9-4



 マオの力を知ってから数日、僕とマオとモグで森の狩りに出かけ、連携を確認した。

 モグには拠点作りで鍛えた堀能力で、一瞬でマオの前に落とし穴を掘った。


 マオには相手を挑発するような弱い魔法を放ってもらい、逃げたと見せかける。

 そしてマオを追いかけた魔物が穴に落ちたら、僕がナイフを落として狩りは終り。マオの魔法で魔物を回収してもらい馬車に乗せる。


 食後の運動のような感じで、日に数回これをやって体を慣らした。

 連携は順調で、マオもだんだん緊張がほぐれてきてよく笑うようになった。







 拠点が出来て数ヶ月が経ち、やっとカオリ達が帰ってきた。

 なんでなかなか戻らなかったかと聞いてみると、家ができてるかわからないから、と言われた。


 時々様子を見に来ればよかったじゃないかと聞かれると、考えつかなかったと返された。

 僕が何を言っても意味はなさそうだった。


 それよりもカオリは、さくらとマオにたくさん服を作ったようで、なぜかお披露目会のようになってしまった。

 何を着られても可愛いとしかいえない状況。さらにはなぜか僕の分も作ってきたと言われた。とはいえ辞退したけど。



 しばらくしてようやくお披露目会が終わって、そろそろ寝ようということになったけど、僕はカオリを捕まえて状況がどうなってるのか聞き出した。

 すると、口よどんで話をそらそうとする。



「まさか調査してないの?」

「ばれた?」



 拠点を出るときは、意気込んで任せろとかいってたくせに。

 でもカオリだし、何を言ってもしょうがないとあきらめた。ただ、次の日の朝ごはんはカオリの分は抜いておいた。


 朝食が終わると、馬車にカオリ達を乗せて、仕方なくサドルの街に調査しにいくことにした。

 そして僕らが家にいない間、拠点はマツバに任せることにした。

 もし何かあったときは、一定距離ごとにのろしを上げることで僕らに知らせるようにお願いした。


 現状は仕方がないけど、僕らは一定時間ごとに様子を見る癖をつけないといけない。

 ただそれだと面倒すぎるから、今後は違う方法で、遠距離で情報をやり取りできないか検証していきたい。







 しばらく馬車にゆれながら、街道を進むと、昼ごろにサドルの街へ着いた。

 町で食べ物を買うついでに、話もいろいろ聞いてみた。すると近くに魔物がたくさん集まっているらしい。


 冒険者ギルドでも討伐隊が組まれるほどで、かなり大規模らしい。近々攻めてくるかもしれない。

 僕らは街で得た情報を元に魔物が集まっている場所を自作の地図と見比べてみた。


 場所は計三箇所。町の東側を囲むように集まっているように見える。これはどう考えても魔族の仕業だろう。魔物の巣がこうも人間の町に近い場所にあるわけがない。

 それに聞いた話だと、実際に魔族もいるらしいし。この情報はでかい。


 情報が出揃い、あとは先に僕らが仕掛けるか、それとも仕掛けられるのを待つかだ。

 僕としては、先に仕掛けたい。罠を仕掛けるにしても、後手に回ると対処が難しい。


 でもカオリは反対に、仕掛けられるのを待ったほうがいいという。

 と言うのも、先にこちらに仕掛けられると、僕ら数人で全ての魔物の相手をしないといけないからだ。

 それなら街の力も借り、町の兵士を囮として戦力を分散させたほうが、安全に処理できるだろうということだ。


 でも魔物達はいつ仕掛けてくるともわからない。数ヶ月、あるいは年単位で待つ可能性もある。

 他の街も一斉に仕掛けられる可能性もある。僕らはこの町にだけとどまり、悠長なことをしていていいのだろうか?


