死なないでほしい、死ぬほどだるいから
理路りるる
邪魔
「え、えと、ごめん邪魔した? あ、でもそのー邪魔しに来たみたいなところもある、からなあ。うん邪魔しに、そう私は邪魔しに来たんだ。だから、んーと『お邪魔します』じゃなくて、『邪魔するぜえ』…………違うか。君アレだよね―———」
前話したときとだいぶ印象が違うなとか、いやでもコイツ目線だと初対面かぁとか、先輩を「コイツ」呼びは無礼だよなとか感想が濁流みたいに流れていく。コイツも滝みたいに喋る。
「飛び降りーみたいな……? だよね大体の人は空飛べないもんね。や、その、やめた方が良いと思うなーなんて。まだ若いんだし。やり残したこととかあるんじゃない。うんあるでしょ。え、ない? まーそうか人によるよな。私もないし。むしろある奴見てみたくない? というか屋上に入っちゃダメじゃないっけ? あれでも私も入っちゃってるじゃん……もういち、とにかくもう1日過ごしてみない? 若いんだし」
アンタも十分若いだろ僕と同じ高校生なんだからとか、こっちから話しかけたときにはぶっきらぼうだったくせによくしゃべるなぁとか……。
だけど、伝えたいのはたった一言で。
「どの口が言ってるんですか」
それなりに腹が立っているのにちゃんとですますを使える自分を褒めたい。大したことではない。
柵越しに見える先輩は一瞬目をまん丸にして、手をこねながら俯いては顔を上げる。顔の上下させるのを六セット繰り返したところで、僕にしっかりと目を合わせて言った。
「どどういうこと?」
綺麗な困り顔に苛立ちを覚える。アンタのせいなんだぞと唇を噛む。これで何度目だろうか。どれだけ噛んでも、次には綺麗さっぱり治るから、血を流すことに抵抗がなくなっていた。
普通に痛いけどね。むしろ痛みに酔ってないとやってられないような日々だった。
「アナタが何度も何度も何度も何度も死のうとするからこっちは大迷惑被ってるんですよ」
先輩がますます困惑した表情になる。そりゃそうだ。今の先輩は何も知らないんだから。そして、僕が口下手極めてたから。
色々思い出して、考えすぎて、言いたいこと、主に文句がたくさん出てきて、話の順序を間違った。そもそも、人への愚痴をその人の目の前で吐くのはやめた方がいいか。
意識しよう、シンプルに簡潔に話すんだ。
「アナタが自殺する度に僕はその日の朝に戻されるんです」
僕は「その日」の檻にいる。その日とはつまり今日なんだが。僕は今日にずっといる。
先輩が死なないようにあれやこれや動きまくったが、半日も猶予がないという欠陥タイムリープにできることは多くない。思いつくことは全部試して、思いつかないようなこともやってみて、もう、疲れた。
「だから、だいたい先輩のせいってわけです」
その先輩は濡れ衣を着せられたみたいな顔をしている。こちらを訝しみながら、混乱しながら、焦るというなんとも器用な表情だ。
確かに、この先輩はまだ何もしてないから、無理もないか。
でも、心当たりはあるみたいで。そりゃあるよな、アンタも死ぬために屋上に来てるんだから。
「ええーと、……ごめんね?」
これは、聞いた事があるような気がするな。何回目だろう。別に時間跳躍した回数なんて数えてないけど。
「謝らなくていいですよ。今回でどうにかするんで」
自然と笑みがこぼれる。遂に、 戻らなくて済むかもしれないという期待が僕の背中を押す。
もう、今日はうんざりだ。
最後の最後までつまり今回まで、試していなかったことがある。根本的に終わらせてしまえばいい。
前に踏み出す。宙を踏み抜く。身体が浮く。気分は浮かれる。先輩もこんな感じだったのかな。
これは、この物語のプロローグであり、このくだらないループを終わらせるエンディングである。
これはちょっと嘘で、今回でエンディングにしようとしている、僕が。
エンディングになるといいなあと思っている。
死なないでほしい、死ぬほどだるいから 理路りるる @rilloreell
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