10-1:不穏



 寝返りをするとふと目が覚めた。いつの間にか朝になっていた。寝落ちしていたようだ。

 僕が部屋を出ると、みんな既に起きて朝食を食べている。


 マオはいつものようにひっそりと、カオリはさくらと談笑しながら。

 ガーディはモグと何かを話している……ように見える。よくわからない。


 僕はマオの隣に座って、昨日のことはあんまり深く考えないように伝えた。

 それと、マオが今後何がしてみたいかを聞いてみた。

 せっかく自由になったのだから、好きなことをやるべきだろう。


 皆には何かあったら僕らに付き合ってもらうけど、それ以外の時間は基本自由にしてもらっている。

 ただマオだけは常に仕事をしている。


 僕らと一緒に魔物と戦えるとわかってからは、もう家事をしなくていいよと言ってある。

 疲れた後で家事なんてやる気が起きないし。マオが来る前は妖精に洗濯などはお願いしていた。お菓子と交換だけど。


 でもマオはやることがないのか、暇になったら掃除洗濯をしている。

 それだとなんというか、体と心が休まらない気がする。


 僕は、人のやることにいちいち口出しするのは余計なお世話だと思っている。カオリのように、僕に被害が出るのは別だけど。

 なので、こんな面倒を見るようなことはしたことないし、しなくていいと思う。


 ただマオの場合、今までが異常だったので口を出すべきか悩む。もしかしたら好きでやってたりするかもしれないし。

 僕は朝食を食べながら少し考えた。そして一度だけ口を出すことにした。


 僕はマオに、生活に役立つ知識……用は勉強をしたり、やいたいことを見つけるため、これから町に出ようと話した。

 行き先はサドルの町。この家よりは刺激があるだろう。

 マオはすぐに承諾して、自室へ向かった。


 僕も体を動かす目的で外に出れるし、ちょうどいいだろう。

 カオリは……服を作るのに忙しいだろうから声をかけるのはやめておこう。


 でも女性の見方というものもあるかもしれない。

 それは僕にはわからないからやはりカオリにも時々面倒見てもらったほうがいいか。


 カオリにもこのことを伝えておこうと様子を見ると、こちらのほうを見ながらにやにやしている。

 なにかよからぬことを考えているのかもしれない。

 今話すのが怖いので後にすることにした。



 朝食を片付け終わると、今日は皆に休日にすると話した。

 あと部屋に戻る際、カオリにはマオのことを気にかけるよう頼んでおいた。



 部屋で家を出る準備を済ませると、僕はマオに声をかけて早速家を出た。

 すると、庭でガーディが黙々と木の棒で素振りをしているのが目に入った。


 素振りをすることはいいんだけど、なんというか……訓練かな?

