10-2
会議を終え、家を離れて馬車に揺られること数時間、僕にとっては4つ目の街のフーにやってきた。
サドルとは違い、一番初めの街ルイの村と同程度の比較的穏やかな町だ。
ただ町のあちこちには、兵士を良く見かける。近々魔物の侵攻でもあるんだろうか?
とりあえず僕らは町の観光をすることにした。
市場には今までなかった果物やスパイスなどが売られていたからちょっと嬉しい。マオも今後は料理を手伝ってくれるからレシピとして覚えておいてもらったほうがいいだろう。少しだけ買っておくことにした。
次に向かったのは武器と防具屋だ。けど売られている物には特に珍しいものはなかった。
今までの町の武器やを見て回ったけど、どうやら武器や防具で珍しいものはオーダーメイドで作らないといけないらしい。そしてそのための素材とかを準備する必要がありそうだ。
武器屋を出、そろそろお腹がすいたので屋台で少し軽食を取ることにした。
屋台で買い物をすると、先ほどから気にはなっていたけど視線を感じる。
すれ違いにこちらに視線を向ける兵士や町の人。さらに僕らが屋台で買って食べている時にも向けられる多くの視線。一体難なんだろう。
「ちょっとすまない」
「ふぁイ?」
僕はいきなり声をかけられて変な声が出てしまった。話しかけてきたのは兵士数人だ。
「君達は冒険者なのか?」
「そうですけど……」
「ランクは?」
「ランク……はもらってません。時々魔物の素材を売る程度なので」
「そうか。なら他の町に行ったほうがいいぞ。この付近には魔族が集まっていて危ないからな。いつ多くの魔物が来てもおかしくない状況なんだ」
なるほど。兵士は僕らにこの街の危険性を教えてくれたらしい。でも魔物が集まっているなら、僕ら冒険者の力が必要なんじゃないだろうか。人が多いほうがいいと思うんだけど。
「っと、食事中に話しかけて悪かったな」
「いえ。こちらこそ危険を教えてもらって感謝しています」
僕がにこやかに返事を返すと、こわばって話しかけた兵士の顔もほころんだ。そしてくるりと反転して見回りに戻っていった。
「少年にも見えたがやはり少女だったな」
「そうですね」
先ほど話しかけた兵士達の声が聞こえてきた。どういうこと。
少年に見えて、なんで話しかけたら少女になるんだ。そして他の数人もそれに納得するってどういう状況だコラ。
カオリに作ってもらう服はどうしても女性に見えてしまうんだろうか?
ふとマオのほうを見るとなにやら笑っている。
「ど、どうしたの? マオ」
「ぃ、いえ!? な、なんでもないで……ふくくっ!?」
マオは我慢しながら笑っている。もしかしてマオにもさっきの兵士の会話が聞こえたのだろうか。
「なんか知らないけど、少女に見られたみたいだね」
「わ、私も初めは女性だと思ってましたから」
「……はい?」
「アキさんから一緒にお風呂に入れないからと言われた時から、多分男の人なんだなぁって思ってました。そして今確信しました」
今? 今確信ってどういうことなんだ。ま、まぁ昔から女の子みたいっていわれてたからあきらめてるけどさ。
ただちょっとひっかかる。少年に見えた場合どうなんだろうか。
というか先ほどの質問は、少年と思って話しかけたっということになるだろう。
少し考えてぴんときたのは、勇者の存在。
僕が少年だった場合、マオが少女となり、聖女かなんかのお告げにあった勇者達だと思われたのかもしれない。っとなると厄介だ。今後もそういった目で見られる可能性がある。
サドルの街で聞かれなかったのは、多分兵士に連絡やら、なにやら届いていなかった可能性がある。
もし今後、僕がカオリと街にいた場合どうなるかわからない。今回みたいに事情聴取され、さらに少年と判定されると連行される可能性がある。
今のとこはすぐに家に帰ってこのことをカオリに伝えるべきだろう。
僕らは魔物がフーの街に魔物が集まっているらしいことは聞けたので一度戻ることにした。そしてカオリに兵士の話を共有することにした。
「ダイジョブ」
何が? カオリにフーの町であった話した後の第一声がこれ。どういうこと?
