第9話 見つからない(三人目)

くまだですが

『動画拝見しました 素晴らしい内容でした』

薔薇門亭格児

『え、だれー?』

『前に会った事あります?』

くまだですが

『ありません』

『はじめまして CWBGの隈田麗々子です』

『折り入って ご相談がありまして ご連絡させていただきました』

薔薇門亭格児

『なんか川柳みたいやねえ』

薔薇門亭格児

『調べてみたけど、そのCWBGって見たことも聞いたことも感じたこともなくて』

『すみません興味不足で』

『それでご相談ってなんでございましょう』

薔薇門亭格児

『あの?』

くまだですが

『出たいです』

薔薇門亭格児

『出たいってどういう意味の出たいですか?』

『場合によってはスクショして法務部に相談させていただきます』

『もしかして廃探部ですか?』

くまだですが

『他に何がありますか』

『雑用でも何でもします』

『いつでも構いません』

『多少のケガは訴えません』

『なので出してください』

薔薇門亭格児

『全然こちらこそ来たいって言ってもらえるなら例のやつの限りですんで』

『さぞどういたしましたか?』

薔薇門亭格児

『じゃ、そちらのマネージャーさんからご連絡いただいてもよろしいでしょうか』


 ホンモンカンパニー廃探部の、街の裏側をちょっとキレイにしたい!

 元シーマズの戸田大介が月額制動画配信サービスで公開している番組だ。

 撮影クルーが集まっている路上の、目の前にタクシーで乗り付けた戸田は、先に降りたマネージャーから支払いの様子を撮影され、運転手に「なんの撮影ですか」と聞かれると、居心地の悪そうな様子でおろおろしながら「まだオープニング前です。すんません」と言った。

 ディレクター兼カメラマン、カメラアシスタント、スタイリストが一人。

 音声スタッフが男性と女性一人ずつと、よく分からない屈強な男性が一人。

 他に区の職員が一人、同じ作業着を着た清掃スタッフが三人、離れて待機していた。

 そして戸田は、短髪で、中肉中背の、人相が悪いのに陰気そうな中年男性だ。

 身長はそれなりに百七十以上ありそうなのに、全体のバランスが小柄に見える。

 戸田に気付いたディレクターが近付いていって、マネージャーに会釈をし、戸田に挨拶をすると、戸田の方も「おしゃす、おしゃすー」と、省略されきった挨拶を連呼した。

 周りの気付いたスタッフがなんとなく反応を見せたり見せなかったりする。

 ディレクターの帆取遼生が三枚綴りの台本をめくって言う。

「そろそろ準備が出来るみたいなので、これから、オープニングを撮って、移動しながら回します。商店街も、何軒か声を掛けてあるので、寄っていただいて、ゲストを上手い事」

「わーってるって、いつもの感じね。ゲストの子らは?」

「あちらに、揃いのTシャツとジャージを着てます。右から」

「あのちっさいのが隈田ちゃんね。知ってる知ってる」

「はい、それと……」

 ショートサイズのフラペチーノを持って、棒のように立ち竦んでいるレレ子の髪を、さっきからアシスタントの女性が背後に立って結んだり解いたりしていた。肩に付かないくらいのショートヘアは、アレンジの幅も少なく、本人も前髪を除けたり上げたり透かしたり分けたり流したりするのを嫌がるから、結局おかっぱに落ち着いてしまう。

 着ているジャージは上下どちらもSサイズで、翡翠のような冷たい緑色だ。

 カノンは下にだけMサイズのジャージを履いて、上は廃探部のTシャツだった。

 化繊のしっかりした素材で、汗もすぐ乾くし、黒いタンクトップも透けていない。

 カノンは肌寒そうにしながら、スタッフに段取りや周辺の様子を聞いて回っていた。

 そして、残ったのは二着の内の、Mサイズのハーフジップジャージの上衣だけ。

 じゃあ下に穿いているのは、ほぼ黒に近いオーバーパンツ。ブルマだ。

 ジャージに似た厚手の伸びにくい生地を前後に縫い合わせ、股上の深いウェスト部分と、足の付け根の部分を折り返し、ゴム紐を通して絞ってある。それが非常にきつく、脚の露出した部分がより置き去られた感じがする。

 左右の縫い目には嫌味にスポーティな白いラインが縦に二本ずつ入っていた。

 左前のタグは『ファッショナー』がメーカー名で、サイズがLサイズだった。

 ウェストが六十六で、ただし自分の体も、服のサイズも、絶対そんなにない。

 大きい方がマシだけど、ゆったりしてるわけではなく、ゴムで絞ってる分かえって全体にシワが浮いていた。ほとんど記憶に無いとはいえ、穿いた感覚だけで言えばそれは、オムツ、みたいだ。パンツの上からそれを、穿いた事は無いとはいえ。

 話は非常に簡単で、ジャージを二着しか用意できなかったのだ。

 SサイズとMサイズ。だったらSサイズはレレ子が着る事になる。

 そしてじゃんけんに負けた方は、下着みたいな格好で外を歩かされるわけだ。

「汚れるからジャージ用意して貰ったのに、その上から私服着たら意味ないだろうが」

 とダイモンは言うけど、洗えるし、捨てれるのは服だけで、羞恥心は無理だって、わざわざ言う気にもならない。レレ子から借りたニーソックスで、なんとか冷えを凌いでるけど、ここでSでもMでも共有できるって事に気付いてはいけない。

