9-2



 家に着く頃には夕方になり、僕は急いで夕飯を作った。

 妖精達の分も作らなければならないから量が多く大変だ。


 夕食を食べ終えると、さすがに僕も疲労困憊で寝ようと寝室へ向かった。

 でもすぐに里長から声をかけられた。



「え? 僕らの配下になりたい?」

「はい。この家の技術や料理など、我らにはないものをアキ殿はお持ちだとすぐにわかりました。それにあの子からの話を聞いていれば、あなたは魔物や亜人とも仲がいいとか。お人よしがいいとは言いませんが、それほどあなたは彼らをひきつける力をお持ちだ。なので我らも配下に、と思いました。まして我らを家に招かれご馳走まで出してくださったのですから」

「ご馳走とは言えないけど。というか、一つ忠告があるんだけど、僕らは誰とでも手をとるつもりはないよ。あくまで僕らを裏切ったりしないようにしているだけ。これがその証」



 僕はスキルで手に入れたことを見せようと左手を見せる。すると里長はなぜか驚いた。



「し、親愛の証が二つも!? もう一つの証はよくわかりませんが……やはりあなたは慈悲深い人間なのでしょう」

「親愛の証って有名なんだ……」

「もちろん。番となるものと懇意を結ぶときに浮かぶものでもありますから」

「な、なるほど。でもこの二人は番じゃないんだけど」

「だからこそです。番や子以外に命を懸けれるものなどそうはいません。つまりはあなたをよほど信頼しているものが二人いるということです」

「……そう言われると嬉しいものだけどね。まぁとにかく、僕は誰でも仲間にしたいというわけじゃあないよ。君たちが僕らを裏切らないと約束できるのなら配下……というか仲間になってもらうよ」

「もちろんです」



 僕は少しの間、里長の目をじっと見つめた。

 目をそらさないくらい意思は固いらしい。



「そういえば、里長さんのお名前まだ聞いていませんでしたね」

「一応、先代からはマツバと言われておりました」

「わかった。じゃあ僕もそう呼ぶから。これからよろしくね」



 僕はスキルに使う酒を持ってきて里長……マツバ契約を結んだ。

 そしたらまた親愛の証が増えた。マツバも僕に命を張るつもりらしい。


 もらったものはしょうがない。とりあえずマツバには、親愛の証のお礼と、それについてのルールを話した。

 マツバには意外な顔をされたけど、僕らは仲間なのだから命を捨てる行為は避けてほしい。マツバは頭をさげ了承した。


 それとマツバには、妖精達の面倒をこれまで通り見てもらうことと、彼らを守る対価に樹蜜を納品することをお願いした。

 その代わり僕らは、彼らの居場所と安全と料理を提供する、ということで納得してもらった。とはいえ、居場所はまだ作っていないので、今日のところは居間で過ごしてほしいと伝えた。