「むしろその兵士の目を疑うよ。マオもそう思わない?」
「思います」
カオリがマオに話しかけて、すぐに返事が返ってくるとカオリはマオとハイタッチした。
「じゃあとりあえず、今後は少年に見えないようにしておくよ。そういう話なんでしょ?」
「え? いや、そういう話でもないような?」
「でも魔王とはまだ戦わないんでしょ?」
「うん」
「じゃあそういう話じゃん」
カオリは話は終りというばかりにマオをつれて部屋に入っていった。なんでマオを連れて行ったのかはわからないけど。
とりあえずは一応買ってきた大きめのマントを羽織っていようと思う。ガーディみたいに顔を隠せばどうにかなるだろう。
そういえば魔物の状況を言うのを忘れていた。とはいえ、魔族がいるかどうかはまだわからないし。どうしようか。
今はカオリはマオと話をしているだろうから後にすることにしよう。僕は夕食の準備をすることにした。
夕食後、カオリにフー街周辺の魔物について話した。するとこの前のようにさっさと討伐しちゃおうという話になった。
皆もそれに賛同したため、今度はカオリもつれてフーの町に行くことにした。
次の日、カオリから例の勇者だと見られない対策として服を渡された。
なんでも前から渡そうとは思ってたけど、僕が嫌がるだろうから締まっておいたものだそうだ。だったらしまっておけばいいのにと思うけど、少年だと思われたくないのも事実。ただカオリがこの服を渡すときに言った言葉が腹立たしい。
「あたしは別にばれてもいいんだけどね? アキは嫌だろうからさ」
「じゃあ兵士の人にカオリが勇者様ですって伝えておくね」
「そしたらアキも行くことになるんだよ! いいの!?」
「なんで僕が一緒に行くんだ。僕は勇者じゃないから関係ない」
「そう言われると思って、あらかじめ考えてたんだ。もし偉い人にあったら、この子も強制で連れて行くことにしていいですかって」
「な、なんてやつ!」
「で? どうする?」
背に腹は変えられない。仕方ないから着る事にした。どうせ上からマントをかぶればわからないし。
戦闘のときだと邪魔になるからマントは着れないけど、人前に出るときは着ればいい。
僕はマントを羽織って馬車に乗った。
まずはフーに向かい、それから魔物の討伐を考えようと思っていたら、道中盗賊が現れた。
何も馬車に積んでいないのに何を考えているのか。一応盗賊にもそのことを言ってみたけど、僕らが目的だと言われて仕方なく相手をすることになった。
って言っても、ガーディが前に出て防御を固め、カオリとマオが魔法を放つだけだ。たったそれだけで盗賊は抵抗できずに戦闘は終わった。
カオリに焼かれてひどいやけどを負っているけど、僕はその上からロープで巻き上げた。僕の忠告を無視するからこうなるんだ。
盗賊を馬車に積んで、フーの街についたら盗賊を引き取ってもらった。
兵士の中には先日の見回りの人もいて話しかけられた。
カオリは初対面だけど、昨日の兵士なんだとぴんときたみたいだ。三姉妹です、とカオリがいうと、兵士の人が美人ばっかりで将来が楽しみだねと言われた。
どう突っ込んでいいのかわからない。マオはまた我慢して笑っている。
僕は兵士をにらんだ。
それに兵士の人が気づいたのか、笑っていたほうが可愛いぞと言われた。
マオは少し噴出して笑って、カオリは兵士に合わせるようにそうだよねー、っと言いながら同調してた。
兵士の人は要領を得ないといった表情をしてたけど、僕はあきらめて先に馬車に乗った。
盗賊もお金になるようで、兵士の人たちからお金をもらった。
もらえるとは思ってなかった臨時収入だ。それならと、また街で観光しながら情報集めをしようということになった。
僕はなるべく出て歩きたくないので、ガーディとモグと僕で馬車の当番をすることにした。
しばらくすると、見回りの兵士達がこちらをちらちら見ている。フードを目深にかぶっているガーディと僕を怪しんでいるのかもしれない。
僕は仕方なくフードだけは取ることにした。
しばらくすると、花売りの少女がお花を買いませんかと話しかけてきた。
本来ならいらないと言うところなんだけど、少女の目がきらきらしていて、買えと訴えかけてきたので一輪だけ買うことにした。
そしたら少女が髪にさしてあげるといってきた。僕は断れず、かがんで少女にさしてもらった。
「かわいいね!」
「……ぇぁ……あり、がと」
僕は戸惑いながら返事を返した。
