もどれない海
椎田ヨウ
もどれない海
でもきっとうつくしかった
塗り残しだらけの春を好き勝手塗る
ほしい物リストの一生カートには入れないパニエにうもれてねむる
小瓶入りスパンコールを眺めてるわたしを眺める 透明な壁
押し入れに没収されたビー玉は触れないかぎりきらめき続ける
あの夏の花火の余りもう湿気って咲かないだろう、もどれない海
「髪 早く伸ばす 方法」毎日は祈りに満ちて溺れかけてた
アルバムに夏と検索すればまだ余白の多い友だちの眉
バスの時間見るためだけに撮っといた写真がこんなにきれいで困る
指さした先にはたしかウミネコがいたはず
写真の外側をなぞる
さみしいねぇむなしいねぇと言い合えば満ち足りて弾む観覧車
水平線は全人類が目指すべきゴールじゃなかった ダサいクロール
井戸だって嘆いてたのは浴槽で満ちていたのはカフェオレでした
あっけなく夕日は沈みセブンティーンアイスのフタを舐めている
あと5年こどもでいたい、そうめんを流してあげる方には行けない
思ってた情景とちがう挿絵みたいにがっかりするよ、これからもっと
だいじょうぶのフリをしている
入社日の蕎麦屋での足の痺れみたいに
気まぐれに香りを楽しむだけだったハンドクリームに求める効能
日の長さが夏の盛りに比例しないように老いてく身体ばかりが
正常な日々の証に沈む日と熾火のように燃え続く雲
脈ひとつ打つたびに海
新しい光の欠片をまとって生まれる
もどれない海 椎田ヨウ @hitsujiniarazu
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