9-1:拠点2



 僕は朝食を食べ終えると、マオとサドルの街へ行くことにした。

 特性をもらうことが一番の目的だけど、それ以外にもいくつか食材や魔石もほしい。


 魔石というのは、フェアリーに聞いた話だと、現実世界での電池のようなもののようだ。

 その魔石に細工師が刻印を刻むことで、魔法を持続的に放ち続けることができるのだとか。


 例として紹介されたのは店先にある光る石。

 夜は光が灯っているのは見たことある。ただ、昼も灯ったままということらしいので、燃費はあまりよくなさそうだ。


 ちなみに魔石は、魔物の心臓にあり、大きさによって魔物の強さが変わるのだそうだ。

 以前ガルを狩った時以来、じっくりと見たことはないけど、その時は確かに石のようなものはあった。

 ただガルの魔石はすごく小さく、それだと売り物にならないため、皆捨てているそうだ。


 今回はそれよりも大きな魔石をギルドで買おうと思っている。

 さくらが細工師の特性をもっているから、魔石さえあれば冷蔵庫もどきが作れる。


 それと、魔石以外にも食材を多めに買っておきたい。今後魔王の侵攻により、食べ物が手に入らなくなるかもしれないし。




 マオをつれて馬車に乗り、サドルの町に着くとすぐに教会に行って、特性をもらえるよう神官に頼んだ。

 祝詞が終り、特性をもらえる、と思ったけどマオは特性をもらうことが出来なかった。


 神官からは不思議に思われたが、僕には少し心当たりがある。魔王の継承者だけが授かる特性が、既にマオにあるのかもしれない。

 僕は礼金となるお布施を置いたら、すぐに街に出た。



 教会を出ると、マオは先ほど特性を授かることができなかったことに、少しショックを受けているようだった。

 僕は屋台でクッキーを買ってマオにあげた。


 嫌な思いは甘いものでも食べれば、どこかに消えてしまうだろう。

 と思って買ったんだけど、マオは一口食べると首をかしげた。



「どうしたの?」

「なんか……あまりおいしくないです」


 

 そういわれて一つクッキーをもらった。……うん。バターもなく、甘さもほとんどなく生地も少し厚い。その代わりナッツが入っているだけの何だろ……難いパン?


 僕は違う屋台の、甘いだろう食べ物を探してマオにあげた。でもやはり甘くないらしい。

 またマオから一つもらったけど、確かに違う。今度は少しは甘いけど、ドライフルーツのみが入った難いパンだ。


 僕が作るものと見た目一緒なので、甘いと思ったのに。まぁ仕方がない。

 今後は甘いものを作りおきして、冷蔵庫に入れておいたほうがよさそうだ。

 何かあったときのご褒美や、非常食にもなるかも。


 それでもせっかく買ったお菓子なので、マオを馬車に乗せ、ゆっくり食べてもらうことにした。

 僕はその間に魔石と、たくさんの調味料を買いに行くことにした。


 調味料として特にほしいのは砂糖だ。これがなくなれば僕も甘いものが作れなくなる。

 妖精達から樹蜜をもらえると思うから、甘いものがなくなるわけじゃあないけど。それでも樹蜜だけだと合わないお菓子もあるから砂糖は必須だ。出来れば砂糖が採れる地方を最優先で魔物から守るべきだろう。

 っというわけで、たくさんの砂糖と、その他調味料をたくさん買いこんで馬車に積んだ。そして僕らは町を出た。







 朗らか陽気の帰り道、昼食を買ってくればと少し後悔していた。

 今の日の高さから、家に戻る頃には正午になるだろう。帰ったらすぐにご飯を作らないといけない――



「あ、アキ……さん」

「え? どうしたのマオ」

「あ、あれ……」



 マオから初めて話しかけられたと思ったら、森のほうから広範囲に煙が出ている。はっきりと異常だとわかった。

 あの森は初めてさくらと出会った森で、僕らの家とも近い。僕は急いで馬車を走らせ家に戻った。







「皆! 無事!?」



 急いで家のドアを開けると、そこには妖精達がたくさんいた。

 森のあの煙から察するに、妖精達は森から逃げてきたんだろう。でもどうしてここに?