 せめてもの抵抗で、シャツとジャージの裾を目一杯伸ばしている。

 その上から備品に入っていたバスタオルを巻いている。

 下に何も穿いてなくて、このまま何かを、丸出しにでもしそうな格好。

「ちょっと走って買って来るか……ダサいトレパンみたいなのしかなさそうだな」

「それじゃ……」言う事はできない、カノンかレレ子と交換して、同じ辱めを与える機会が無くなってしまう、なんて。「もう始まるから、いいです」

 でもカノンの棒みたいな脚を見たら誰だってズボンを穿かせたくなる。

「すいません、マイク付けます」と言われ、見ると音声スタッフの女性が立っていた。

 体を向けると、ジャージの裾を捲られ、バスタオルを外される。抵抗も虚しかった。送信機を持たされ、内側からマイクを通される。ピンマイクなんて滅多に付けられないから、仕事感が急に増す。送信機を返す。「すみません、ポケットってどこに」と聞かれる。

「え、ええと。確か内側に」

 なんて言いながら、女の人だからいいか、ってタグの反対側、右前を少し捲る。

 それこそ、クレカしか入らなそうな小さな小袋が縫い付けてあるだけ。

「それじゃなくて」と困惑した様子で女性が言う。「じゃあマイク付ける用のベルトがあるんで、それ巻いちゃっても大丈夫ですか?」

「それってシャツの下にですか、上ですか?」

「あっ……どちらでも。これ持っててください」

 下の方がいいなあ、と思いながら背中を見送っていると、レレ子が近付いて来た。視線を落としながら「お尻でっかく見える」とレレ子が言い、ほとんど減っていないフラペチーノに刺さっているストローを咥えるけど、そんな事より、でっかくって。

「え、なんで」

「膨張色?」首を傾げ、ストローが唇から外れる。「知らないけど」

「待って待って、え。自分で後ろから見えないんだって」

「ダイモンさん、でっかく見えますか?」

 とレレ子が聞くと、ダイモンはわざとらしく目を逸らして「んー?」と何も聴こえていなかったかのような反応を見せた。「色が目立つだけじゃないか?」

「そんなに言うんだったら、レレ子が穿けばいいじゃん。元が小さいんだから」

「でもサイズが……パンツはみ出たらどうするんですか?」

「サイズが大きくても小さくてもパンツは見えるし、さっきも見えてたから」

「最悪じゃないですか」他人事みたいに吐き捨て、ストローを吸う。

 音声スタッフの女性が戻って来て、シャツの上にベルトを巻いてくれたので、下に巻き直してもらって、なんとかマイクを付ける事はできた。腰に手を回しながら、やたら「ごめんなさい、ごめんなさい、すぐ終わりますんで」って謙るので、逆にこっちが申し訳なくなるくらいだった。「一応チェックはしたので。あ、もう間もなく始まりますのでこちらに」

 帆取Dがハンディカメラを持ち、アシスタント、音声スタッフが脇を固め、よく分からない屈強な男性、清掃スタッフ、マネージャーも加わって、戸田を正面から囲んでいた。「三人はこっち、呼び込むまで画角に入らないように待機して」と帆取Dが言う。

 アシスタントの人に指示される。

 マネージャーと区の職員が、通行人が入らないように周囲を警戒する。

 まだ早朝も早朝で、人通りは少ない。遠くにスーツ姿の女性が見え、更に遠くに、前後に子供を乗せた男性の自転車が見え、山にでも入りそうな大荷物を背負った老夫婦が道の反対側を歩いていた。「同期取った?」と帆取Dが言い、出演者が集められる。

 音声スタッフが手を叩く。

 皮が爆ぜるような音が響く。

 商店街の入り口、交差点には細く鋭い日差しがビルと店舗の間から差し込んでいる。

「それでは本番行きます。五秒前、四、三、二……」


「街の裏側をキレイにしたーい!」拳を突き上げながら戸田が高らかに言う。「さあ、始まりました。始まりましたよ。廃探部の、ええ。何ヶ月ぶりですか、え、三ヶ月? もうそんななるかー。確か前回は、五軒くらい連続で回って」

「戸田さん三軒目から見てただけじゃないですか」と、帆取Dが平然と入って来る。

「ままま、それはね。さて、今回は斧台ケ原に来ていますー。どうですか、この」

 右手を後ろに広げ、錆びたアーチの掛かった通りにカメラを誘導する。

「味のある、ね?」と言い、カメラを向けられ、はにかんだ。「僕も好きですわ。まあね、そろそろ冬本番、だいぶ冷えてきたんで、さすがに前回みたいな事にはならないでしょう。前回あれ結局流したん? あかんであれマジで。家帰ったらテレビから、オロロロロ、って」

 帆取Dが手と首を振る。「音だけですって」

「そんでビチャビチャーって。そんなもん音で全部想像出来るやんけ。思い出して家でまた吐きそうなったわ。……そっか、あれ真夏やったもんな。やっぱ暖かい時期にやるもんじゃないっす、え、なに?」Dに指を差され、音声スタッフに背中を押される。「あ、ゲスト?」

 その言葉に反応し、入って行こうとすると慌てて手で制される。どっちや。

「そうそう、今日はゲストが来てるんで、さっさと呼びたいと思いますー。あどうぞー」

 また背中を押される。

 先頭のレレ子は戸田の隣に立ち、ぼんやりとした視線をカメラに向ける。

 カノンは姿勢よく後ろに控えて、戸田の方に愛想のいい笑みを向けている。

 最後尾で、カノンに隠れるように立って、思った。背後からは余計に、でっかく見えて目立つんじゃないか。寒風に触れられ、脚がヒリヒリと強張り、自分と関係のない所で更に露出され、誇張されたように感じる。膝の上から、足の付け根まで、一番恥ずかしい部分。

