第10話 大団円

 目を覚ましてしまった俊介の思いは、恵子の夢の中に入り込んでいるようだった。俊介は自分の夢ではないので、あくまでも、

「恵子の夢の中の一人の役者」

 として存在しているだけだった。

 恵子が典子に話している。

「典子、あなたがお兄ちゃんを好きだというのは分かっているわ。でも、私もお兄ちゃんが好きなの。そうしようもなく好きなの」

 と恵子がいうと、

「何言ってるの、あなたたち兄妹じゃない。兄と妹がどんなに好きになったって、結婚はできないし、愛し合うことも倫理的にダメなのよ」

 と諭してはいるがあくまでも、挑戦的な言い方だった。

「私には二つの身体と二つの心があるの。夢の中と現実のね。だから、私は夢の中だけではお兄ちゃんを渡さない。だから、もう一人の私、現実の私は、如月さんを好きになるの。だからあなたも、現実と夢の中とで分けてよ。そうすれば、皆丸く収まるんだから、現実の世界では、あなたは、お兄ちゃんから愛してもらえるわ」

 というのを聞いて、俊介は本当に動けなくなった。

 もし、これが自分の夢の中のように自由に動けたとしても、身体を動かすだけの気力はない。

「これが他人の夢の中の世界だというのか?」

 その思いは、自分が自分の夢の世界を見ているよりもはるかに広い世界であることを自覚していた。

 それだけ、現実の世でも、

「自分が見ていると思っている世界が実際には狭いもので、ひょっとすると、それ以外の世界は、誰かの力によって見せられているのかも知れない」

 と感じさせられたのだが、ここまで見てきた夢で、それもまんざら嘘ではないようにも思えてきた。

 世の中というものが、

「実は無双ではなく、二つ存在していることで、対を作り、そして、美を追求することで正当性を求めるという、そんな世界も存在してもいいのではないか?」

 と思ったのは、共有している夢に気づいた者だけなのかも知れない……。


                 (  完  )



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有双離脱 森本 晃次 @kakku

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