第2話
――今だ!
駒井は男を追い抜き、男をふさぐように車を停めた。
車を降りる。
男の前に立った。
男は、なんだこいつ、と言った顔で駒井を見たが、駒井はかまわず男のあごに右ストレートをぶち当てた。
駒井は学生の頃にボクシングを習い始め、健康のために今でも続けていた、
無防備な素人など、一発だ。
男は気を失った。
――この間、日曜大工に使ったテープがあったな。
男の身体をテープで縛り上げ、口もテープでふさいだ。
駒井は男を後部座席に転がすと、誰も見ていないことを確認し、妻に「急な出張が入った」と電話を入れてから、車を走らせた。
行先はここから車で二時間ほどの、山の別荘だ。
別荘と言うよりも山小屋と言ったほうがいい代物だが、駒井の財産だ。
もともと人が来ないところではあるが、冬が近いこの時期は、誰かが近くに来る可能性はほとんどゼロに近いだろう。
――途中、警察の検問なんかに引っ掛かりませんように。
もし引っかかったら、「こいつが娘を殺した犯人です」と警察に差し出せばいいのだが、駒井の目的は別なところにあった。
途中、男が気付き、後ろでもごもご言っていたが、駒井は無視した。
あれだけ厳重に縛り上げれば、そう簡単にテープがはがれることはない。
事実、山小屋に着くまで男はどうすることもできなかった。
山小屋に着くと駒井は男のあごをもう一度殴った。
気を失った男を担いで山小屋に入り、テープをはぎ、代わりに小屋にあったロープで男の全身を椅子に縛り上げた。
そのまま待つ。
やがて男が気を取り戻した。
「なんだ、いったいどうなってる。あんたは一体誰だ!」
駒井が答える。
「ここは俺の山小屋。そして俺は、お前に娘を殺されたものだ」
迫力たっぷりの言葉に男はひるんだが、やがて言った。
「娘を殺されたものだって。俺は誰も殺したことなんてない」
その言葉、その表情。
駒井はこの男は嘘を言っていると確信した。
「やかましい。娘を殺された恨み。たっぷりとあじあわせてやる」
駒井は椅子に縛り付けてある男の右手をつかんだ。
そのまま指の一本を折った。
「ぎゃっ」
男が情けない声を出す。
かまわず駒井はもう一本の指を折った。
「いてっ」
さらに一本。もう一本。
そのうちに右手の指は全部折られた。今度は左手の指を順に折った。
「ぎゃわっ」
「やめろ」
そのたびに男が騒ぐが、駒井はやめない。
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