武器を整えよう(あまり目立たない)

「そういうわけで、武器と防具が欲しいんだけど」

「いくらでも生成できるじゃないですか」

「潜入する、ということを考えるとプレイヤーからのドロップ品は普及品と判断していいからそっちがいい」


 リリエル達はマナを消費してアイテムを生成することはできる。カナタに渡した水のボトルや刀がその例だ。


 だが、潜入のために目立たない装備がよいということを考えると、プレイヤーが戦闘不能になったときにインベントリからドロップした装備のほうがよかった。マナプラネットオンラインでは、プレイヤーは戦闘不能になったときに手持ちのアイテムの中から重要でないアイテムをランダムにドロップしてしまう。重要なアイテムは装備中のアイテム、「大事なもの」として保護してあるアイテム、イベントのキーアイテムのほとんどが該当するので、それ以外の消費アイテムや予備の武器や防具がドロップすることになる。


 プレイヤーは当然強いアイテムや入手が困難なレアアイテムのほうから重要なアイテム扱いにしているが、それでも店売りの中では最高の武器などいい装備はドロップしていた。そしてドロップしたということは店売り品なら普及帯で入手元が特定されないと見なして問題ない。


 逆に、まさか、普段リリエルが使っている〈宵闇雪月花〉やシズクの持っている〈M0450アイスロッド〉を持っていくわけにはいかない。どちらもゲーム内に1つしか存在しないユニークな装備なので、自分が誰かを名乗っているのも同然になる。



 リリエル達はプレイヤーからドロップしたアイテムをある程度プールして、溜まってきたら在庫の97%程度をマナに還元して活動用のリソースにしていた。残りの3%とはいえ、シズクが管理している在庫は結構な数になる。そのリストをリリエルは上から順に眺めだした。


「やっぱりSFデザインのものが多いな」

「NPCが売ってるものをプレイヤーがとりあえず買ってそれがドロップしてますからね。いいものを優先して残してはいるんですが」

「そうだよな」


 プレイヤーの持っているアイテムは主にNPCの店売り品とプレイヤーがスキルで作るクラフト品に分かれる。人族のNPCの店売り品は、このゲームがSFなので、SFデザインのものが多かった。それに対してプレイヤーのクラフト品は、プレイヤーの好みなのかファンタジー風のもの(ただし和洋中含めバリエーションはある)の方が多い。


 そして、プレイヤーは多くの場合クラフト品は大事なもの枠にいれたり装備したりしているので、ドロップするファンタジー風のものの割合は当然低くなるわけだ。逆にお金で同じ品質のものが買える店売り品を保護するプレイヤーは相対的に少ない。


「SFデザインは嫌いですか?」

「ファッションやデザインの学習はどうしても優先順位を割けなくてね。結果としてファンタジー系の古典的なデザインも十分な学習ができていないし、SFデザインに至ってはもっとだめだ。苦手というより人間がいいと思うデザインというのがよくわからない」

「とはいえプレイヤーの振りをするなら普及しているSFデザインの武器防具からは逃げられないのでは。万が一クラフト品を持って行って足がつくと問題ですし」

「うん。プレイヤーのクラフト品は必要になったら情報収集もかねて現地調達するのがよさそうだ」


 そう言ってまたリストを眺めだして、とりあえず一振りの片刃で刀身の薄い1本の直剣、アイテムとしての名前は〈C32Fリニアブレード〉、を取り出してみる。ステータスを確認すると、最高級品というわけではないが、最前線で使っていてもおかしくはない品質で、使われている素材も一般的な高エーテル合金鋼だ。鍔もない柄にシンプルな直剣で、黒い鞘もワンポイントで持ち手の側に青い線が1本入っているだけだ。


「物自体は悪くないし、こういうシンプルなものならいいんだけどね」

「確かに意味不明な突起のついた剣とかは理解できないですね……マナで光るのはまだ理解できなくはないですが」

「あれ痛いんだよね」


 このマナプラネットオンラインの武器には、マナを通すことで光の刃を形成することができる武器もある。たとえば剣なら刃のふちがマナで光ったり、あるいは金属の刃の外に光刃が形成されたりする。また、こういう武器の極致にあるのがマナブレードで、そもそも金属の刃がないただの筒から放出されたマナが刃を形成する。


 こういうマナ系の武器は攻撃属性が物理からマナになったり、あるいは弱点属性(リリエル達だと火属性がとても痛い)をつくようになったり、射程が変わったりで、警戒度の高い武器といえた。


 リリエルは取り出した剣を矯めつ眇めつした後、ふと思いついたように、今度は自分のインベントリから青林檎を取り出して上向きに放り投げた。青林檎が天井に届くか届かないところで、シズクにすら抜く手も見せずに剣を振るって――そして落ちてきた青林檎を左手で受け止めた。受け止めた青林檎は形を保ったまま落ちてきたように見えて、きれいに四等分になっていた。