 そういえば、モグと話しているとき以外、ガーディも遊ぶのを見たことない。

 というか笑ったこともほとんどないように思う。


 ストレス発散目的の休日なのに、皆真面目すぎて仕事に直結するようなことばかりしている。

 このままだといけないと、モグとガーディも連れて町に出ることにした。







 サドル町に着いたらとりあえず娯楽になりそうなものを探した。

 マオとガーディは観光だけで満足そうだけど。でもそれだけだと味気ない。


 屋台に行って買い食いはもちろん。劇を見てみることにした。

 安い席では劇団員が何を言っているのかほとんどわからず、すぐに劇場を出てしまった。


 皆も面白かったか聞かれても首をかしげた。

 それならと、直接内容を見れるように本を買おうということになった。

 でもこの世界では、小説というものはほぼない。というか娯楽が少ない。


 娯楽として思いつくものは……子供のかけっこやごっこ遊びだ。

 それ以外で見かけるものはほとんどない。しばらく考えてもやっぱり娯楽なんて出てこない。


 なので仕方なく自分で作ることにした。

 と言っても、僕らの世界のゲームとか、有名どころのシナリオをそのまま話すだけだけど。


 でもそれが二人には面白かったようで、黙って聞いていた。

 いや、面白くないから黙ってたのかもしれないけど。


 他には娯楽じゃないけどサッカーをしてみることにした。

 しなる枝を集めて丸める。それをボール代わりにして皆で蹴って遊んでみることにした。


 僕はスポーツが苦手だからパス回しなんてほとんどやったことないない。マオも僕と同じで苦手みたいだ。

 でもガーディは体を動かすことが得意だったようで、十分サッカーをしている。

 モグは足で蹴れないから頭で叩くけど、問題なくボールをまわせている。


 慣れてきたらどんどん速いパスをガーディとモグはやってくる。

 僕とマオは受けるのに精一杯な状況だ。



 一休みしようと皆に言って町でジュースを買ってくる。

 戻ってみると、ガーディとモグはずっとボールを蹴って遊んでいた。なんとなく皆の好きなことがわかってきた。

 僕は皆にジュースを配ると木陰で一休みした。



 今まで二人を見てきて、ガーディの場合は、体を動かすのが好きそうだ。素振りをしていたのも、やはり好きなことだったのかもしれない。

 でもどうせなら、剣を買って、ギルドに依頼して剣術を学んでみるとかもいいのかも。


 マオの場合は、体を動かすことは苦手みたいだから、小説とか、絵とか、歌とかなら興味でるんじゃないかと思う。

 いや、どうだろ。マオはまだよくわからないな。 



 ガーディに、剣術を学んでみるか話してみると、すぐにやってみたいと目を輝かせていた。

 僕はすぐにギルドに行って、剣術を教えてくれる人を募集した。


 本当なら習いにこちらから行けば安く済むけど、ガーディは見た目で何か言われそうだから直接雇ったほうがいいだろう。

 人はすぐに見つかって、週に1回決まった日にガーディに剣術を教えてくれることになった。


 一方でマオに何か気になったことがあったか聞いてみても、特にないそうだ。

 こればっかりはすぐに見つかるとは思っていない。僕だって、ゲームがなければほぼ無趣味だ。時々料理するくらいで。

 まぁとりあえず、今後何か気になったものがあったら、僕に言ってほしいとだけ伝えて家に戻ることになった。


 するとその日の夕食後、僕に料理を習いたいとマオから言われた。料理仲間が増えるのは嬉しいし、何より料理してくれる人が一人増えるのが嬉しい。

 ただ、これも仕事のような気もしなくもないけど。まぁ、それを言ったらガーディもか。

 マオの意思を汲んで、今後は一緒に料理を作ることにした。



 夕食を終えると僕はすぐに寝ることにした。

 皆はストレス発散できただろうか。僕は慣れないことをして非常に疲れた。

 その後ドアのノック音が聞こえた気がしたけど、まぶたはあがらなかった。







 もそりとベットから起き上がると、僕は身支度を整えて朝ごはんの準備を始めた。

 調理場へ向かうと、マオも調理場へやってきた。


 料理を教えるということだったけど、何を教えればいいのかわからなかったので、マオが疑問に思ったことを教えるということにした。

 ただ結局、終始見ているだけになったので、もう少し考える必要がありそうだ。



 朝食後、妖精達にはいつも通り過ごしてもらい、僕らは今後の会議することにした。

 議題はこのまま魔王軍の侵攻を止めるかどうかだ。



 現状だと、連絡する手立てもほとんどなく、さらに家に攻め込まれない保障もないため、遠征するのは怖い。

 なので僕はしばらくは家にいて、様子を見たいと皆に話した。


 しかしそれに反対するのが一人いた。カオリ……付きの妖精、レオンと言ったっけ?

 レオンの言い分としては、あと魔族は魔王を加えて3人という話だった。


 討伐に動く気はないが、これは思いもよらない情報だ。

 レオンの言うことが本当かどうかカオリに聞いてみる。


 レオンはあくまで神様から与えられた妖精だから信じている、という話だ。

 カオリが言いたいこともわかる。ただそれだとなぜフェアリーはこの情報を僕に言わなかったのか?