「アキ、ごめん。仲間が危ないって、あたしに連絡をよこしたの」

「問題ないよさくら。それよりここにいる妖精達に怪我はない?」

「うん。一人だけ怪我をしていた子がいたけど、カオリに直してもらった」

「そっか。よかった」

「それで、アキにお願いがあるんだけど」

「お願い?」



 さくらはそういって里長のほうを見た。



「アキ殿。申し訳ありませんが、しばらくこの家の付近に居を構えてもよろしいでしょうか?」

「それはいいですけど。森で何があったんですか?」

「魔物が攻めてきたんです」

「魔物が? 森に?」

「ハイ。我ら妖精族を配下に加えようと。しかし我らは争いは好まない上、そもそも戦えるものも少ない。配下になろうと無駄に死ぬだけです」

「そうだよね。そうじゃなかったら妖精が人間に捕まったとき、人間を襲えばいいだけだしね」

「はい。……ですが、そう言っているにもかかわらず、魔族は配下に入れとしつこいのです。ともに人間を殺そうと。確かに人間に恨みはありますが、それでも率先して殺そうとは思いません。我らは中立の立場を貫くと申しました。そうしたら、魔族は我らが妖精が人間とつながっていると言って、配下の魔物を使って里を壊し始めたのです。幸い魔族の攻撃は、魔法が使える者が仲間に当たらないように反らし、今こうしてここに逃げてこられたということです」