 もっと恥ずかしい部分は見られないし、見られてはならない、という意味で。

 それに何より……。「えーっと、なんやったったっけ、CG……」

「CWBG」とレレ子が言う。「チェリーウィークエンドブロッサムガールズです」

「ど、どういう意味なん?」

「好きな言葉を一個ずつ出してくっつけただけです、確か」

「そうですか。じゃあ、まずは一人ずつ自己紹介ですかね、どうぞ」

 手を挙げ、言う。「水色担当、隈田レレ子。好きな廃墟は旅館、ホテルです。次」

「あ、つぎ。聴け、百万石の歌声。黄色担当、加賀崎カノン。よろしくです。はい」

「早村聡瑠です。一応リーダーです。えー、ブログやってます」

「という三人で、っていうか何その格好? リーダーは露出狂か何か?」

「なんかジャージが二着しか無いって言うんで、この、昔の体操着なんですけど」

 見せないと下に何も穿いてないみたいだけど、見せたらそれしか穿いてないみたいだ。

 恐ろしい板挟みだ。

「いやブルマて」戸田の突っ込みも弱々しい。「誰か作業着貸したってよ。こんな、恥ずかしそうに……」こんな、というのが、どんなかを、戸田は冷静に慮っていた。腕を組み、ふと天を仰いで、スタッフの後ろの方に何かを見つけ、急に視線を逸らした。

「とか言って戸田さんチラチラ見てたんですけど」とレレ子が指摘する。

「な、無いって。おま、やめてくれよー変な事言うの」戸田があさっての方向を見たまま、指だけこっちを差して来る。なんとなく、ジャージの裾を押さえた。

 ディレクターとアシスタント、区の職員、清掃員が三人、音声スタッフが二人、マネージャーも二人、あと屈強な男性が居て、その奥に丸い眼鏡の、毛量の多い、ヘルメットのような髪型の男性が、見えたような気がしたけど、そんな人はスタッフの中に居なかったはずだ。

 熱心なファンの中にも居なかったし、戸田がなぜそれを気にしたのかも分からない。

「それで、そのCWBGがこれに出たいって声掛けてくれててんな。一年以上前に」

「そう、すぐ出たいって言ったんです」

「やだよこんな、怖い」とカノンが言い、レレ子の肩を押した。

「すぐ連絡しようと思ってんけど、ほら、その時きみらあれやってて」

「あれって?」

「三十日連続ライブの頃じゃないの?」と聞く。「確かテレビっぽい仕事一個蹴ったって」

「蹴ったんかい。でもそうそれよ」と戸田が言った。「終わりの方、二十何日目かに行ってみたら、客だーれも居らんかって、オレ一人。それでカノンちゃん? が最後ブチ切れて一人でずっと走り回ってパンクみたいなん歌ってて。それで知ったんよ、ギガントマウス」

「あー、ダイモンさんの」

 ダイモンが眉間を押さえ、何か苦しい物が胃に落ちるのを待つような顔をした。

「『災いの音』と『噛み千切られろ!』と即買って、アルバムもなー、良かったわ」

 ダイモンにとっての汚点は、この場合二つある。

 参加していたバンドが空中分解してしまった事。

 デビュー直後の目玉として三十日連続ライブを敢行してしまった事。特に後者と来たら、二十人ほどしか入らないライブハウスを、複数箇所、無理矢理に押さえ、平日も休日も、同じ時間に、同じ内容を繰り返した。

 客ゼロの日もあったし、一人の日も多々あって、どれが戸田かは思い出せない。

「あの、わたしたちの曲は、聴いたんですか?」と聞いた。

「おーん、聴いた聴いた。良かったよ、ダンスも可愛かった」

「すごい流しますね。DMの時みたいに」レレ子が小声で言う。

「なんでっ、あんなんファンが繋がろうとして来たかと思うやんって」

「まあ廃墟に繋げて貰いたい一心で声掛けましたけど」

「そう、そうね。じゃあ、さっそく幾田さんに案内してもらいますわ。幾田さーん」

「幾田さーん」レレ子が一緒になって呼ぶので、慌てて「さーん」と追い掛ける。

 区の職員、幾田栞太氏は、まだ二十代前半らしい。

 キレイな七三分けに、安物のスーツを着ていて、靴は頑丈なブーツだ。

 どの課に所属しているのかさえ見当も付かないけど、すぐやる感じはしない。

「戸田さん、どうも。お久しぶりです。お三方も」

「三ヶ月前にすごいとこ紹介してもらって、どうも。で、今回の廃墟は?」

「実は前回も紹介しようと思ったんですが、一応涼しくなるのを待って」

 話し始めると同時に、幾田氏が歩き出したので、戸田と、三人も後に続いた。


 精肉店『肉焼き人間田中』は、豊富な惣菜を揃えている。

「あー、あったまるわー」などと言いながら、メンチコロッケを二口齧り、カノンはそれをダイモンに手渡していた。もう食べ残しにも慣れたもので、ダイモンはカバンからタッパーを取り出し、そのまま入れる。代わりに二リットルのペットボトルを差し出した。

 カノンは一瞬だけ満腹になりそうな量を一気飲みした。

 その喉が鳴る音、首筋を滴り落ちる水滴までも、カメラが間近で捉えている。

「レレ子はまだ何か頼んでるし、まだ?」と店の方に声を掛けると、レレ子が一瞬だけ振り返って、またガラスケースに目を戻した。揚げ物は大概ある。餃子や焼売、フライ焼きも並んでいる。店員はまさかの追加注文に驚いてたけど、ダイモンが払うので問題はない。