そして今度はモグが気になったのか、じっと見ている。モグをなでてもいいよと伝えると彼女はにこやかになでた。
その間にガーディに屋台でお菓子を買ってきてもらうことにした。
初めての御使いに戸惑うも、今後のためだと言い聞かせて頑張ってもらうことにした。
少女がモグと遊んでいると、ガーディは落としそうな持ち方をしながらお菓子を買ってきた。
僕はそれをガーディとモグにそれぞれ渡して、花売りの少女にも分け与えた。
少女はきょとんとした表情をした。
お花をさしてくれた御礼だよと伝えると彼女は一緒にお菓子を食べてくれた。
少女が食べ終り馬車を離れると、手を振って分かれた。それを見ていたのか、カオリが荷物を持って戻ってきてからこういった。
「警察官さん、この人です」
「けいさつ?」
さくらとマオは警察が何かわからない。当然だけど。この世界じゃ僕にしかわからないネタだろう。
「世知辛い世の中だね。子供に食べ物を上げて通報されるなんて」
「でも絵面はアウトじゃない?」
「そうかな?」
僕がカオリを適当にあしらっているとマオがこちらをじっと見ている。
「どうしたの?」
「かわいいですね!」
僕は何のことかと思ったけど、よく考えたら頭に花がささってるの忘れてた。
とはいえ、すぐに外すのもどうなんだろう。
僕が少女にさしてもらったと困りながら言ったら、カオリはマオの手を引いてまた買い物に出かけた。と思ったらすぐに戻ってきた。
「あ、あの! さっきアキさんに似合うだろうなって思ってた髪飾りです! よかったら使ってください!」
カオリめ!! さっきの僕の表情から何か悟ったな!? とはいえ、マオからの贈り物として受け取らないわけにはいかないし。
「あ、ありがとう」
「いえ!」
「大事にしまって――」
「今度から使ってくださいね!」
逃げ道をふさがれた。
髪飾りを普段からつけろってこと? マオだってカオリだってつけてないのに?
カオリを見ているとずっとにやにやしている。
腹に着たので、今度は僕が三人人分の髪飾りを買って渡した。そしたらさくらとマオは思いのほか喜んでくれた。
「あたしにはちょっと可愛すぎるかなー」
「今度から皆で使うんだよ、カオリ。皆で!」
カオリが逃げようとしたのでとりあえず逃げ道はふさいでおいた。でもまんざらでもなかったのか、その場でつけた。
「まぁ仲間って感じでいいかもね」
「ああーそっか。ちょっと待ってて」
髪飾りがつけられないガーディとモグのために指輪を買ってきた。
そしてガーディに渡して、モグにはつけてあげた。二人も喜んでくれたみたいだ。
カオリ達はご飯がまだだったようなので、屋台で買ってもらって街を出た。
本当ならこのまま魔物の集団である敵陣を見たかったけど、兵士がたくさんいるからやめておいた。
下手をして兵士に見つかりたくはない。それに魔物の襲撃に失敗したときも、僕らのせいになるだろうし。
なので今日はこのまま少し遠くの町か村に行くことにした。
罠拠点の防備も整ったから、数日程度家を空けても問題はないだろうという算段だ。
しばらく道なりに街道を進むと、今度は小さな村が見えた。柵や塀などに覆われていることはなく、牧歌的な村だ。
宿はなさそうだし、調査が終わったらまた街に戻らないといけなそうだ。
野原が続くその道は見通しが良く、解放的。馬車のゆれもあいまって、後ろの荷台では皆寝息を立てている。
ただ、ガーディだけは眠気と戦っているようだった。なのでガーディに寝てもいいよと促しておいた。
僕は馬車のゆれを抑えるため、速度を弱めてのんびり進むことにした。
とは言っても、一応周りの地形を確認はしている。
魔物が集まるとしたら、山のふもとになるだろう。それほどまでに見通しがよすぎる。何か異常があればすぐに目視できるほどに。
小さな村に着くと、僕はカオリを起こして馬車番をさせて、村で情報を集めることにした。
とはいえ、民家の数も少ないため話を聞ける人は少ない。それに皆仕事に忙しく、魔物の動向なんて気にすることはないらしい。どの人に聞いてもわからないと返事が来た。
どうしようかと悩むけど、そろそろ町に戻らないと野宿になってしまう。
仕方なく馬車に戻ると皆まだ寝ていた。カオリ……。
僕はカオリ以外を起こして馬車を急発進させて急いで街に戻った。
おかげで門が閉まる前には待ちに付くことが出来た。
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