監禁生活29日目 プロテイン(宇宙の真理味)
「と、
「えー? でもこれ、逃げたあすみんへの罰ゲームだから♪」
「ぐぬぬぬ!!!!」
船内の一室。
真面目に脱出する手段を考えようとした矢先に、俺は部屋に突撃してきた橙華さんに捕まってしまった。
そして、俺はある運動に勤しんでいる。
おっと。
最初に言っておくけど、断じてエッチなことはしていない。
俺がやっているのは……。
「こ、これで、100っ!!」
「はーい、腕立て伏せ終わりー♪ じゃあ次は上体起こしね♪」
そう、筋トレであった。
何故筋トレをしているのか。その理由までは分からない。
しかし、橙華さんがやれと言う以上、逃げようとして失敗した俺が逆らえるわけもない。
俺は汗を流しながら、ひたすら橙華さんの指示通りに筋トレをする。
「あ、あの、橙華さん、そろそろ筋トレする目的を、教えてください!!」
「んー、別に大した理由はないよ? あすみん、最近お腹周りがぷにぷにしてきたでしょ?」
「え!?」
そう言われて、俺は自分の身体を見下ろす。
む、い、言われてみれば、少しお腹周りが太くなっているような……。
いや、でもまだ監禁されてから一ヶ月くらいだし、運動だってしていなかったわけじゃない。
たしかに、以前の生活なら到底食べられなかったであろう美味しいものを食べてはいるけど。
も、もしかして本当に太っちゃったかな?
「多分、ていうか絶対それってあーしらのせいじゃん? だからせめて、体型が維持できるくらいには鍛えてもらおうかなーって思って♪」
「か、監禁したのはそっちなのに!!」
「だからあーしも、ここで見ててあげるー♪ 辛いと思うけど、ノルマを達成したらご褒美があるからねー♪ ガンバ♪」
ご褒美。
橙華さんの言うご褒美って、なんだろうか。
この人のことだし、ちょっぴりエッチご褒美という可能性も無くは無い……。
「くっ、が、頑張ります!!」
別に期待してるとか、そういうんじゃない。
ご褒美を貰えるって言われて嬉しくない人間はいないだろう。
「失礼します」
「あれ? 葵衣ちゃん? おはよう」
「おはようございます、お兄さん。朝から筋トレお疲れ様です」
一通りの数をこなし、水分補給をしていると、部屋に葵衣ちゃんが入ってきた。
俺を見てぺこりとお辞儀してくる。
しかし、どうやら用事があったのは俺では無いらしい。
「橙華お姉さん、例のものを持ってきました」
「お、ありがとー♪」
葵衣ちゃんが試験管に入った怪しい液体を橙華さんに手渡す。
「なんですか、それ?」
「ふっふーん♪ これはあーしがあすみんのために葵衣に用意してもらった特製プロテイン♪ 飲めばすぐムキムキになれるよー♪」
え、いや、別にムキムキになりたいわけじゃないんだけど……。
「あ、あの、最低限、お腹周りのお肉が取れたらそれで良いんですけど」
「えー? どうせならマッチョになってみたくない?」
うーん、そりゃマッチョになってみたいかって訊かれたら興味はあるかも。
ふとマッチョになった自分の姿を想像する。
「なんか、雑コラみたいになりそうで嫌かも」
「私はどんなお兄さんでも好きですよ」
「え、そう?」
「今のお兄さんも、ムキムキのお兄さんも、太っちゃったお兄さんも、骨みたいにガリガリなお兄さんも好きです」
お、おお、そこまで言われると少し照れるなあ。
「ちょっ、あーしを置いて良い空気になんの禁止!! あすみんは良いから取り敢えずプロテインを飲む!!」
「むぐ!?」
俺は口に試験管を突っ込まれて、その中身が舌に触れた。
その瞬間、想像を絶する味が口いっぱいに広がる。
「……」
「あれ? あすみん? ど、どうしたの? 急に黙っちゃって。おーい?」
なんだろう、宇宙が見える……。
これは本当にプロテインなのだろうか。決して不味いわけではない。
いや、むしろ味はとても美味しいのだ。
ただ何故か、妙に世界の真理が見えてくる味というか。
ハッキリ言って謎の味であった。
「はっ!! あ、あれ? 俺は何を?」
「だ、大丈夫?」
「い、いや、その、飲んだ瞬間に宇宙が見えたというか、この世界の真理を覗いたような味がして」
「ぷっ、なにそれ? ウケる♪」
「ほ、本当ですよ!! 疑うなら橙華さんも飲んでみてください!!」
「えー?」
俺を疑うような目で、橙華さんが葵衣ちゃん特製プロテインを飲む。
「……」
「どうですか?」
「えっと、うん。これはたしかに宇宙っぽいっていうか、世界の真理っぽい味だわ」
橙華さんがプロテインを持ってきた葵衣ちゃんに視線を向ける。
「葵衣、あんたこれ本当にプロテインだよね? 激ヤバな薬だったりしないよね?」
「失礼な。私はお兄さんに危ないものを飲ませたりしません。人体に有害な成分はゼロです。……味は確認してないですが」
「……」
無言で橙華さんが葵衣ちゃんに近づく。
「橙華お姉さん、何故プロテインが入った試験管を持って近づいてくるんですか?」
「いや、飲んでみ? 一滴で良いから」
「……分かりました」
橙華さんの無言の圧力に気圧されたのか、葵衣ちゃんが試験管に入ったプロテインをくいっと飲んだ。
すると、葵衣ちゃんがぽけーっと口を半開きにして動かなくなる。
珍しい葵衣ちゃんの姿に、思わず心配になってしまう。
「はっ、わ、私は何を……。そ、それにこの味は」
「ね? 凄い味っしょ?」
「……味を改良してみます」
短くそう言い残して、葵衣ちゃんが部屋を出て行った。
その日は一日中運動していたせいか、俺はぐっすりと眠ってしまい……。
目が覚めると、目的地に到着しているのであった。
―――――――――――――――――――――
打ち切りです。
お隣の美人七姉妹は今日も俺を逃がさない。〜親の借金を肩代わりしてくれたと思ったら監禁されたので脱走します。あ、見つかった〜 ナガワ ヒイロ @igana0510
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