 とりあえず上下無しに、今後も以前と同じように付き合いたいと話しておいた。

 そのほうが気兼ねなく付き合えると思う。


 僕がそう言って最後にあくびをすると、マツバは気を利かせてすぐに退室した。

 さすがに大人な対応だ。カオリじゃこうはならない。



 僕はベットに倒れならが、今後をどうするべきか考えた。


 眠くてあまり頭が回らないけど、妖精達が一緒にいるのなら彼らの家を提供しなければならない。

 妖精と人間を一緒にしていいかはわからないけど、生活様式は人間に近づけるつもりだ。特に排泄は病気の原因になりえるし。


 それと妖精達の家を作る場所が、ここでいいのかわからない。

 というのも、僕らは水場があり、川の下流で誰も使っていない場所を選んだだけだ。

 罠など一応設置はしたけど、魔物が家に来ても対応できるものはない。皆を守るのならやはり、お城のようなものがあったほうがいい…………。




 っと、家を作る場所について考えていたらいつの間にか寝ていたらしい。既に日付が変わり朝日が昇っている。


 僕は朝食を作りながら、漠然と今後のことを考えいてた。

 そうしていると、いつの間にか僕の周りに妖精が集まりだしている。

 妖精達は興味津々でじっと見つめている。



「そんなに見つめても何も変わったことはないよ」

「手伝おうか?」



 僕は妖精達のこの言葉でハッとする。そうだ、妖精にやってもらえばいいじゃん。

 彼らは小さいから子供のように思ってたけど、そもそも今まで自分達でやってきたわけだ。


 僕自身が何かする必要なんてない。仲間なんだからちゃんと頼めば聞いてもらえるかもしれない。

 僕は妖精達の申し出を受け入れて、幾人かの妖精に料理を手伝ってもらった。


 鍋など大きいものは僕がおいて、他のものは妖精達が魔法を使って材料を切ったりする。

 魔法を使えない僕には驚くべき光景だ。彼らは小さくても魔法が使える。



 朝食時、皆が集まったところで妖精達の家について説明をした。

 そして人間の生活様式に寄せてほしいとお願いすると、妖精達は問題ないと快く受け入れてくれた。


 妖精達の家を作っている間、カオリには妖精達の監督をしてもらい、一方で僕は一人、魔物の動向を探るため街に出るということを伝えた。

 もしまた魔物が集まり、魔族が拠点をつくろうとするのなら、最優先で拠点を破壊しなければならないだろう。


 会議を終えると、僕は早速出かける準備しようと部屋へ戻った。するとすぐカオリがやってきた。



「ねぇ、アキの役割とあたしの役割交換しよ」

「え?」

「家作りなんてあたしじゃどうすればいいのか検討もつかないし。それに魔物の動向を探るなら、魔物複数体と鉢合わせても問題ないあたしのほうが適任でしょ」



 確かに僕じゃ魔物や盗賊に囲まれた時点で危ない気はする。

 でも隠密や探索のスキルがあるから、魔物の動向を確認するときはすごく使える。

 と言ったら、そこまではやらないと言われた。



「あくまで街での情報を収集して、魔物の動向とかの確認は二人一緒のときやるべきよ。それで探りに行って当たりだった場合は、そのまま狩れば二度手間にもならないでしょ。そもそも何かあったらどうするの? アキが一人でそんなことするの危なすぎるよ」



 カオリの言い分は最もだ。

 けど僕だってカオリが心配だ。カオリの強さに目をつけられたらどうなるかわからない。

 最悪僕も道連れで魔王討伐に行かないとだし。


 でも魔物が集まっているかどうかだけの情報収集なら、そんなことにはならないか。



「んー……わかったよ。なら交代ね。カオリに情報収集をお願いするよ」

「やった!」

「ん?」

「私に任せなさい!」

「情報収集をするんだからね? それとなるべく力は使わないように。本当の実力は隠しておいて。それとガーディも一緒に連れて行くように」

「オーケーオーケー!」



 なんか反応に真剣みがない。

 まぁカオリがにこやかに了承したから、なにか裏があったんだろうけど……仕方がない。

 僕は居間に戻って妖精達と打ち合わせすることにした。




 カオリ達が出立すると、早速妖精達と立地について話し合いをすることにした。


 ちなみに大雑把な国の場所については、フェアリーから教えてもらった。

 そしてフェアリーに言われた通りに、僕が国の配置を書いて自作地図を作った。漠然とした陸の形がわかる世界地図だ。


 道などは載っていないけど、魔王との距離もわかるから今後も重宝するだろう。カオリともあとで情報のすりあわせができそうだ。

 っというか、こんな便利な機能がついてるなら初めから伝えてほしかった。



 自作の地図を使ってしばらく妖精達と話し合った結果、魔王に滅ぼされた地域の一部を家の土地として使うことにした。

 人間の国がある場所は、勝手に村や町を作ると、徴税などされそうで面倒くさそうなのでやめた。

 それと魔族に滅ぼされた地域を使うのはもう一つ理由がある。僕らの拠点を魔族の標的にすることだ。


 魔王の標的がこちらに向けば、それだけ現在の人間の生存圏が脅かされることは減るだろう。

 僕らは住居はもちろんだが、罠ももりだくさんの拠点を数箇所にする予定だ。


 さらに罠以外にも、作物用の拠点、森での樹蜜獲得拠点と様々ば場所に拠点を置くことにした。

 そして拠点同士で連携できるようになるべく狭く、それでもそれぞれの拠点を維持できるような距離にする予定だ。


 この拠点を作るうえで、最高戦力はどうしても勇者の力になるのでカオリには平時、一番の最善線の家にいてもらうことも決定済みだ!

 これで今回何かたくらんでいることは水に流そう!


 そして普段僕らがいる住居には、ほっとするような空間をたくさん作る予定だ。

 皆にも楽しめるように、公園とか広場とかもつくる予定。


 もうこれは町と言ってもいいくらいのものだと思う。

 妖精も皆、目を輝かせながら話し合いに参加してくれた。


 ただ、これを作るのには相当な年月も掛かる気がする。

 とはいえ、ゲーム感覚で取り組めば面白そうではある。




 このやる気がなくなる前に、僕らはすぐに魔王にほろぼされた地域にある森へ向かった。

 セドの町を越えた、人間が手出しはしないだろう場所だ。

 僕らの今住んでいる家とも近いし、悪くない場所だと思う。




 森に着くと早速、僕らが住む家を建てていくことにした。

 図案は大体以前の家と同じようにすることにしたので、滞りなく進めことが出来そうだ。


 川を使ったの水道は、前回と同じようにモグに穴を掘るようにお願いした。

 また、家となる木の伐採は魔法を使えるマオと妖精に頼んで、どんどん作業が進めていく。


 僕は皆が疲れたときのために、お菓子を作っておくことにした。もちろんご飯も。

 今日中には出来ないだろうから、食料も都度、持ってこないといけない……と思ってたんだけど、昼を待たずして僕らの家はあっという間に出来上がっていた。


 この世界の皆がチートすぎる。


 ちなみにこの間さくらには、家の快適生活のため、魔石に細工をする作業をしてもらった。

 暖房や調理用の火の魔石、冷蔵・冷凍庫や冷気用の氷の魔石。これらがあるだけで生活環境は激変だ。

 

