11-2
しばらく馬車に揺られ、魔物が集まっているという情報がある森に向かった。そしてカオリにどういう作戦で行くのか聞いてみた。
「アキが考えた作戦でいく! 皆、いいよね!」
どういうこと。
皆は元気よく、ハイ! っと返事をして僕のほうを見た。
僕はため息をつきながら馬車を止めて一人魔物の偵察に行くことにした。
と思ったらなんか後ろから皆ついてくる。
「ちょっと待って。みんな、馬車で待機してないと誰かが馬車を盗むでしょ。そもそも今はあくまで様子見だよ。昨日も言ったでしょ」
「でもアキ一人に出来ないし」
カオリの言うことに、皆また賛同して僕をじっと見つめる。
仕方なく一度戻って馬車を森の中に隠した。ただ魔物に馬車を荒らされても困るから、二手に分かれることにした。
僕とカオリとマオが偵察隊。モグとガーディとさくらが馬車の番だ。
ガーディには何かあったら、先ほどの街まで馬車を走らせてもらうようにお願いした。
隊を分けたら、僕らは魔物の様子を見に行った。
先に僕が隠密と探索スキルを使って中に入ってから、カオリ達を誘い込む。そうして見つからないよう注意をしながら、魔物の集団の内部へ入りこんで行った。
しばらく進むと、中央部と思われる場所を見つけたので、木陰から観察してみることにした。
そうして観察していると少し妙な違和感があった。というのも中央にいる魔物たちは、異なる種族の魔物で群れを成している。
さらにもう一つの違和感として、魔族の痕跡がない。
魔族がいれば、以前のようにテントを使ってすぐにわかると思う。ただ今回はそのテントがない。
それどころか、魔物は集まってはいるけど、指揮が取れているわけではなさそうだ。魔物の間で小競り合いが起こっている。
「どういうことだろ?」
「何が?」
「カオリは知らないだろうけど、以前は魔族がテントを使っていたんだ。そのテントがないから魔族はいないってことでいいのかどうか……」
「魔族がいないっていうことでいいんじゃない? っというわけで、手っ取り早く皆殺しにしよう!」
「じゃあ後はカオリに任せるよ。僕は馬車で待ってるから」
「ちょちょちょ!? アキさーん!?」
カオリは文句は言いながらも魔物に突っ込んで行った。マオもそれに触発されて付いていってしまった。大丈夫かな?
僕は一度戻ってガーディたちと合流した。そして今度はさくらに、何かあれば街まで馬車を走らせるようお願いした。
僕らはカオリとは違って一匹ずつ確実に狩るつもりだ。っていっても、ガーディに注意を反らしてもらって、僕が後ろから攻撃するだけだ。
ただ、この方法で倒せる魔物もいれば、首が肉厚だったり硬かったりでどうにもならない相手もいた。
そういうのは見た目で判断して、モグに穴を掘ってもらい、落とした後で狩ることにした。
そうしてしばらく、僕らが休憩しながら少しずつ狩っていると、なにやら地響きが聞こえる。
「アキー!? つれてきたよー!!」
少し遠くからカオリの声が聞こえた。
どうやらカオリが魔物を引き連れて僕らのとこまでやってきているみたいだ。何考えてるんだあいつ。
「アキー!! なかなか来ないから、わざわざつれてきてあげたよー!!」
「アキさん! 助けてくださいー!?」
隠密使ってやり過ごそうか考えたけど、さすがにマオが可愛そうだ。
モグに少し大きめの浅い、深さ30cm位の穴をいくつか掘ってもらう。
その間に僕はカオリ達が気づくようにロープでこちらに誘導した。
「アキ! どこ行ってたの!?」
「カオリが今回の隊長でしょ。最後まで責任もって」
「無理だから!」
カオリ達に目の前にあるロープをつかむように伝えると、僕とガーディで思い切りロープを引いた。
僕の作戦としては、あらかじめロープを木の頂上付近に引っ掛け、カオリ達を吊り上げる形で、木の上に回避させるつもりだ。
つもりだったんだけど、実際は予想と違ってしまった。
僕は引っ掛けた木の場所よりも、カオリ達にロープが見えるよう、少し遠くの地面にロープを置いてしまった。
そのため勢いよくロープを引っ張ると、カオリ達は吊り上げられる前に、勢いよく引きずられ、そのまますごい勢いで木にぶつかった。そしてその後吊り上げる形になった。
