけど力が入っていないベイルの様を楽しんだ。


「それと、エクランド派に所属していた貴族たちは徹底的に洗い、場合によっては処断や降格、酷ければ処刑ということもありえるわ」

「また貴族が減るな」

「そうね。私としては嬉しいわ。思い上がったベイルを騙るゴミが減ると思ったら、本当にもう」


 一体何があったのかとベイルは疑問を抱いたのを見抜いたのか、シャロンは話しを始める。


「あなたがいなくなってから、あなたの名前を騙る奴が多かったからイラついて我こそはって人たちを集めて親諸共処分しようとしたの」

「そりゃあ向こうは激怒しただろうな」

「そうね。自分たちの子どもが死にかけたんだからそりゃあ文句が言う人が多かったわよ。でも本物のベイルって毒は一切効かないのよね」

「……あぁ。最適な判別方法だな、それ」


 そう言いながらもベイルは内心驚いている。何故自分に毒が利かないのを知っているのか、と。


「それにそもそもベイルは権力に1mmも反応を示さないのにね」

「そりゃそうだろ。権力なんて所詮は雑魚が行使する為のもの。暴力を前にしたら平伏すしかない」

「流石はベイル」


 シャロンは笑顔になったことでベイルは安堵するが、未だに自分の手を離さない事に少し涙する。


「あー、シャロンさん? そろそろ手を放してくれません?」

「わかったわ。その代わり、今日は私とくっついて、私に何もされても文句を言わない事」

「殺害と性交以外は別に良いけど」


 ベイルが顔を赤くしながら言うとシャロンは少し考えてポツリと漏らす。


「あ、でも私が殺そうとしてベイルに「このゴミが」って罵倒されながら姦通されるのもアリね」

「全力で止めてくれ」


 本気で困った顔をするベイルにシャロンは笑う。ちなみにメルは既にベイルに抱き着いた状態で寝ていた。




 ベイルも寝た後、ベイルに抱き着いていたシャロンは何度もベイルの肌を甘噛みしながら舐めていた。彼女は特殊な訓練を受けたわけじゃない。だが心からベイルという特殊過ぎる存在が好きすぎて興奮が抑えられないのだ。

 下世話な話だが、シャロンがベイルに言った事はすべて本音だ。姦通される事も、それによって自分がベイルの玩具に成り下がるのも彼女が今もっとも求める事だった。それでもこうなる事は想定内でもあった。

 ベイルに自分の記憶が無いと聞いた時は確かにショックは隠せなかったが、それでも自分の直感が告げていたのだ。彼こそがベイル・ヒドゥーブルであり、かつて自分を癒し、婚姻を求められても身体の成長を理由に拒否し、それでも可能な限り自分と一緒にいてくれた存在だと。


(はぁ……はぁ……ベイルったらおいしい……ちゃんと私たちを味わったら妹も提供するからね……)


 鼻息を荒くしてベイルにマーキングを続けるシャロン。そんな行動をしていればベイルならば気が付くだろうが、魔力を高め過ぎた弊害でもあるが、ベイルは基本的にグッスリと寝るのでこういうのは気付かないタイプだったりする。




 あれから数日後、ベイルは王宮内を移動していた。ベイルを見て貴族たちが驚き、関わらない為に道を空けていくが同時にベイルは冷や汗を流していた。


(やっぱり俺、ここに来たことがある……気がする)


