僕の中で、死んだ君
雨音
#1 夏空と眠気
「あっちー…」
梅雨が明け、暑さが顔を出してきた七月中旬。
帰り道、君はそんなことを言っていた。
「梅雨が明けたらすーぐこんなに暑くなりやがって…。夏なんて暑くて嫌いだ!早く終わっちまえー!」
「まぁまぁ、そんな大声出すなよ。僕だって夏は嫌いだけどさ、いいところもあるだろ?」
「んなもんあるわけ…」
「女子の水着見放題」
「…確かにいいとこあるかもしんねえ。」
君があまりにもきりっとした顔で言うので、僕はついくすっと笑ってしまった。
すると君は、目を大きく見開いて言う。
「なんだよ!何かおかしいかよ!」
「だってお前、そんなガチの顔でいうじゃねぇだろ」
「……確かにそうか。
ところでお前、ちょっと俺についてくれん?」
「なんだよ、告白でもする気か?わりぃな、生理的に無理。」
「勝手に振ってんじゃねー。ほれ、ついてきてみ。」
_
言われるがままについていった僕は、とある廃墟にたどり着いた。
「ここって…。かの有名な出るって言われてる廃墟だよな?
いまから肝試しすんの?まだ五時まえだし明るいぞ…?」
視線をずらすと君は目の前の廃墟を見つめ、言葉を発した。
「いや、ここなら誰にも見つからんと思ってな」
「なんだよやっぱ告白でもすんのかよ~。お前ってやつは恥ずかしがりやだなぁ~」
冗談を言いながら君の下半身に目を落とすと、君は_____
血まみれのナイフを手にしていた。
「…は?お前いつの間にそんなの持って…」
僕が次の言葉を発するより前に、君は僕の胸にナイフを刺していた。
「ッッッ!!!」
言葉にならない痛み。
胸からどす黒い血が流れてきている。
僕が困惑のあまり胸のナイフを抜こうとすると、君は地面に僕を押し倒す。
体の隅々をナイフでひたすらに刺される。
なるほど、これが地獄ってやつなのか。
人って死に際になると、案外冷静になれるもんだな。
意識が遠のいていく。
幸い、聴覚は残されていたため耳を澄ますと、
「忘れろ」
という君の声が聞こえた。
______________________________________
「!!!」
目が覚め、ぐちゃぐちゃになったベッドから勢いよく飛び起きる。
窓の向こうの朝焼け空を目にし、僕はため息をついた。
「またか……」
僕は、ここ最近とある夢に悩まされている。
全く知らない少年が惨殺してくる夢だ。
毎日同じ夢を見るというわけではなく、毎回シチュエーションが違う。
いつもだったら首を絞められて窒息死とか、内臓を抉り出されたりとかしてあっさり死んで目が覚めるのだが。
今回はいつもと違い、最後に少年が言葉を発していた。
‘忘れろ‘か。
忘れられるわけねぇだろ…。
僕は寝相で鳥の巣みたいになっている髪をさらに手でくしゃくしゃにして、独り呟いた。
「いったい誰なんだ君は……」
僕の中で、死んだ君 雨音 @amane0625
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