 いや、問題はあって、どうせレレ子はほとんど残してしまう。

「レレ子それもうあとでお肉買って家帰ってから調理……あれ、何かある」

 そりゃ何かはあるけど。そのチラシは、何組かの、多くは男男で、たまに男女も混じっている二人組が複数、映画のポスターのように並んでいて、なんとかバトルロワイアル、というタイトルが載せられていた。その中の一人が戸田大介だった。

 剥がして、店員の人に聞いてみる。「これって戸田さんが貼っていったんですか」

 店員の女性は首を振った。「いや、分からない。そこに貼ってありました?」

「そこに」他に、サインもチラシもない、ただの店の壁に。

 もう一度よく見ると開催日は夏頃で、しかも何年も前のだ。

「なに勝手に剥がしてんのよ。なにそれ、フライヤー?」

「戸田さん出てたみたい、戸田さんに聞けば何か分かるかな。……まだかな?」

 つい先程、ちょっと急用あんでー、と威勢よく姿を消してしまった。

 スタッフの誰も探しに行かないし、戸田のマネージャーに至っては、幾田さんと談笑していて、戸田の不在に気付いてもいないようだった。正直お惣菜に対しては『ジューシー』『コクがある』『油がしつこくない』的な一通りの感想を述べたので、まだカメラが回ってるのを見て驚いた。トークで繋げ、とディレクターが指示を出している。

「え、もしかして、事故に遭ったとか?」

「こんなのどかなところ、ぃぎゃあああ! わ、やっ、居る! なに?」

 耳元で声が割れ、肩に縋り付かれた衝撃で、自分も声が漏れてしまった。

 自分でも全く聴こえなかった。おかげで、カノンを客観的に見て冷静になれた。

 カノンの隣に和服の男が立っている。

 短い髪を無理矢理横分けにし、左手に高そうな腕時計を巻き、バスケットシューズを履いていた。戸田だ。こんな靴を履いてたっけ、という疑問も無くはないけど、そんな事よりも、いつの間に彼は肉焼き人間の店先に居たんだろう。「あ、すいませんうるさかったですか」

 と聞くと、戸田は慈悲以外何も知らないかのような笑顔を浮かべた。

「いえいえ、とんでも。姐さん方、お疲れ様です」

「はあ、あの。戸田さん?」

「あ、えー、噺家をやっております、薔薇門亭格児と言います」

 なんか入ってる。「落語家って事ですか? なんか、真打って言うんですか?」

「よくご存知。あ、コロッケ一つください」と店員に告げ、袂から一万円を出す。

「あ、お金はいただいてるんで」

「そうでっか? ほんなら」一万円札が袂に戻されるのを、ずっと、見ていた。

「お財布とかって持ってないんですか?」

「ああ、これな。師匠が花買ってこいって言うもんで。まぁた弔花ですわ弔花」

「お師匠さん何されてる方なんですか?」

「落語家でしょ」とカノンに腕を揺すられる。「一緒じゃないんだ」

「そう。ほら今ちょうど寄席で、高座に上がってるところなんですわ」

「お弟子さんってそういうの見てなくてもいいんですか」

「いや、それが……」と、戸田が腕時計を見、黙る。二秒、三秒。突然「はっははは!」と快活に笑い出し、横のカノンが手を震わせた。戸田は、スッと腕を下ろした。

「え、なに?」

「師匠が枕で客イジって一笑いをいただいたところですわ」

「あ、分かるんですね。見てなくても」

「そうそうそう、それで。真打の前が二つ目、その前が前座で、昇進試験があるんですけど、出来るネタ五十個くらい書き出して、師匠にこれって言われて三本くらい見せるんですわ。でも五十個も知らんから何個かほら、古典ってタイトル違っても同じやつがあんねんな」

「それは……、竹取物語が絵本だとかぐや姫だったりする感じですか?」

「全然ちゃうよ。それこっそり書いてんけど、一本目それやって、二本目別のやって、三本目がタイトル変えたやつで、最初自分で気付かんくて、始めた途端に、あ一個目のやつや、ってなったんですわ。途中まで頑張ってんけど、すんません、これ同じやつです、って」

「言ったんですか。それでどうなったんですか?」とカノンが聞く。

 そんなに気になるか、ってちょっと思う。

「そんで師匠が、俺もさっき思ってたよ、これ三本目と同じ噺だな、って言うんです」口調を真似ながら、戸田が師匠の言葉を言い、最高潮に怒り出す。「んなわけあるか、だったら別のにしてくれよ。それ被せに行ってるだけやないか、って。……どうしたん?」

「あ、……あぁ、コロッケが、出来たみたいです」

「お、ありがとうございますー」コロッケを受け取った戸田は、店先に立ったまま、今にも動き出すかのようにそれを見ていた。「したらコロッケで、謎かけかー。えー、コロッケと掛けまして。掛けまして……、あかん出て来んわ。なんかあります? うっまぁ、これ」