「ちょっと待って。それって、この家の場所見つかってるんじゃない? さくら、ちゃんとまいてきた?」

「どうかな……そこまでちゃんと見てなかった。逃げるのが優先で……ごめん」

「わかった。じゃあさくらはカオリをつれてきて。作戦会議だ。森を襲った魔物、皆殺しにするよ」

「は、はい!?」



 僕の声が怖かったのか、さくらをはじめ妖精達は僕の声におびえたような声を上げた。

 ちょっと待って。なんで僕が怖がられるんだ。


 さくらがカオリをつれてくると、僕はカオリに家の守りを任せ、外に出ると伝えた。

 そして探索のスキルを使ってあたりを見回す。




 すると数匹の魔物が家の周り付近を探索している。やはり妖精を追いかけてきたようだ。

 僕は一匹ずつ、隠密を使いながら魔物を処理して家に戻った。



 討伐した魔物を見たさくらはまた、ごめんと頭を下げた。問題ないよと伝えたけど、現状は皆に報告した。

 魔物はこの家を見つけてはいないようだけど、この家の周りをあちこち捜索している。


 昨日ちょうど、魔王が使役する魔物は減らそうと思っていたところだ。

 妖精達の警備はさくらに任せ、僕らは魔物討伐に打って出ることにした。

 ただもし討ちもらして、家を襲撃されることがあったら、すぐに逃げ出すようにさくらに言っておいた。




 家を出ると僕は索敵のスキルを使いながら、森をくまなく捜索した。

 元々森に住む魔物達は逃げ出したようで、出会う魔物は全て、本来はこの森には生息するはずがない、初めて見る魔物ばかりだ。

 それでも僕らは、カオリの挑発を基点にいつも通り討伐していく。


 ただ森全体の探索はさすがに時間が掛かるので、ある程度森の中を掃除し終えたら本隊を叩くことにした。

 僕らがいる森の偵察をするくらいだから、本隊はまだ妖精がいた森にいると思う。




 妖精がいた森に移動して探索スキルを使い確認したところ、魔物がたくさん固まっている場所がある。

 その場所に向かってみると、そこは妖精の家々があった場所だった。


 木の陰に隠れ遠めで確認すると、魔物たちは妖精達の小さい家を壊して、何やら中を物色している。

 魔物たちが何をしたいのかよくはわからないけど、とりあえず全部燃やすことにした。



 ある程度カオリ達と打ち合わせをしたら、僕は一人になってカオリ達と正反対の場所へ向かった。

 そして隠密のスキルをかけた状態で、油のビンを妖精の里のあちこちに投げて回った。


 その音に気づいた魔物が近寄ってきた瞬間、僕は着火の魔法を使って油に引火させた。

 すると一気に燃え広がり、炎が伝播していった。


 火があがったのを合図に、カオリには姿を現してもらい、炎の魔法でさらに敵を炎で囲い込むよう伝えてある。

 そうしてカオリに注意を向かせ、魔物を妖精の里の入り口付近に集めるように仕向ける。


 里の入り口には火が上がった瞬間、モグに人間の足がはまる程度の浅めの穴を複数掘ってもらうよういっておいた。

 そこに、炎から逃げ出す魔物たちが続々集まってくる。そして穴にはまり、体勢を崩して倒れこむ。さらに後ろから逃げてきた魔物もこけた魔物につまずいて同じようにこけていく。


 最後にはこけた魔物が壁となって入り口をふさぐ。その間僕は油を追加でさらにバラまいていく。

 カオリには里の入り口でこけただろう魔物達を、炎の魔法でさらに焼いて逃げ道を完全にふさぐよう頼んでおいた。


 逃げ場がないと悟った魔物は炎の壁を無理やり突破してくる。ただそうすると、体に油がついて炎はなかなか消えない。

 そのまま死ぬかどうかわからないので、その突破してきた魔物を僕はナイフで、カオリは剣でそれぞれ裁いていく。



 っと作戦通り進み、しばらくすると炎の壁から魔物が出てこなくなった。終わったかと思って探索のスキルを使ってみた。

 するとまだ中に一匹敵が潜んでいるのがわかる。タブン魔物たちのボス、魔族だろう。


 僕はカオリにこのことを伝え、魔族が一騎打ちできるように、周りの火を水の魔法で消してもらった。


 魔族はただじっとその場から動かず、カオリが近づくのを待っていた。

 カオリが剣を構えたとき、魔族は顔を上げた。



「……お前がこれをやったのか?」

「あたしがここにいるのに、それ聞く必要ある?」

「我が魔族と知ってのことか?」

「知ってようと知らなかろうと関係なくない? いいから早く構えたほうがいいよ? それともあたしから仕掛けてもいいの?」

「ふん! 身の程を教えてやるわ――」



 魔族が言い切る前に、僕は魔族の首を後ろから刺した。

 カオリに注意を向けて僕が隠密で背後をとる。いつも通りの戦法だ。



「がっ!?」

「ごめんね? 一人であなた達を襲ったわけじゃないんだ。っていうか、あたしよりあっちのほうがひどいと思うよ? この作戦考えたのは、あなたの後ろにいる人だから」



 カオリが言った言葉が聞こえているかどうかはわからないけど、魔族は地面に倒れ動かなくなった。タブン死んだと思う。

 念のため、カオリに炎の魔法で焼き尽くしてもらった。



「僕のほうがひどいなんてよく言うよ」

「実際そうじゃない? かなりエグイ作戦だと思うよ私は。ガーディもそう思わない?」



 ガーディのほうを見ると僕の視線に驚いたのかびくっとした。あれ? 怖がられてる?



「あ、アキはいつもこうなのか? 俺、何もしなかったけど」

「うん。アキはいつもこうだよ。腹黒いよね」



 カオリの僕の評価がひどい。僕がカオリに反論していると、ガーディが僕を見ているのがわかった。

 なので怖くないよとガーディに微笑んだけど、びくっと体を震わせた後、目をそらされた。


 おかしい。僕は妖精みんなのために頑張ったはずなのに。

 とりあえず終わったから、ご飯にしようと家に戻ることにした。

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