第3話
両手の指を全部折ると、駒井は言った。
「娘を殺された親の怒りがどんなものか、おまえにはわかるか」
「だから、娘どころかだれも殺してないって」
男は涙を流していた。
「うるさい!」
駒井は小屋にあったサバイバルナイフを取り出した。
「おい、それをどうするつもりだ」
「こうするんだ」
駒井は男の腕にサバイバルナイフを突き立てた。
それも何度も。そのたびに男は悲鳴を上げ、駒井に罵詈雑言を浴びせたかと思うと、泣きながら哀願した。
それの繰り返しだった。
駒井は刺した。
何度も何度も。
そして両腕の次は両足をサバイバルナイフで刺した。
何度も何度も。
男の反応も同じだったが、駒井に罵声を浴びせるよりか、哀願する回数の方が増えていった。
駒井は、今度は男の腹を刺した。
死なない程度に浅く、何度も何度も。
男は全身血まみれになり、顔は涙と鼻水でぐじゃぐじゃとなった。
駒井は刺すのをやめて、男を見た。
男は何かを言う気力も体力もなくしているようで、うなだれて静かになっていた。
その哀れな男の姿を見ると、逆に駒井の中に強烈な殺意がわいてきた。
駒井はサバイバルナイフを男の首に突き立てた。
そしてナイフを横殴りにはらう。
「ぐぼっ」
男の首の半分近くが切れ、血が大量に噴き出した。
やがて男は全く動かなくなった。
死んだのだ。
――仇はとったぞ。
駒井は天国の娘に向かって手を合わせた。
その日は山小屋に泊まり、朝に会社に体調不良で休むとの連絡を入れた。
そして小屋の裏側を、時間をかけて深く掘り、そこに男の死体を放り込み、穴をふさいだ。
血の一滴も残さないように山小屋を丁寧に掃除してから、帰路についた。
家に着いたのは日付が変わるころだった。
次の日は、何事もなかったかのように、出社した。
それから数日後。駒井の家にやけに目つきの悪い中年男が訪ねてきた。
男は警察手帳を見せると、言った。
「娘さんを殺した犯人が逮捕されました」
と。
終
娘の仇 ツヨシ @kunkunkonkon
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