「あの、これ」

「チラシ? えー、チラシと掛けまして。……えぇ、むっず。チラシ?」

「じゃなくて、ここに戸田さんが載ってるんですけど、これって何のイベントですか?」

「……とだ?」目を丸くして、戸田がこちらを見る。急に慌てだし、ふと腕時計を見て、唐突に「はっはははー、はあ!」と笑い出した。「師匠が枕でまた客イジってますわ」

 長いな、枕。

「じゃあ、そろそろメクリの仕事あるんで。おかーさん、ごちそうさんですー」

「はーい」と店内から投げやりな声が返ってくる。

「あ、謎かけは。あの、戸田、えーっと、落語家さーん」

 カノンの呼び掛けも虚しく、戸田は画角の外まで小走りに駆けて行くと、そこで立ち止まっていた。帆取Dがカメラを下ろし、戸田の肩を叩いた。「いやー、戸田さん。良かったっすわー。この後、一軒目の直前で三人と合流する感じで再開しますんで」

「はいー、はいはい。……これ本当にいります?」

「ええ、ええ。早く着替えていただいて。他のお三方も、そろそろ移動しますんで」

「はーい」とカノンが返事をする。

 レレ子が両手に袋を提げてダイモンに駆け寄る。

 スタッフさんが肉焼き人間田中にお礼を言い、荷物をまとめている。

 結局、チラシの事を聞く機会を逸してしまったと思っていたら、移動を始めた途端、戸田の方からコソコソとこちらに近付いて来て「早ちゃん、早ちゃんよう」とやたら卑屈そうに話し掛けて来た。いつの間にか廃探部のTシャツに下はジーンズを履いていて、逆に老け込んだようにすら見えた。「さっきのチラシってどこで拾ったん?」

「え、これですか」まだ持ってるわけだけど。「肉屋の壁に貼ってあって」

 戸田がチラシを受け取る。「肉屋の壁ぇ? なんでー?」

「それって何のイベントなんですか」

「ザイマン・バトルロワイアル・コンテストな」と戸田が言う。「五組くらいが一気に舞台に上がって、同時にネタ始めるんよ。で、客席から何枚以上失格の札が上がったらそこでそのコンビは強制終了。最後までネタをやってたコンビが優勝っていうライブよ」

「なんでそんな事を……」あんまり見ないけど、そういうものなのかな。前の方に居たレレ子が振り返り、すぐに歩調を合わせて来た。こっち側に回って、わざわざ目の前を遮るようにチラシを覗き込んで来る。「この人」と、レレ子が丸眼鏡の男を指し、小声で聞いた。「この源司薫太って十回くらいコンビ組んで別れたって人ですか?」

「それは別の奴。源司は、前に解散した時しつこく誘って来たから一回だけ組んだの」

「あ、そうか。シーマズじゃなかった」

「どこかで見た事ある気がするんですけど。スタッフの中に居たりしませんでした?」

「あぁ、こいつ裏方顔やもんな。前もスタッフと間違われてたわ」

 裏返したり、しげしげとチラシを見ながら、急に寄って来たと思ったら、車止めのポールを避けたりして、戸田は顔を複雑に歪ませていた。「懐かしいわ、マジで」と呟く。「とうさんかあさんありがとう、ってどんなコンビ名やねん。しかも一負けやし、あー腹立つわ」

「今は、ソロ……えーっと、ずっとピンですか?」と聞く。

「十回も解散したら、もう誰かとやる感じでもなくなるんよ」

「悲しいですね」とレレ子が言う。「現場まだかな、車出せば良かったのでは」

「三分も歩いてないよ」とは言ったけど、動いてる間ずっと脚がソワソワするから、確かに長く感じたような気もする。「あそこじゃない? マネージャーさん立ってるところ」

「やった、着いた!」と言うやいなや、さっさと駈け出し、ダイモンの背中に飛び付き、さっき手渡したばかりの飲み物をせがんでいた。チラシから目を上げた戸田が、その光景を見て溜め息を付き、疲れたような笑いが自然と漏れる。「ウチの三女みたいやな」と言った。

 なんか、七歳くらいだと思われてるな、レレ子。


 幾田さんによると、その廃墟は家族三人とその妻の両親が住んでいた一軒家だ。

 家族仲は良好とは言えず、子供は祖父母とばかり過ごし、妻は仕事に忙しく、夫は家庭内で発言力を持たなかった。一番小さな部屋、勝手に無くなる私物、夫婦生活にも干渉され、夫側の親戚とは疎遠になった。だから、というわけではない。

 一人での帰省後、丸二日をネカフェで過ごして帰ると、家は強盗に入られていた。

 全ての部屋が荒らされ、寝室で死んでいた妻と、一階の廊下に倒れていた妻の両親の葬儀を終え、夫はその後、家のどこにも居なかった子供の帰宅を一人で待ち続けた。

 広い家に、車が二台。

 妻の家族の思い出と、結婚後も、出産後も続いた、妻の家族だけの思い出。

 そして家族が残した物はそれだけではなく、近所からの好奇の視線、流言飛語、そして物理的な嫌がらせがあった。落書きがあった。物を投げ込まれ、窓を割られた。外出の度にカメラを向けられた。家の近くで絡まれた。それでも子供の発見を一人で待ち続けた。

 その時にはもう、実家に居場所はなく、新しい生活を始める気力も無かっただけだ。

 そして最後に夫が消え、そのまま数カ月が過ぎた。

 野生動物が出入りするようになると、庭から白骨死体を掘り返した。小さい物と。

 大きい物は、まだ家のどこからも出て来ていない、というのが一昨年までの一軒家を取り巻く状況で、それ以降、噂話に上る以上の事は何も起こらなかった。自動ゲートの駐車スペースがあって、高い塀が囲み、その正面に立派な門を構えている。草が伸び放題の庭の奥には、二階建ての日本家屋が見えて、その縁側に、物干し台の名残のような棒が傾いていた。

