9-3



 家作りが終わると、僕のほうもカオリが戻ってくるまでは休暇にすることにした。

 と言っても、お菓子作りや料理だけだとさすがにあきるので、狩りもすることにした。どうせなら新しい仲間もほしい。


 っと、思いついたので早速戦闘の準備をして部屋から出た。するとちょうどマツバと鉢合わせた。

 なんでも僕に用があるということで、手には鞄を持っていた。


 マツバが言うには、ようやく魔法の鞄が一つ出来たということだった。

 いろんなことがあったから、すっかり鞄のことは忘れてた。マツバには感謝しかない。

 今はまだ、カオリ達の分は作れていないので、追々各自に渡すとのことだ。僕はそれでお願いした。


 せっかくなので、早速鞄にナイフやロープを入れてみる。すると、全部の持ち物が入っていった。それでいて重さに変化はない。

 ただ取り出すときはどうすればいいんだろうと、手を突っ込んでみる。すると……何もない。どういうこと?


 僕はあわててマツバを追いかけて、魔法の鞄の使い方を教わった。



「魔法の鞄は、あくまで容量を見た目より大きくしているので、手で取り出そうとするのは困難かと」

「じゃあどうやって中身を取るの?」

「鞄をひっくり返せば出てきます」

「それって、中身全部出てこない?」

「はい」



 なんてことだ。もっと便利なものかと思ってたけど、戦闘には使えそうにない。

 ただ、倉庫のかわりとしては使えるということなんだろう。または、採集に使うなら問題はない。


 というかこれ、モグが掘った土を入れて、移動させるのが楽になるかもしれない。

 っと、いろいろ考えてみたけど、今は戦闘に使うものはただの鞄に入れ、採取するときは魔法の鞄を使うことにして、使い方は後で考えることにした。


 僕はマツバに御礼を言って家を出た。




 現状、僕の仲間はほとんどが親愛の証であり、スキルの効果があるのはさくらとマオだけだ。


 フェアリーからの話だと、親愛の証で仲間になった魔物は、義兄弟の杯スキルの上限とは別なのでカウントしないらしい。

 なので、仲間にできる上限は今の状態で、あと二人は仲間を増やすことが出来る。


 僕が今仲間にしたいと思うのは、盾となる魔物と、魔法を使える魔物だ。

 ガーディが瀕死になったら、交代で盾となれる魔物がほしい。魔法で後方支援をしてもらうのもいい。


 っと思ったけどその前に、拠点作りでなまった体を動かさないと。魔物を仲間にする前に殺されるかもしれない。

 僕は準備運動もかねて、近くの森で狩りをすることにした。



 家の外に出ると、マオが洗濯物を乾かしていた。

 天気が良くて、ぽかぽか陽気だ。洗濯物を乾かすことは、なんてことない光景なんだけど、マオを見てふと思った。

 マオの特性って結局なんなんだろう。


 教会で特性をもらえないから、魔王に関することだとは思う。

 フェアリーからは、魔王の力を引き継ぐ話は聞いていたし。


 気になったので、僕は直接マオにどんな魔法が使えるのか聞いてみた。



「マオ! ちょっといい?」

「はい?」

「マオって、何の魔法が使えるの?」

「いろいろ使えますけど……」

「じゃあ、得意な魔法ってある?」

「特には……あ」

「ん?」

「あ、いえ!? その……じゃあ一つだけ」



 得意かどうかはわからないけど、見せれる魔法が一つあるみたいだ。

 それならばと、適当に目標を作って、それに魔法を当ててみるようにマオに頼んだ。



「準備できたら、あの木の棒に魔法を当ててみて」

「わ、わかりました……」



 マオが詠唱を始めると、僕が震え上がるほどに、急激に気温が下がった。

 空気中の水分が凍りついて、地面には霜が降り始めた。

 そして魔法の詠唱が終わったとたん、あたり一面が一瞬で凍った。


 僕は震えながら、愕然とした。こんなにも強い魔法があるとは思っても見なかった。

 カオリの魔法が下級ならマオの魔法は上級だろう。それほどまでに全然違う。


 というかこれを見たら、絶対魔王を相手に出来ないと思った。

 さすがにこの規模の広範囲魔法で凍らせられたらどうにもならなくなる。


 今はマオに義兄弟の杯スキルの効果があるけど、魔王になったら、イレギュラーが起こるかもしれない。いつスキルの効果が切られるかわかったもんじゃない。

 そうなった場合、僕らは一気に劣勢になるだろう。


 とはいえ、考えすぎても良くない。

 僕は思考を切り替えて、現状は強力な魔法使いが手に入ったことになるので、有効活用すればいい。


 地下空間にこの魔法を放てば、大規模な冷蔵庫か冷凍庫を作ることができるだろう。

 後でモグにお願いしてまた穴を掘ってもらわないと。


 それと、マオには今後狩りについてきてもらおう。

 そしてマオに遠距離から攻撃してもらって、僕達は影から攻撃がいいだろう。



 っというわけで、早速マオを狩りに連れて行こうと思ったけど、なにやら顔色が悪い。

 マオの話だと、あの魔法は一回使っただけで疲労が激しいらしい。つまり連続で使うことはできない。


 なんでそんな魔法を使ったのか聞いてみたら、マオは口をつぐんだ。


 理由を考えてみると、ほめてほしいから、かな? 確かに強力な魔法を使えるのはすごい。でもほめてほしいからって、マオがこの危険な魔法を使うとも思えない。

 なら、僕に恐怖心を抱かせるため? だとしても、僕のスキルを既に発動しているわけだし、裏切れないから必要性はないだろう。

 だとしたらなぜ……?


 マオはだんだん顔色が悪くなってきているので、一度地面に寝かせた。

 自分の体がこうになるまで、なんであの魔法を使ったのか……。


 そこでふと、先ほど会話していたときに、マオが何か考えていたことが気になった。

 僕が魔法を使えるか聞いたとき、特にないと言っていた。でもマオはそれだといけないと思って、言い直して魔法を見せた。それがあの強力な魔法。 


 憶測でしかないけど、もしかしたら、僕に使えるやつだと思われたかったのかもしれない。 

 僕が捨てないように。


 今のマオじゃ人間にしろ魔族にしろ行き場はない。見つかった時点で殺されるかもしれない。

 僕が使えないと手放したら、一人で生きていけるかわからない。だから無理をしてあの魔法を見せた。



 まぁ僕の憶測はよく外れるから違うかもしれない。

 でも一応僕はマオに、マオを手放すつもりはないから無理はしないで、と伝えた。

 するとマオは閉じていた目を開いて僕のほうを見た。


 そもそも、マオを手放さない理由として、魔法を抜きにしても、カオリの服を着てもらうという一番の理由がある。

 マオが来てからというもの、僕の服は簡素なものになっている。カオリは今、マオとさくらをいかに可愛くするかに心血を注いでいるように見えた。

 カオリの相手をしてくれるならこれ以上のことはない。


 とりあえず、今後は僕らと一緒に戦ってもらうと伝えると、マオは地面に横になったまま張り切りだした。

 そのせいか、顔色がさらに悪くなってきているので、マオを背負って家に戻って休ませることにした。

 僕もお菓子を食べながらのんびりと休んだ。


 マオが起き上がれるようになり、部屋で横にさせると、僕は残りの洗濯物を干して、またお菓子を作って補充をしておいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る