決してカオリに恨みがあったとかではない。決して。
ちなみにマオはカオリにくっついてたみたいで怪我はなさそうだ。
一方魔物のほうは、浅く掘られた穴に足をとられてドミノ倒しになっていた。
その上に僕は木の上から油を撒き、着火の魔法で火をつけて魔物たちを燃やしていった。
中にはそれで倒せないものもいるけど、ガーディと僕の連携で倒すことは出来た。
それでも倒せないものは、先ほどと同じように、モグにあらかじめ頼んでいた大穴に入ってもらった。
ある程度の魔物は火にあぶられたことで逃げたり、そのまま焼かれたりした。
しばらくして火が収まってくると、あたりに魔物はいなくなっていた。
「マオ、お疲れ様」
「あ、アキさん! ありがとうございます!」
「カオリ、生きてる?」
「生きてるよ!!」
二人を木から下ろすとカオリが僕に怒鳴り散らしてきた。
「アキひどすぎるでしょ! あたしとマオだけで相手させるなんて!」
「カオリが勝手に突っ込んだんでしょ。カオリが隊長なんだからそれでよかったんじゃないの?」
「いいわけあるかー!!」
「まぁでもいい情報は得られたよ。さすがに勇者でも多勢に無勢はやっぱり無理みたいだね」
「当然でしょ!?」
「カオリが魔物の群れに突っ込んだから、勇者ならそのくらいできそうなのかなって思ってさ。カオリつきの妖精も魔王の討伐しようっていうくらいだし」
「そ、それは無理でしょ」
「なら今度からは、ちゃんと調査してから確実に倒すことだね」
「あ、アキがあたしが隊長だっていうから!?」
「でも勝手に突っ込んだのはカオリでしょ。マオまで巻き添いで死ぬとこだったんだからね。反省してよ」
「んぐぅっ!!? ……かわいい服作ってやる」
「んぐぅっ!!? ご、ごめんて。ただ、ホントに勇者ならいけるのかなって思ったんだよ」
「ほんとにぃ? どうせアキのことだから今までの恨みとか思ってたんでしょ!」
「うん」
「やっぱり!! ……もっとかわいい服作ってやる」
「僕の苦労を思い知ってほしかったからね。今後はサボったり馬鹿な真似はしないでね」
「んぐぅ!? そ、それはほら……ね?」
「ん?」
「ご、ごめん」
カオリの謝罪と引き換えに、今後まともな服は作ってくれなくなりそうだ。
でも今はお金があるし、服を買えばいいだけの話だから問題ない。
とりあえず今は、倒した魔物を馬車に積んでいくようにカオリ達にお願いした。
僕は念のため、もう一度魔物が集まっていた中央の場所に向かった。
カオリ達が荒らしたからもう一度集まるなんてことはないと思うけど、一応確認しておきたかった。
まぁ見てみたら、予想通り魔物の姿はなくなっていたから問題はなかった。
もしかしたら街のほうに向かったかも? と思って街の方角を確認したけど煙などはなかった。タブン大丈夫だろう。
確認が終わったら僕もカオリ達が荒らした魔物の素材を集めた。
と言っても、勇者の残虐なスキルのせいでほとんどが切り刻まれたりして使えない状態だ。
マオの魔法もあいまって、ほぼ素材にはなりそうもなかった。
その後も僕らはしばらく回収作業を行なった。
ただすべてを回収することは出来そうもないので、日が傾いたら街に戻ることにした。
街に戻りホッとするのと同時に、変な視線がまたあちこちからする。魔物の素材のせいかもしれないけど。
僕らはすぐにギルドに向かって魔物の素材を卸して換金してもらった。
カオリが狩った魔物は貴重だったらしく、素材の痛み具合を鑑みても高い値がつけられた。
とはいえ、僕らが狩った魔物たちは綺麗な状態を保っているので倍の値段だったけど。とりあえずは金貨で500枚だった。
今回は魔族がいなかったことですんなりと終わることが出来た。
ただそうなると魔族はどこに行ったんだろうか。
魔物の種族を考えても、最初からあの場に魔族がいなかったとは考えにくい。僕らが魔族の一人を倒したことで、一度引いたのかもしれない。
つまり今後は、魔族の守りが堅くなる可能性がある。
侵攻速度は緩むだろうけど、面倒になったとも言える。
っということを、食事処で皆とご飯を食べながら一人考えていた。