 なんとなく『さようなら遊園地』の歌詞を思い出した。

 男は遊園地で誰かと別れる。最後に自分が消える。男の親友が三人の子供を連れ去る。

 救いはない。帰らなきゃ……でも何処にだろう。ずっと家に居るのに。そのくらい無い。

 帆取Dが通りのこっち方向にカメラを向けている。

 門の前に立たされた戸田が「こっちやでえ!」と楽しそうに手を振っている。

 その横にレレ子が居て、表札とか門扉をスマホで撮りまくっていた。既に商店街から何本も道を逸れ、家と家同士が離れて、ゆったりした区画に入っている。もう少し行けば河川敷に出られそうだけど、まだ家並みの壁に阻まれて、視界は開けない。

「ほら、ここや! 本日の一件目は、権東さんちの空き家ぁやでー」

 表札には『権東』という物々しい筆文字が彫られている。

 幾田さんが門を開け、中に入ると、既にカメラマンが居て、戸田のファーストリアクションをカメラに収めていた。レレ子が駈け出して、庭の真ん中に空いた穴を覗き込んだ。腰の高さまで伸びた雑草は、その辺りだけ丸く開けている。

「さあ、そんなわけで一軒目の廃墟に着きましたねえ」という、戸田のスイッチが入った説明を聞いて、唐突にこれが収録だった事を思い出し、グッと全身が緊張した。「元の住人に不幸があって、親戚が手放して以来、誰も買い手が付かずに区が管理しているそうですが」

 なんとなく心許なさに襲われ、思わず腰の横に手を這わせていた。

 これはズボンだ。ズボンにしては、丈の短さが強調されすぎてる。ずっと。

 どちらかと言えば、下半身が締め付けられすぎて、その輪郭の方を意識させられる。

「隈ちゃん、見てみて、どうですか? 何か感じる?」

「え、今のところは」不意を衝かれたレレ子が、二階の窓を見上げる。「外に、異様に物が無い気がしますね。なんか、自転車とかありそうなのに」

「それは人によるんちゃいます、幾田さーん?」

「自転車は、火を付けられたので先に処分する事になったんです」と幾田さんが言う。

「あ、なるほど」戸田が引いていた。「じゃあ、とりあえず中から行きますか?」

 そんなわけで、折り畳み式のゴミ箱と火バサミを持たされ、玄関から「これって土足のままでいいんですか」と聞きながら、無人の家に上がり込んだ。既にペットボトルや汚れた紙の束が散乱し、清掃スタッフがそれを手際よく回収していった。

「きみら何か気になる物があったらそれ拾ったったらええから」とは言うけど、さっき家の悲しい事情を聞かされて、宝探しみたいな事をする気にもなれない。

 カノンは最後まで渋ってたけど、レレ子に「これだけ人が居れば怖くないですよ」と押し切られてからは、ずっと背中に引っ付いていた。現金なもので、ずっと薄ら寒く感じていたくせに、人肌の温度が触れると、それはそれで気色が悪く、しかも他人のズボンの生地が脚に触れても、脚に冷たく隔てる感触を押し付けて来るだけだった。

「では、奥に行ってみましょうか?」

「あ、戸田さん」と幾田さんが言う。「ちょうどそこが奥さんのご両親の」

「おおっと?」釘でも踏んだように飛び上がり、ちょうどそこを見ながら、戸田が居心地悪そうに首を傾げた。

 カノンも肩越しに床を覗き込んで来る。「四、四、一、って書いてある。めちゃめちゃ不吉なんだけど、なんの数字?」

「何かのメモでしょうね。パスワードとか」と幾田さんが言う。

「あー、思い出した」と戸田が忌々しげに言う。「賞レース出た時のエントリー番号や。ほぼ毎年出てんけど、一番若い数字がこれで、しかもその時、相方が事故で来られんくなって失格になったんよな。とうさんかあさんありがとう、まさかの一回戦落ちよ」

「出てたら勝ててたんですか?」と聞く。

「おーん、おお? そらあまあ、プロなら一回戦なんて二回戦やからね」

「ど、どういう意味」カノンが言った。「勝ったら次の年シードとか無いんですか?」

「前の年にコンビ解散してるから、やり直しやってん」

「へえ」でもそれはゼッケンなどではなく、たまたま一致しただけの、ルーズリーフに何度も線をなぞった数字でしかなかった。火バサミで端を掴み、ゴミ箱に入れる。「じゃあ、あと十回くらいのエントリー番号を見つけたらクリアって事ですか?」

「いやあ、あるかー? とりあえず先リビング行ってみよか。幾田さん、どっち?」

「右です」と幾田さんが言った。

 まさにその方向から、物やゴミの山が流れて来てるようなのだけど。

 リビングに入ると、そこには更に惨憺たる様相が広がっていた。物が少なく、生活感は消され、家電が置かれていた痕跡の、四角い日焼けだけが壁に残っていた。子供と、妻と、妻の両親の写真が疎らに貼られ、たぶん、貼られていた写真の大半は剥がされたんだろう。

 写真の周りには小さな四角い日焼けが集まっている。

 足元に潰れたロング缶が何個か転がっている。何の臭いもしない。強いて言うなら、土や埃のような乾いた空気が充満し、なんとなく息苦しさを覚えた。椅子が二脚、それだけだ。ソファもテーブルもない。カーテンもない。ゴミ箱も、ゴミ袋も見当たらなかった。