 僕が反論すると、それならさっさと出てくるように仕向ければいい、とカオリに言われた。

 あくまでカオリが言いたいのは、町の兵を使うことらしい。その間に僕が罠など万全の準備をし、それが終わったのなら作戦開始すればいいと。


 カオリの言うことも最もだ。それを初めから言ってほしかった。いや、僕が気づくべきだったか。

 ただ、町の兵を使うとなると、僕の罠は逆効果になる可能性がある。落とし穴を掘って味方がはまったら元も子もない。


 というわけで、僕らは人知れず、町外れで魔物にちょっかいを出すことにした。

 とはいえ、それを町の人たちにばれると面倒ごとになるので、明方にこっそりと行なうことにした。




 明方眠い目をこすりながらも、町の東……魔物達が集まっている場所に向かう。

 そして奇襲をかけるつもりで、魔物が眠っている間に僕らは魔物達を狩った。


 その断末魔を聞いた他の魔物達が起き上がると、僕らすぐにその場を離れた。魔物たちからすれば、僕らは逃げ出したと思うだろう。

 ただし、そうは思ってもすぐに動けないはずだ。侵攻するかどうかは上の判断に任せると思う。

 現に、魔物たちは僕らを追う事はしなかった。


 侵攻してくるかはわからないけど、その間に僕とカオリはあらかじめ伝えておいた作戦通り、二手に分かれてそれぞれ行動した。


 僕とモグとさくらで、魔物の背後にいる魔族、その拠点となるテントの裏手にまわり、お決まりの落とし穴を数箇所もぐに作ってもらった。僕らの逃げ道を一応つくっておく。

 っと、モグがいくつか穴を作っているときに、魔物たちが雄たけびを上げ、地響きが起こった。

 魔族が号令を出したようだ。



 少し予定より早いけど、魔物が動き出したのをきっかけに、僕らは作戦を開始する。


 まずはカオリがリーダーとなり、ガーディとマオを率いて一部の魔物を陽動する。そして街に集中しないように遊撃の立場をとる予定だ。

 カオリ達に翻弄されなかった残りの魔物は、町の兵士達に任せる。


 次に僕らだけど、魔族の実力がマオレベルだと、正面から戦うのはリスクが高い。

 なので今回もいつも通りに罠にはめることにした。とはいえ、戦いが始まれば即席で罠を作ることは難しい。時間の勝負になる。


 それでもモグの掘るスピードが圧倒的だから、どんどん落とし穴はほれている。

 さらにマツバからもらった魔法の鞄に直接土を入れることで、目立つこともない。


 ある程度穴を掘ってもらったら、今度は魔族がいるテントに隠密で近づく。

 そしてテントの入り口に、モグが掘った土が入った魔法の鞄を逆さにして、即席の壁を作る。


 土を出したときはほとんど音はしなかった。ただ、異変に気づいているかもしれないので、しばらく様子を見る。

 が、魔族がテントから出てくる気配がない。一応探索のスキルを使っても中に動きはない。


 本来の作戦なら、魔族が出てきたところを、さくらが魔族の目の前を横切って注意をそらし、僕が魔族の後ろを狙う、と考えていた。

 でも動きがないので仕方ない。僕はテントの中に煙を入れてみることにした。さすがにこれなら気づくだろう。


 っと思ったんだけど、しばらく待ってもなにも行動してこない。

 おかしいと思ってテントの中を目で確認した。

 すると中にいた魔物はその場に倒れていて、魔族は奥のベットで寝ている。


 さっきまで立っていた魔物が倒れたのは多分、一酸化中毒かな? 火事のときは身をかがめるようにってあれほど避難訓練で……。

 っと、今はふざけるのはやめておこう。僕は隠密のスキルを使い、息を止めてテントの中へ入る。そして一匹ずつのどにナイフを入れて片付けていく。


 最後に魔族だ。魔族は本当に寝ているのかどうかわからない。

 ただ、探索のスキルでは既に敵対心はなくなっているから死んではいると思う。明方攻めたから眠かったのかもしれない。眠ってそのまま……かな?