 部屋にも砂場を設けており、氷の魔石で夏は涼しく、火の魔石で冬は暖かくできる。

 寒くなりすぎたり、暑くなりすぎた場合は、金属製の仕切り板で対処する予定。


 現状どうなるかははっきりとはわからないけど、現実世界並みにすごせると思う。 




 昼をはさみ、妖精達が昼食を終ると今度は、囮となる罠の拠点に取り掛かることにした。

 囮となる拠点には魔物を自動で狩るように、落とし穴、迷路などを盛りだくさんで歓迎するつもりだ。



 例として僕が作り上げたものに、入り口はただの町のような造りにして、中に入ると出てこれないように迷路のようにした。


 入り口付近の家には、毒入りの食べ物などを用意。井戸と思わせた毒草入りの水のみ場も完備。さらには床が抜けてそのまま出て来れないように、ひょうたん状の落とし穴などなど、罠盛りだくさんにしておいた。



 迷路のほうには飛び石の通路を作成。飛び石の上は、必ず血が出るように、表面をぎざぎざに。そしてその周りには堀を用意。ちなみに堀は深く、底には川の水が常に流れるように設定。

 水の中には、油蛙の時にお世話になったピラニアもどきを入れておく。そして水があふれないよう、下水と同じように、最終的には大きな穴の中に流れ落ちる設定。


 これを攻略されたら、今度は下り坂道にご案内。

 通路は徐々に傾斜をつけて、最後は滑り台のように地下へ引きずりこむ。一方で次の道となる通路も、滑り台で落ちそうになる、ぎりぎり目で見える位置に作っておく。

 地下へ引きずり込む滑り台の表面には、お馴染の突起をつけて、擦れて傷がつくようにしておくよう設定。

 落ちた先の地下には水が流れていて、もちろんここにも、ピラニアもどきさんを配置しておく。


 迷路の最後は地下に移動。

 ここまでたどり着くことが出来た魔物にはご褒美として宝箱を用意。そして宝箱の奥にはさらに奥に進める道も見せておく。行き止まりだけど。

 そして宝箱……というか前へ進むと、自重で地下へ落ちる滑り台になっている。バネをつける予定なので、終わったら自動でまた元に戻る仕様だ。

 もちろん、その滑り台の表面はざらざらの突起付き。行き着く先は、ピラニアさん達とパーティだ。



 っといった感じの、空を飛ぶことが出来なくて、体格も小さい魔物限定の罠だけど、妖精達と皆で楽しく考えて作っていった。

 今回は僕が発案者だけど、妖精達もノリノリで手伝ってくれた。どうやら僕らは似たもの同士らしい。

 ただ似ているはずのフェアリーは、横からうえ~っと変な声を出していた。


 その後、僕が作った罠の拠点は一週間は掛かった。

 家と比べるとさすがに時間が掛かる。それでも楽しかったから問題ない。

 ただ、僕は罠ばかり作ってもいられない。


 今後の罠拠点は妖精達に任せることにした。

 彼らは目を輝かせ、思い思いにそれぞれ罠を張り巡らせた拠点を、いろんな場所にたくさん作っていった。よほど面白かったんだろう。


 僕は妖精達に後を任せ、今度は真面目に農作地を作ることにした。



 農作地は、魔物のことを考えるとできれば山につくりたい。平地ではどうしても大軍が来てすぐに荒らされてしまう。

 農地で足が取られるという作戦にも使えるが、せっかく育てたものを踏みつけられるのは面白くない。

 なので、被害が最小限になりそうな山に農地を作ることにした。


 ただ山に作るとなると、今後の作業が大変になる。

 まぁ、モグと魔法があれば更地にするのは簡単だろうけど。それでもあまり規模は大きくしないつもりだ。


 植えるのは、踏まれるとまずいものだけ。踏まれても大丈夫そうなものは平地におけば、魔物が攻めてきたとき足場が悪くなるしちょうどいい。

 とはいえ、踏まれてもいいと思えるものは地下に出来るジャガイモやサツマイモとかかな。



 切り開く場所を決めると、魔法を使える妖精達を一時的に呼んで、伐採したり、土を掘ってもらった。

 モグやマオにも協力してもらうい、一週間程度で形になってきた。


 ちなみにモグは、ほぼ休みなしの穴掘りだ。

 罠の拠点作りから今までずっと穴掘り。

 何かで労ってあげないと発狂するかも。






 数ヶ月が経つ頃には、罠の拠点の数もおそろいほどになったし、僕らの居住地も文句なしといえるものになっていた。

 僕らの町は完成と言っていいだろう。

 今後は今まで通り樹蜜などを手に入れてすごしてほしいと妖精達に伝えた。


 けど、罠作りが面白かったのか、趣味でそっちもやりたいと言い出すやからが結構いた。

 小さくて可愛い見た目なのにやることはエグイ。

 けどやりたいのなら、止めるのももったいないので、勝手にやらせることにした

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