 王宮を歩いたことがあるなど信じられないベイルは段々と顔を青くする。そしてしばらくすると目的の場所に着いたが、目の前に兵士が2人いた。


「ん? お前は……」

「ここにこの国のボスがいるって事で良いのか?」

「そうだが、誰だお前は?」

「ベイル」


 名乗るとすぐにギョッとした顔になる2人。まさかこんなところで学園の問題児が現れるとは思わなかったのだろうとベイルは予想するが、実際は国の問題児だ。


「ま、待て。すぐに陛下に取り次ぐ。少し待っていてくれ」

「ああ」


 それくらいするんだが。そう思っていると兵士が慌てて中に入ると兵士を伴ってウォーレンが顔を見せる。


「ベイル君。久しぶりだな」

「…………はぁ」


 盛大にため息を吐くベイル。その対応は不敬に当たるが、すぐにベイルが弁明を始めた。


「いや、すまん。こうも俺の事を知っている人間が多いと思う事があってな。俺は知らないはずなのに何故か王宮の道を知っているし」

「そりゃそうだ。10歳の頃から君はここに実質暮らしているからな」

「…………」

「あ、ちゃんと希望する時は家に戻していたぞ? と言っても君がホームシックになる事は少なかったが」

「そりゃあ、10歳と言えば大体親に甘える事は無いしな。この王宮ならキレイ所が揃っているだろうし」

「確かな。まぁ、とにかく中に入れ」


 言われてベイルは中に入ると同時に不思議に思っていた。


「まぁ、タイミングが良かった。こちらとしてもそろそろ休憩をしたいと思っていたのでね」

「そうか」


 ウォーレンが座るとベイルも着席すると同時に尋ねた。


「怒らないんだな」

「何がだ?」

「いや、今の俺は不敬のオンパレードだ。普通なら首を刎ねるように言うんじゃないのか?」

「そう思うなら直せよ」


 そう言われたがベイルはとてもじゃないが直す気になれなかった。


「まぁ、君の場合は今更だ。それに今更直されてもこっちも困るしな」

「そうか」

「で、何の用だ。どうせなら他愛のない話でも――」


 ベイルが空中から金貨が入った袋を出してローテーブルの上に置く。


「ん? これは?」

「おそらく大公家の運営費」

「……えっと、君がどうして……」

「流石に領土の運営費に手を出す気は……いや、手を出したが収入が入ってからちゃんと戻しておいた。こういうのはネコババすると困るのは領主じゃなくて領民だからな。流石にそれくらいの分別が付くさ」


 元々これは爆破して消えると面倒になると思ったので回収していたものだが、ベイルはついに大公家に返す事は無かった。だが流石に運営費を使用する気にはなれなかったのでこうしてウォーレンに返しに来たということだ。


「ネコババもできただろうに」

「金ぐらい冒険者をしていれば殲滅戦でいくらでも稼げるし、俺の場合は魔力が衰えない限りくいっぱぐれることはないからな」

「ん? どういうことだ?」

「まぁ、流石にそれ以上は言うつもりは無い」


 ベイルの用は済んだのか、立ち上がろうとするのをウォーレンが止めた。


「待て。こちらも話がある」

「何だ?」

「君がこの前確保した戦闘艦の事だ」

「あぁ、魔族の。アレに関してはまだ解析中だ。それが終われば渡すぐらいするさ。どうやらこの国は俺の出身地のようだからな」

「解析中だと? 一体どこで――」


 ウォーレンの言葉に反応したベイルは笑みを作る。


「教えねえよ。あんただって秘密の1つや2つ、あるだろ? それと同じだ」

「いや、王の秘密と君の秘密はかなり差があると思うが……渡すというのは本当か?」

「ああ、解析、複製が済めば用は無い。せっかく自由になったから、記憶を取り戻すまではしばらくこの国に滞在――」

「ん? シャロンから聞いていないのか?」

「何がだ?」

「君の復学はほとんど決まっているぞ」


 ベイルは完全に停止したのをウォーレンは思わず笑ってしまう。


「あとは君が復学するにあたり、色々と制限が設けられるからそれを決めているところだろうが」

「おいおい、冗談だよな? 俺が、復学?」

「当然だ。君が他の国に行かれたら困るからな。あ、君の卒業後の進路は記憶の有無に関わらずエクランド家の土地をそのまま治めてもらう事になっている。ちなみに爵位は大公だ」

「ふざけるな! いや、本当にふざけるなよ! 何で俺が大公⁉」

「シャロンを始め、すべての王女が君の嫁になるのだから当然だろう」


 そう言われてベイルはなんとも言えない顔をする。


「落ち着けオッサン。俺が大公とかあり得ないから。あと、シャロンが俺と結婚とか本気で――」

「むしろ私はさっさとシャロンを妊娠させてくれと思うがね。全く、君は相変わらずヘタレだな」

「ヘタレで悪かったな。というか俺はむしろヘタレで良いと思うがね。だってそうだろう? 子どもを無責任に作って、もしそれで財政難になったらどうするんだよ! いや、俺はならないけど!」

「だったら別に子どもを作っても良いだろ」


 ベイルはとうとう反論できなくなった。


「これで私の勝ちだな」


 勝ち誇った顔をするウォーレン。だがベイルはある事を思いついた。


「あ、学園生活」

「甘いな。私の娘が学園生活如きに精を出して、友人を作る奴だと思ったか? むしろアイツはお前が見つかってから「絶対に子どもを作る」とありとあらゆる手段を用いているからな」

「むしろ学園生活を謳歌しろよ」

「いやぁ、無理だろ。貴族共にしてみればシャロンとのコネができればそれでこそ王女とのコネができるようなものだしな」

「コネ……?」

「ああ。もし一介の令嬢が王家とコネを持てるという事はそれだけでアドバンテージを取れる。展開によってはその集団のボス的存在になれるわけだ」


 しかしベイルは展開が理解できないのかひたすら頭を悩ませていた。


「どうした? まるで今の発言に問題があると言いたそうな顔をしているが」

「ああ。だって今の展開、色々とおかしいだろ。王女との関係ができただけで集団のボス的に存在になれる事が良いみたいな言い方しているけど、どう考えても集団のボスって面倒じゃん」