 清掃スタッフによって粗方の雑草が刈り取られた庭に出た。

 カノンが空にしたペットボトルを、自分のゴミ箱を広げて、その中に入れた。

 ゴミ箱は素材が柔らかく、警棒のように、指示棒のように、とにかく棒のように三段くらいに潰して畳む事が出来る。ちゃんと広げてたのはレレ子だけで、庭の中を歩き回って、気になった物を片っ端から放り込んでいた。だからカメラアシスタントもレレ子に付きっきりで、なぜ入れたのかを聞いたり、ゴミ箱の中を撮ったりしていた。

 これは探索とか言ってただゴミ屋敷の掃除をさせられてるだけなのでは。

 音声スタッフの人ですら、機材を横に置いて、庭に落ちてる物を拾っている。

 立ち上がり、ふと尻に強く触れる物を感じ、その縁に指を掛けて下に引っ張った。

「そんな食い込む?」とカノンに聞かれる。

 後ろにカメラが無いのを確認し、答える。「っていうか、気になる」

「おお、そうだそうだ」とダイモンが紙袋を開く。「早村、さっき買って来たから、本当にダサいトレパンしかなかったけど、寒いだろ、これ上から穿いとけ」と差し出して来たのは、くすみ、そのもののような灰色の、折り畳まれたズボンだ。

「カノン。それ穿いて、代わりにジャージの下貸して」

「いや」即答される。「ゴミ箱縮めたままのくせに図々しいのよ」

「こっちは! ずっと恥ずかしいのと寒いの我慢してたのに」

「上シャツだけでもそれはそれで寒かったけどね」

「そんなでもないじゃん、今日。日も出てるし」

「じゃあ、さとぴ、上脱いで」

「貸さないよ」

「じゃなくて、いいから」ファスナーを下げられ、襟を上に引っ張られる。静電気がパリパリ言いながら、服が体から離れていった。そうは言っても肌寒い。カノンはジャージを背中に当てて、袖をお腹の前に持ってきた。「それ縛って後ろだけでも隠したら?」

 一回、だけじゃ緩そうなので、もう一回。「本当に後ろだけ……」

「これは穿かなくていいのか」とズボンを持ったままのダイモンに聞かれる。

「カノンに穿かせて」

「欲しくなったら言ってくれ。ずっと持っとくから」と言うダイモンの、すぐ横にカメラがあった。「この辺はナレーション処理されるので」とカメラアシスタントが言う。レレ子は離れた場所で、花壇だったらしい煉瓦を崩して、どこかから見つけて来たスコップで土を掘り返していた。「自動販売機、自動販売機が壊れた。十円も百円も、千円も読み込まなくなった」などと聞いた事もない歌を口ずさんで、随分とご陽気だ。

「あれもギガントマウスの楽曲ですか?」とカメラアシスタントがダイモンに聞く。

「いや、聞いた事は……隈田!」と呼び掛ける。「それ何の歌だ?」

 ネットだと一括で権利料を払ってないから楽曲を使用できない、とかあるのかな。

「てきとうですが!」とレレ子が答え、土を掻き出す。

「だいぶストレス溜まってそうだな」とダイモンが言った。

「戸田さんのインタビューってまだ終わらないんですか?」

 カメラアシスタントは二階の窓を見上げ、言う。「百問百答ですからね、早ければ四十分くらいといったところです。すみません、この後はゲームセンターと地下鉄駅なので、インタビューするならここしかないと思って。それと戸田さんは後でグラビア撮影もあるので」

 それは詰め込み方を間違ってるような気もする。

「でも、なんか変な物は出て来なそうだから、それは良かったよ」とカノンが言う。

「変な、と言いますか」とカメラアシスタントが言い、カメラをカノンの足元に向け、また顔に戻した。「お子さんが見付かったのが、ちょうどカノンさんが立ってる位置だったかと」

「ひぃっ、うそ! 待って待ってって」焼けた砂でも踏んだように飛び跳ねながら、カノンがこっちに近付いて来た。「なんか、お供えするとか、しないの。こんな何もなかったら分かるわけないじゃん」などと地面に直接怒っている。

『うそ、そんないっぱい!』

「骨とか出て来たら怖いですね」と言う。

『分かんない分かんないって』

「大体は回収されたらしいですが」とカメラアシスタントが言う。

『はぁッ! なぁーんで!』

「なんか聴こえない?」とカノンが言う。「さとぴ今なんか、叫んだ?」

「何に対して叫ぶ事があるの?」と思ったけど無くもないか。「叫んでないよ」

 ダイモンも首を振り、カメラアシスタントも首を傾げる。レレ子は子供が埋まりそうな大きさの穴を広げながら、鼻歌を歌い続けていた。「迫り来る大波、不気味なサイレン。あの連中がやって来る」口を開け、少し天を仰いで考えると、また次のフレーズが生まれた。「泥まみれの庭、流されていく車。あの連中がやって来る」声が大きくなるほどに、スコップを振るう手付きが激しくなる。「見たこともない巨大なバール、哀れなほどに小さなユンボ、知らない街の知らないジュース、黄色いジュース、黄色いジュースが溢れ出している」その手が不意に止まった。「自動販売機、自動販売機が……、これ、二階からかな?」

「どうした?」と聞くのもおかしいけど、ダイモンは曲が気になるらしい。

 レレ子はスコップを地面に突き刺し、家に向かって駈け出していた。ゴミ箱も、火バサミも花壇の近くに放り出されたままだ。玄関を開ける時間ももどかしそうに、肩を斜めにして室内に滑り込むと、その姿はもう見えなくなってしまった。