街に戻ってからというもの、カオリが僕においてかれたーとか、助けてくれないーとか酒を飲んで騒いでて面倒だったから現実逃避してた。
本当なら今日の反省会でもしたほうがいいと思うけど……今声をかけると面倒なことになりそうだ。
僕が席を立って部屋に戻ろうとすると、カオリが僕の服をつかんで、逃げるなーと言ってまた席に戻される。僕に愚痴を聞かせたいらしい。
それがしばらく続いて、僕がテーブルに突っ伏していると、ようやくカオリが眠りに付いてくれた。
僕はカオリを部屋に運んだら、後はマオたちに任せて自室に戻った。そしてまた明日からどうしようか考えた。
昨日までは、このまま農村付近に集まっているだろう魔物の討伐をしようと思っていた。
でも今日確認したとおり、魔族がいないのなら魔物の侵攻もないだろう。
そうなると僕らがでしゃばる必要はない。
なので本来僕がやりたかったスローライフに着手してもいいんじゃないだろうか。仲間を増やすのもいい。
なんなら、カオリと僕らのパーティを別にしてもいいかもしれない。
今回の戦闘の反省すべき点は、カオリ達が逃げることになった原因を知ることだろう。
そしてその原因は、前衛が足りていないせいだと思う。
現状はガーディだけ前衛と言えるから、ガーディがいないとカオリが前衛をしないといけなくなる。
一撃で倒せる魔物ならいいけど、倒せない場合は今回のように逃げることに直結する。
そう考えると、前衛を増やせれば今回のようにはならないはずだ。
というわけで今後は、人間の生存圏を広く保ちつつ、仲間を集めることにことにした。
僕は久しぶりに仲間を増やせることにわくわくしながら、その日は眠りに落ちた。
「今後は魔族が前線に出てくるまで、拠点や自己の強化をしたいと思う」
朝食時、今日これからのことを話し始めはしたけど、ちゃんと聞いているのはマオだけだ。
カオリとさくらは一緒につぶれてるし、ガーディとモグは食事に夢中だ。とても話し合いにはなりそうもない。
面倒なので、拠点のことはカオリに全部任せるとだけ伝えた。
「へ!? ま、まってよ。あたしに任せて昨日失敗したじゃん?」
「今度は大丈夫。カオリがサボることもちゃんと計画に入ってるから」
「それならいっか」
というわけでしぶしぶと言った様子でカオリは僕の話を聞いた。と言ってもパーティを二つに分けるだけど。
拠点の強化にカオリとさくらとマオ、仲間集めに僕とモグとガーディに分けた。
カオリはサボれるとわかったようで、テンションがあがった。でも二日酔いですぐにつぶれたけど。
カオリ達が拠点に戻る際、マオに言伝を頼もうと思ったけど、僕らと一緒に行きたいということで、さくらに言伝を頼むことにした。
さくらもカオリと同じで二日酔いなので、話を聞いてるかどうかわからないけど。
とりあえず妖精の族長さん宛てに、罠の拠点を増やすようにとお願いした。
ちなみに帰りは歩いて帰ってもらう。
一方で僕らは馬車をそのまま使って魔物を仲間にする旅に出ることにした。
仲間にするのは亜人がいい。盾を持ってくれれば怪我の心配もないし。
フェアリーに前衛になりそうな亜人の場所を聞くと、トロイという亜人がいるようだ。
大食漢でのろまな印象が強いらしい。ただ、攻撃するときの一撃がすさまじく、さらに脂肪に覆われた体は刃が通りにくいそうだ。
僕が望んでいた前衛に近いけど、動きが遅いと前衛とは言いにくい。
局所的に戦うならまだいいけど、この前のように広範囲での戦闘は向いていない。
どちらかというと僕らが望んでいるのは、広範囲での戦闘に対してのみだ。
敵が少なければガーディがいれば問題ないだろうし。
他に候補がいないかたずねると、鬼という亜人がいるらしい。
身長体格は人間よりも少し大きい程度。ただ力の強さが桁違いで好戦的。戦うのは避けるのが一般的な亜人だ。
フェアリーから聞き出した中だと、僕が一番ほしいと思っている人材に違いない。
僕はフェアリーから鬼の亜人がいる場所を聞いて、そこへ向かって馬車を走らせることにした。
VRかと思ったら異世界だった @moffu
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