「これでいいか。必要になったら現地でプレイヤーに作ってもらうことにしよう」

「天井付近で切ったのだけはわかるんですが、明らかに剣の長さ足りてませんでしたよね?」

「どちらかと言えば手品に近いからな。食べる?」

「貰いますが……」

「他も見てみるか、ってマナブレードもあるな。高いんじゃなかったか?」


 リリエルは剣をインベントリにしまった後で、四等分した青林檎のうち二切れをシズクに手渡した。自分でも青林檎をかじりながら、目についた武器を取り出す。先ほど話題にしていたマナブレードで、ほとんどの製品は値段が例えばC32Fリニアブレードよりも高かったはずだ。


「結構プレイヤーからドロップしていますね。高いお金を出して買ったものの、使ってみた結果ドロップしないようにするほど使い勝手がよいわけではない、という評価のようです」

「結局、店売り品は消耗品扱いで買えるというわけか」

「そうですね。一方で熱心な愛好者もいますし、そうでなくてもSF的なゲームをするのだから一本くらい持っておこうというプレイヤーも多いようです」

「二本くらい持っておこう。これはこれで」

「まあ、よろしいかと。ユニバーサルカッターとしても使えますし。剣だけでいいです?」


 そしてそこまで見ていたシズクが聞いてきたように、剣以外もみてみる。


「槍もいいか?」

「槍もいいですが銃はもたなくていいですか?」

「銃は得意ではないからな」


 リリエルは銃系統のスキルは持っていないので、付随するいろいろな補正や追加効果は得られない。もちろん計算して命中させることはできる(人間でいうところの中の人のスキルで当てていることになる)が、ダメージなどを考えると有効な攻撃手段とは言えなかった。


 それにそもそも遠距離攻撃をしたければ《凍魔連斬》に代表される技や魔法を使えばよく、銃器に頼るよりもよほど信頼のできる攻撃だった。ただ、シズクの意見は違うようだ。


「得意ではなくても、人族のプレイヤーなら1個はインベントリに入れているかと。前衛でパワーファイター型のプレイヤーからすら低くないドロップ率で銃器を入手ししています」

「それは持ってないと仕方がないか?」

「使っているのを確認できるケースはまれですが、それでもインベントリに入れている以上、人族の間の一般的な慣習となっていると判断しています。いざというときに持っていないと目立ってしまうかと」

「おすすめを選べるか?」

「ドロップ率から逆算しても、ハンドガン1丁とアサルトライフル1丁もあれば十分です」


 そう言ったシズクがウィンドウを操作すると、リリエルの前のテーブルにハンドガンとアサルトライフルが出現した。


 ハンドガンのアイテム名は〈ST37〉。マナ弾で攻撃するタイプの銃で、プレイヤーが使っている標準的な装備だ。ただ命中率と装填弾数を重視しているかわりに威力は低めとなっている。実際には樹脂で作られているのだが、安物のプラスチックのような白色に蛍光レッドの線が走っている。


 アサルトライフルの方は〈ST-143P〉という名前だ。こちらは実体弾で物理攻撃をするタイプの銃で、現実世界のアサルトライフルに近い形をしている。使う弾は古き良き5.56x45mm弾だ。ただ、あまり現実世界でみないカラーリングで、バレルから伸縮式ストックまで全体がマットな白色だ。


「白が標準色なのか?」

「カラーリングは可能なものの白が多いですね。デフォルト色から未変更でそのままインベントリに入れているケースが多いようです。雪原迷彩と言えなくもありませんが、氷狼族の嗅覚を認識しているはずなのでやはり未変更なのでしょう」

「白が多いなら白にしておくか」

「真っ赤だったり虹色だったり黄色だったり蛍光ピンクだったり金メッキだったりもありますが」

「この白でいい」


 慌てて2丁の銃を手に取ってインベントリにしまう。それを見たシズクは残念そうだが、気にしないことにする。


 一拍間をおいて、シズクが追加の質問をしてきた。


「他の武器は流石にいらないですよね」

「あまり拘り過ぎてもな。最悪、自分で生成できるわけだし、情報収集の一環で現地でも買うつもりだし」

「残念です。変わりどころだと、さすまたや十手やトンファーや鎖付きクナイやボーラもありますよ。在庫処分してくださってもいいんですよ?」

「個別の武器文化を否定するつもりはないが、マナプラネットオンラインは武器の博物館ではないはずだが……?」

「人間がロールプレイの一環でいろいろ武器を取り揃えていると推定されます。実際に私達との戦闘で使われているうえに、複数世代にわたって性能が向上しているのを確認しています」

「……」


 ゲームの中であることを差し引いても、少なくとも一般的ではない武器を押し付けられたくないので、無言で不要であることを示すために首を振った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る