11-1:情報収集1



 門を抜け、フーの町に入り宿を取った後、皆で食事処へ向かった。

 中は繁盛していて兵士が多い。みんな和気藹々と大声で話し合っている。


 ウエイターさんに人数を話してしばらく待つと、席へ案内された。

 そして皆でメニューを見て注文をしていると、向かいの席で飲んでいた兵士が話しかけてきた。



「嬢ちゃん達! こっち来て一緒に話そうぜ!」

「嫌です」

「そんなぁ!!」



 カオリが適当にあしらうも、兵士達は引かずにこちらのテーブルまでやってきた。

 僕は護衛のためにナイフを抜いて、テーブルの上においた。



「ちょ!? 嬢ちゃん何しようとしてんだ!?」

「……」

「ち、ちょっとアキ!? それはだめでしょ!?」



 カオリは僕を止めたけど、僕はナイフを抜いただけだ。刃を向けてもいない。向かってきたらどうなるかわからないけど。



「はいはい! どいたどいた! あんた達には他に相手がいるでしょ!」



 料理を運ぶウエイトレス……というよりは女将さんかな? が、軽く兵士をどかして僕らに料理を届けてくれた。



「ごめんよ。この町は今魔物が多いから、こういうのもいるんだ。まぁ、明日詰め所に迷惑だって言えば治まるから。っていうわけであんた達、名前いいな!」

「お、俺たちが悪かった! 報告はしないでくれ!」



 絡んできた兵士はお金を置いて、すぐに店から出て行った。



「気分悪くさせて悪かったね。ただあんなのでも、裏で金を落としてくれるから、この町には助かったりするんだ。っと、今回は謝罪の意味も込めて少しサービスしておくよ!」

「あ、ありがとうございます……」

「なんの! 明日詰め所に言って、迷惑料ってことで換金するから問題ないよ!」



 なんという錬金術。女将さんはやり手のようだ。というか、初めてでもないのかな?


 いくらお金のためとはいえ、治安が悪くなったら元も子もないと思うけど……。

 まぁ深く考えてもしょうがないので、サービスしてくれたスープを飲みながら料理を待った。



 しばらくすると、また女将さんが威勢の良い声を出しながら料理を持ってきてくれた。

 僕が頼んだ牛のステーキは、噛むほどに油が出てすごくおいしかった。値段の割に筋もなかったし。もしかしたら、先ほどのサービスとして、おいしい部位を出してくれたのかも。

 僕がほころんでいると、隣の席にいた、今度は女の兵士が話しかけてきた。



「君達かわいいね! 家族で旅行でもしているの?」

「いいえー。あたしたち、三人姉妹で冒険者しているんです。各地を回りながら転々と」



 カオリが返事を返すと、兵士は驚いたような顔をした。



「へー! 見かけによらず強いってことか! でもさっきの酔っ払いもだけど、女ばっかりで大丈夫?」

「先ほどは女将さんが止めてくれましたし。だめなら実力行使しますけど、あたし達は強いから大丈夫ですよ」

「冒険者っていってたけど、ランクは?」

「ランクはないですよ。魔物の素材を売るだけです。クエストだと失敗すると面倒だし」

「なるほどねぇ。じゃあ、このあたりの魔物も標的かな?」

「たぶん?」



 カオリは僕に目線を合わせて、どうするんだと言いたげだ。

 でも僕は今、格好がちょっと『あれ』なので、できれば声を出したくない。男だとばれるかもしれないし。


 ただ下手に勘違いされて、町が襲われた際、僕らのせいにされても困る。

 僕はあきらめて応えることにした。



「まだこの町付近の魔物の情報を得ていないので、できればですかね。だめそうならやめておきます」

「そっか。そのほうがいいよ。なんか最近魔物がこの町の付近にも多く集まってるみたいだし。手を出したら、君たちがその大群に襲われるかもしれないし」

「なるほど。まぁ、様子見だけしておきます。この町付近じゃなくても、少し離れた村付近もありますし」

「そうだね。そっちのほうがいいかな? 向こうはまだ魔物もあんまり見てないって言うし」



 この兵士の話しぶりだと、名もない村付近の捜索はしてないと思う。たぶん面倒か何かで村の人にアンケートを取って終わったんだろう。僕らと大差ない情報だし。


 ただ僕としては、やはり山裾が怪しく感じる。

 草原は確かに魔物一匹見かけないけど、山裾には森があった。あそこにもし魔物がいればこの町にも当然やってくるだろう。


 とはいえ、僕はこの情報を言うつもりはない。どちらにせよ、町に何かあったら僕らのせいにしてくるかもしれないし。

 僕は兵士の言う通りにする、といったようににっこりと笑って、言葉でなく表情で応えた。



「かわいい……」

「めっちゃ可愛いこの子! なでていい!?」



 いきなり何言ってるんだこの人。



「ここはそういうお店じゃないのでご遠慮してください。お姉さん方」



 カオリはカオリで何を言ってるんだ?