「…………ん?」

「だってそのままで行くと、要は配下というか足手纏いが増えてしまうだけだろ? そんなだったら俺はいらないな」

「…………」


 ――そういう話しじゃないんだが⁉


 思わずそう叫びそうになったウォーレン。ベイルが理解に及んでいない間にベイルはある事を思い出した。


「というか、親のあんたは娘の結婚相手が俺で良いのかよ。悪いが俺は、あんたの娘が抱く理想よりも大分離れているし、何より本当にあのベイル・ヒドゥーブルだと断言できる要素は無いだろうし――」

「――いいや、君は確かに私の弟だ」


 後ろから声をかけられてベイルは動揺を見せる事は無かった。


「久しぶり、というのも変な話かな」

「…………なるほど。確かに――」


 部屋の中がまるで地震が起こったかのように揺れ始める。震源地が目の前というのはウォーレンにとって恐怖そのものでしかない。


「あー! そこまで! そこまでにしてくれ!」

「ご安心を、陛下。流石にここで暴れませんよ」

「…………」


 柄まで出していた自分の剣をそのまま戻すベイル。視線がベイルに集中してその場は止まる。


「ところで、何で俺があんたの弟だと思ったんだ?」

「顔とかも似ているし、なにより君から発せられている魔の波動だよ。それがかつてここにいた弟と同じだから。そしてなにより、この国……いや、この世界にそこまでの練度が高く生身で戦えるのって実は数少ないんだよ。それこそ、あそこまで魔力を解放して戦える人間なんてそれこそ、数少ないし」

「努力不足だろ?」

「というよりも、私たちヒドゥーブル家が特殊すぎるだけで人間はどれだけ努力してもそこまで伸びないみたいだ。君の友人なんてそれこそ稀中の稀」

「つまり生かさず殺さず鍛えておけば、いずれ俺をもっと楽しませる存在になってくれるわけか」

「いや、言い方」


 ウォーレンは思わず突っ込んでしまうが、ベイルは本気で言っているようだ。


「仕方ないだろ。今の所俺とまともに戦える人類種はあのオッサンともう1人ぐらいだ。後は……」


 そこまで言ったベイルは言葉を途中で切る。


「どうした?」

「……いや、なんでもない」


 それだけ言ってベイルは沈黙する。こんな事は珍しく、何かを隠している事を察した2人は真剣な顔をした。


「まさかと思うが、カリン嬢やメル嬢以外に他に女がいる、とは言わないだろうな?」

「…………いや、流石にそれは無い」

「へぇ。その割に返答が遅かったけど?」

「懐かれていただけだ」


 そう返したベイルだがユーグは内心弄るネタをゲットしたと思っていたが、ウォーレンの方はそうじゃない。


(……いや、シャロンの事だから上手くやる、か)


 そう結論付けたがベイルはふと思う。何故カリンの名前が出たのか、と。




 その少し後、授業をおえたサイラスが王宮の地下にあるある一室に顔を出す。サイラスの姿を見た研究たちがビシッと背筋を正すが、サイラスは無視してある目的の場所を向かう。

 目的の場所のドアを開くと、そこには灰銀の機体があった。


「これは……」

「HR-X0[シグルド]。あなたが注文した機体よ」


 声がした方を向いたサイラスだが、向いた瞬間後悔する。


「ポーラ・ヒドゥーブル。進捗を話せ」

「9割方完成済。後はあなたとの同調調整を済ませたら慣らし運転よ」


 同調調整とは、ジーマノイドに乗る為に必要な措置だ。というのもジーマノイドに付いているソートアナライズシステムは量産機であろうとできるだけ本人の思考パターンを反映させる為に行う処置だ。だがサイラスの環境は伊達では無く、既にある程度の経験は蓄積されている。


「よくやった、ポーラ。お前がいざという時は助けてやる」

「……それじゃあまるで私がピンチになるみたいね」

「ああ。当然だ。私がこの機体を手にすれば、お前たちヒドゥーブル家などどうとでもなる」


 そう宣言するサイラス。だがポーラはどうでも良さげにサイラスに長方形の何かを渡した。


「これは?」

「シグルドを起動させる認証キーよ。あなたのは特別私の技術を搭載しておいたから特別に。弟みたいなチート野郎が奪ったりするかもしれないし。あ、使うなら5番訓練場を抑えておいたからそちらを使いなさい」

「わかった」


 それだけ言ってシグルドに続く廊下を歩いていく。だがポーラはそのまま無視してそのまま放置し、シャワーを浴びた後にベッドに入った。というのも彼女は急遽サイラスに新型を準備するように言われてこれまでずっと開発していたのである。5徹したことで心身ともに限界を迎え、今度あのクソガキ見たら蹴り飛ばそうと考えつつそのまま寝た。この一族は本当に不敬である。



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