 とりあえず僕はナイフで首を刺した。が、うめき声もなにもしない。やっぱり煙で死んでたらしい。


 僕は死体をそのままにしてカオリ達と合流することにした。

 何もしなかったさくらは拍子抜けだと魔物達をディスってた。




 カオリのほうへ駆けつけると、こちらも既に目標となる魔物達は討伐して、町を襲う魔物達の後ろから町を援護しているようだ。

 そうして討伐していたせいか、あちこちから逃げ出す魔物が出てきた。

 僕らもカオリ達と合流して逃げ出した魔物を狩り、人目を避けることにした。




 昼前に全ての決着がつくと、町のほうはたいした被害がなく片付けることができた。


 僕らはそのことを見越して、魔物が全滅する前に途中から魔物の回収をしていた。そして町の門が開いたらすぐにギルドに素材を持っていった。

 合計金額は大金貨1枚と金貨500枚。本当はもっと狩ったけど、さすがに怪しまれると思ってやめておいた。 


 ギルドを出ると、いまだ勝利の熱は引かず、街は魔物の撃退に酔いしれている。

 そのため町全体が高揚感に包まれているようで、お祭り騒ぎをする住民もいた。



 僕らはお祭り騒ぎもほどほどに、食材を買っったらすぐに家に帰ることにした。

 僕としては、サドルの町で昼食を食べて行きたかった。でもさくらが、僕が作った料理じゃないと嫌だと言い出し、皆がそれに賛同した。

 嬉しいことだけど、それだと僕が休まらないから、近々妖精をつれて料理人の特性を持つ子を一人増やすことにした。







 家に戻り料理を終えると、僕は自室のベットに倒れこんだ。本当ならこのまま寝てしまいたいところだけど、念のためマオに確認したいことがある。

 マオを自室に呼んで、マオの家族のことで何か知っていることはないか聞いてみた。


 現在魔族を二人殺している。後は魔王だけとすれば、マオを含めて4人。

 兄弟が4人いれば多いほうだと思う。


 あまり魔族を殺してしまえば、マオが魔王の特性を継承する可能性がある。

 なのでマオが知っているのであれば聞きたかった。でもマオは首を振り、わからないと言った。


 監禁されていたのだから当然だと思う。ただそうなると今後の対策がし辛い。

 魔王が直接攻めて来た場合、それを倒してしまえばマオが魔王になってしまう。


 最悪、マオが魔王になった場合、人間との付き合い方をどうするのか。

 どうなるかはわからないけど、マオに人間とどう付き合うか考えておいてほしいと伝えておいた。


 するとマオは目を泳がせて僕を見た。

 僕はマオの背中を押して、自室に戻ったら少し考えてみてと言って廊下で別れた。


 多分マオは僕にどうすればいいのか、聞きたかったと思う。

 でもこの問題は僕が決めることは出来ないと思う。魔王が何を背負ってるのか僕にはわからないし。


 念のためフェアリーにも魔族があと何人いるか聞いてみた。正確な数はわからないけど、数は結構あるそうだ。

 人間の国があっという間に滅ぼされかけていることを考えれば、納得はできる。


 納得は出来るけどそうしたら今後、僕らの家との連絡をどうすればいいのか。

 そうそう魔物に遅れをとることがないことは、罠の拠点を担当している妖精から聞いている。思いのほか罠にはまってくれていると。

 なので多分、魔族に襲われても大丈夫だとは思う……けど、心配だ。何かあったときは、以前の家に戻るように伝えてはいる。でも使い捨てるのはもったいなくも感じる。



 っといろいろ考えて、僕がベットで寝落ちしそうになると、ドアをノックする音が聞こえた。

 返事をしてドアが開くとカオリだった。何かあったのか聞いてみると、魔王を討伐するのかどうかと聞かれた。


 なんでも、カオリ付きの妖精が早く魔王を倒せとしつこいようだ。

 カオリの妖精は、僕の力も弱々しいながらも認めていて、魔王くらいならばもうどうとでもなるとも言っているようだ。


 僕のフェアリーとは違い、勝気な性格のようだ。ただそれはあまりよろしくない。

 僕はまだ無理だとカオリに言って、部屋を出てもらった。


 ……本当ならカオリにマオのこととか話してもいい気がする。

 でもあんなのでも、マオと戦うとなったら心を痛めるかもしれない。……たぶんきっとおそらく。



 それにしてもカオリ付きの妖精は、今になってなぜ魔王のことを言い出してきたのか。 

 この世界のナビ妖精だから、案内するのはわかる。カオリは勇者だから、魔王を倒してほしいとも思うだろう。

 でも、それならなぜ今まで何も言わなかったのか。


 ここまでの時間、ほぼ僕が考えたとおりに進んでいる。

 ナビが機能したことは説明のみで、行動指針は何もなかった。


 それにマオのあの魔法を見た後じゃ、とてもじゃないけど世界を救うなんて筋道は見出せない。死ぬ可能性が高い。

 大規模魔法の存在をカオリは知っているんだろうか?


 もし魔王を倒すなら、よほどの準備と工作が必要に思える。

 仮にも相手は王で、一国の主なのだから。


 ……カオリの付きの妖精は僕のブラックリストに入れていこう。

 僕がカオリに言い負かせられると、僕も一緒に道連れにされそうだ。

 もし討伐に行くならカオリ一人で、と思わせておかないと。



 僕はベットにまた横になって、ふぅーっと息を吐いた。

 ……そういえば最近のカオリの妖精はともかく、フェアリーが沈黙することが多くなっている。今も何も言ってこない。


 僕が質問することが少なくなったから当然なのかもしれないけど、何か悩んでいるような気もしなくもない。

 仲間なのだから話してほしい……けど…………。

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