「なでるくらいいいでしょ!?」

「女将さーん」

「じゃあまたね! 気をつけて魔物と戦ってね!」



 カオリが女将さんを呼んだら、女の兵士達もお金を払って店を出て行った。カオリも慣れてきてるな。

 そして女将さんを呼んだついでにカオリとさくらは酒を頼んだ。


 僕は付き合ってられそうにないので、先に部屋に戻ることにして、カオリのことはガーディとマオに任せることにした。




 宿屋のベットで横になり、一息つく。

 僕は皆のように馬車で寝ていないため、本当ならこのまま寝てしまいたい。けど少し我慢して、明日をどうするか考えることにした。



 現状、もし魔物が一斉にこの町に襲い掛かってきた場合、兵士が多いこの、フーの町はどうにかなると思う。

 でも近くにあった農村は魔物に襲われたらひとたまりもないだろう。


 住民の危機意識が低すぎるし、自分には関係ないと言わんばかりに農作業のみをしている。

 もし山裾の森に魔物が集っていたら、塀すらない農村は蹂躙されるだけだ。



 と、つらつら考えたけど、僕らが彼らを助ける義理はない。

 それに今被害が出ていないときに文句を言いに行こうものなら、邪険にされて終わると思う。

 あの村については今のところ保留にしておくのが一番だろう。



 一方でこの町について考えてみると、塀も高いから魔物の襲撃に対しては問題ないと思う。

 ただもし群れの中に魔族がいた場合、彼らに対抗できるかはわからない。


 僕らだって、障壁のことを言われるまでは魔法については脆弱だった。この世界の人が障壁師についてどこまで理解しているのかもわからない。

 ただ推測は出来る。タブン障壁師の役割を理解していないと。


 僕らの拠点だと、魔法がかけられた柵は威圧感があり、魔法を感じ取れる。

 しかしこの街の塀には何も魔法が込められていないと思う。威圧感がないし。


 なので、魔族が来た場合は抵抗が出来ない可能性がある。

 それなら多少無理をしてでも、この付近の魔物を狩る必要があるか……。



 まぁ、この町についても助ける義理はない。

 ただ町に住む人間の数は多いから、助けないと人間の生存圏がもっとなくなってしまうと思う。助けるべきか放置するか……。


 っと考えていると眠気が襲ってきた。

 続きはカオリ達に話してから考えることにして、僕はそのまま目を閉じて寝ることにした。







 次の日、昨日考えていたことを、朝食を食べながらカオリ達に話した。

 するとカオリの魔物を狩ればいいんじゃない、の一言で話は終わった。


 全く考えるそぶりを見せなくて、ちょっとイラっとしたので、この件はカオリに全部任せることにした。



 本当なら僕は、下手に魔物をつつくよりも、人間が動ける領域を増やしていきたい。


 魔国との国境付近では人はあまりいないけど、王都や主要都市は今どうなっているだろうか。

 僕の予想だと人があふれていると思う。そうなるといずれ食糧問題が出てくると思う。 そのときのために農作が出来る土地は最低限、用意しておきたい。

 とはいえ、この町の人達が死んでしまえば、この付近も生存圏どころではなくなるから、魔物も倒しておきたいのも事実だ。


 っということを、カオリがぶつぶつ文句を言っているのを、聞こえないふりをしながら考えていた。




 朝食を食べ終え町を出ると、なにやら兵士達がこちらを見ている。

 昨日絡まれたことが原因だろうか、僕らは兵士達の間で有名人になったみたいで、いたるところで声をかけられた。

 

 ただ僕は声をかけられたくないわけで……。

 声をかけられるたびに、にっこりと表情で挨拶を返すと歓声が聞こえた。


 理由もわからず顔をそむけると、カオリと目が合った。カオリが、にまにました表情でこちらを見ている。なんで?

 カオリからも顔をそむけると、さくらもマオもにこにこした表情でこちらを見ている。一体何なんだ……。


 僕はなんとなく馬鹿にされているような気がしたので、さっさと町を出ることにした。

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