 っと考える間もなく、レオンが早く魔王の討伐すべきだとしつこくいってくる。……とカオリが言った。



 僕らはあくまで魔王を討伐する気はないとカオリに伝えてもらった。

 あくまで魔族の侵攻がなくなれば問題ない話、ということが基準にある。魔王を相手にするのは危険すぎる。


 とはいえ、魔王は城から出ないと思うから、野にいる魔族のあと二人をどうするかが問題になる。

 連絡の方法さえ確立できれば、その二人は討伐しても問題ないと思う。


 ただ二人を討伐したとき、魔王がどう出てくるかわからない。

 魔王自身が魔物を引き連れて殲滅させようとされたらまずいことになる。


 そうなると最悪僕らが出て行かなければならない。そして僕らで勝てるかどうかわからない。

 マオが放った魔法を僕らに向けられたと思うとぞっとする。対応しきれないだろう。

 ないとは思うけど、僕はフェアリーに魔法攻撃を防ぐにはどうしたらいいか聞いてみた。



「魔法の攻撃には魔法の防御しか対応できません。なので、防御する魔法を修得できる、障壁師という特性を持つ人を仲間にする必要があります」

「なるほど。じゃあ誰か仲間にしてからじゃないとだめか。みんなもう特性を持ってるし、変更もまだしたくないし」

「妖精族でいいのでは?」

「へ?」

「この家や罠の拠点も、魔法を使われたらすぐに壊れてしまいますよ? なので、常に拠点にいる妖精に守ってもらえば、問題なくなると思います」



 確かに。いくら罠の拠点を精巧にしても魔法を放たれると非常に弱い。

 大型の魔物がいれば、すぐ壊されて終りだろう。……まだ見たことないけど。


 僕はフェアリーの助言を聞き入れて、妖精達に障壁師という特性をとってもらうことにした。

 障壁師は魔法の防御というだけでなく、結界という魔法を使えるそうだ。


 結界は数度攻撃される程度では傷つかない魔法だそう。

 さらに物理・魔法のどちらにも対応しているため拠点の要とも言えるものらしい。


 なんでそんな便利なものを今まで言わないのかとフェアリーに言ったら、聞かれなかったのでと言われた。

 なんかやっぱり、最近フェアリーが冷たい気がする。話が終わるとまた静かになるし。

 というか、常に何かを考えているような……うわの空といった様子だ。







 とりあえず今は障壁師だ。妖精達には袋に入ってもらい、サドルの町の協会へ行くことにした。

 馬車に乗ってしばらくして教会に着いたら、袋を床に並べて順に特性をつけてもらった。


 教会で特性を受けてもらっている間、フェアリーに何か問題や悩んでいることがあるのか聞いてみた。

 でもフェアリーは濁して僕の考えすぎだと言った。

 でもどう考えてもおかしい。あの騒がしかったフェアリーがほぼ何も言わなくなったのだから。



 妖精達が入れられた袋に特性をつけてもらい、終わった頃には僕はかなり変な目で見られていた。

 神殿中から怪しいというか、何者なんだといった感じだ。

 僕はお金を多めにお布施してすぐにその場を離れた。


 妖精達には今後も手伝ってくれることを条件に、人間の町並みを見せたり、屋台のお店で買い食いなど観光をした。

 まぁ感想としてはさくらのときと同じように、僕のお菓子が食べたいという結論になった。屋台のお菓子は甘くないから好きじゃないらしい。







 家に戻ると早速、妖精達の特性の確認をした。

 妖精達の特性は障壁師に変わったけど、スキルまで覚えている妖精はまだいない。


 ただ罠の拠点で働いていれば、そのうち他の妖精達も覚えていくだろうとフェアリーに言われた。

 僕らとは違って魔物を倒した経験でのレベルアップが望めるらしい。


 僕らはレベルアップが出来ないのか聞いてみると、出来ないらしい。

 まぁ、レベルが上がるにつれて討伐する魔物がたくさん必要になるみたいだから、決まった数を狩ったほうが楽ではある。







 数日後、妖精達が障壁の魔法を覚えたみたいなので、早速罠の拠点に障壁をつけてもらった。

 現状だと一日おきに魔法をかけなおさないといけないらしい。

 妖精達のやることが少し増えたけど、拠点は守ることが出来そうだ。


 ただふと思ったら、僕達が戦う時の障壁師が足りてない。

 妖精に一人障壁師を借りれないか聞いてみると、フェアリーからマオなら使えると思う、と言われた。

 マオに直接聞いてみると、確かに使えるようだった。


 というか、フェアリーに言われて気づいたけど、マオがどんな魔法が使えるのかわからない。

 いくつか見せてもらったけど、それが全てではないらしい。


 マオに何が使えるのか、より具体的に聞いてみると、ほぼ全ての魔法は使えるという。さすが魔王スペック。

 ただ使うと以前のようにすぐに具合が悪くなるため、実際に戦闘で使えるものはほとんどないらしい。

 多分魔王関連の特性は、魔王の魔法を使うための力を受け継ぐもの、ということなんだと思う。


 ただ、現状でもほぼ全ての魔法がつかえるなら、本当に魔王を討伐できそうな気がしてた。

 もしかしたら、これを知っていたからカオリ付きの妖精レオンも、魔王の討伐を進めたのかもしれない。


 とはいえ、魔王と戦うことはやはり避けたい。

 僕はカオリに今後の方針を話した。



 まずは情報集め。あと二人の魔族が侵攻してきているかどうかを確認する。

 動きがなければ攻め込むのは容易ではないだろうから、僕らはその間を準備期間として鍛えたり、仲間を増やすことにする。

 逆に攻め込んでくるなら迎撃しに向かう必要がある。


 カオリは情報収集なんてしてくれないだろうから、拠点の防衛を頼むことにして、僕とモグとガーディ、マオで他の町の様子を見てくる。

 っと伝えると、カオリはすごく喜んで服を作ると意気込んだ。

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