「何かあったのかな、さとぴ?」見て来て、とでも言いたそうにカノンが聞く。

 なぜかダイモンは紙袋を開いて中を確かめている。「早村も見に行かないのか?」

 念の為に見ると、ダイモンもカノンも、全く動き出す気配がなかった。

 カメラアシスタントが玄関の方に動いて、動線を踏まないようにカメラを構えた。

 そんなに行って欲しいのか。

『ならないよ! 待って待って待って! やーだってばもう!』

 こんな甲高くて、間抜けで、正直あんまり怖くない声の出処を探る為に。


 清掃スタッフが一階の和室に散らばった衣類を片付けていた。

 階段を小走りに上がって、真っ直ぐの廊下を一番奥まで進んでいく。

 開けっぱなしのドアの向こう、六畳くらいの板張りの部屋に、アウトドア用のローチェアが二脚置いてあって、その手前にはスーツ姿の男性が座っていた。帆取Dと、屈強な男性と、幾田さんも居る。戸田は、部屋の左の押入れに向かって立っていた。

 天袋の奥から床まで垂れた太いロープは、肩の高さに拳大の結び目が出来ていた。

 ロープの目の前から、左に一歩動いた位置に、戸田はやや右手を向いて立っている。

 なんか、もっと、輪っかになってるとか。そこに手を掛けてるとか。

 不安定な踏み台の上に立ってるとかではない。そういう危ない感じはしない。

 戸田は虚空に耳を傾け、そちらを見ないように薄い相槌を返している。

「おん、おおん、なあ。そうか、まあ……おう、うん」

 ロープから右に一歩動いた位置には、誰も立っていないし、何も見えない。

「あの、すいません」と帆取Dが言った。「今ちょっとインタビューが止まってまして」

「何でですか?」

「分かりません。戸田さんが幻聴が聴こえると言い出して、ずっとあんな状態なんです」

「あのロープは?」

「天井裏で鼠か何かが暴れたみたいで、それで落ちて来ました」

「この部屋って、誰かが、首を……」

「隈田さんもそれ聞いて来ましたけど、特にそういうのは無いそうです」

「レレ子は」と部屋の中を見回すと、どうしても戸田の様子が目に付いて、なんか、なんか嫌な気持ちになる。尻でも蹴飛ばしたら正気に戻るんじゃないか、なんて思うのは、尻の近くまで出そうな格好をしている事による、逆恨みだろうか。

 隣の部屋です、と帆取Dが言うので、隣を覗いてみる事にした。

 そちらも四畳半くらいの板張りの洋間で、部屋の右手前にダブルベッドの木枠だけが残されていた。部屋の真ん中に座り込むジャージ姿のレレ子を、誰かが見下ろしているような感じがした。横に回ってみると、火バサミに何かを掴んでいる。黄色い蝶ネクタイだ。

「あ、さとぴ」顔を上げながら、一緒にスマホを見せてくる。

 さっきのチラシの写真だ。とうさんかあさんありがとう、とつまらないフォントで書かれた文字の上に、丸い眼鏡に、毛量の多い、ヘルメット頭の根暗そうな男性が得意そうな顔をして立っていた。その右には戸田が、手を差し出しながら剽軽な顔をして写っている。

「この源司薫太っていう人が付けてるのと同じ蝶ネクタイがありまして」

 そう言って、レレ子が蝶ネクタイを見せてくる。

「そんなの……」どこの家庭にもある物でもないか。「偶然じゃないの?」

「仕込み、の方がありそうですが」と言ってレレ子が蝶ネクタイを床に置いた。「とりあえず声の主はこの源司薫太って人で間違いないんですけど」

「ないんだ。……なんで?」

「ネタ動画が、二つだけ。しかも一つは違法アップロードの情報番組の1コーナーで、一分だけですが、本当にこういう、ツッコミ……というか、嘆きというか」

「芸風はどうでもいいよ。その人がなんなの?」

「ネタ合わせをする呪い、ですかね?」

「呪いっていうか、近くに居るから、それで戸田さん怯えてるんじゃないのかな」

「居るって、源司薫太が?」

「そんな感じの、眼鏡の人、さっき商店街で見た気がするんだけど」

「もう亡くなってるのにですか、見間違えとかじゃなくて?」

「え……」レレ子の嬉しそうな顔に、目を焼かれる。好奇心の棘か、火が、顔面から放散するような顔だ。「なんか、それは嫌だよ。やだ。似てる感じの人を見たってだけの話じゃん、別に死んでるとか関係なくて」

「それはいいんですけど」どうでもよさそうに、レレ子が言う。横に置いてあったゴミ箱を引き寄せ、火バサミで中に溜まっている紙とか、よく分からない物を引っ掻き回した。確かレレ子のは外に置いてきたはずだけど。「戸田さんが」とレレ子が言う。

 出て来たのは、茶色いスチールウールのような毛玉だった。安物のカツラだ。

「モノボケ、……小道具を使う一発芸に使った事があるそうで」とレレ子が言う。「どこの家庭にもあるような物ではないですが。めっちゃ滑ったやつやん!」調子まで真似て、急に怒声を張るので心臓がキュッとなった。「って、拾う時言ってたじゃないですか」

「ああ、まあ。それが何?」

「そういう物がいっぱい出て来たじゃないですか。四百四十一番もそうですけど」とレレ子が言い、安物のカツラをゴミ箱に落とした。「呪いというか、単純に戸田さんの方にも心残りがあるんじゃないかと、その、なんだっけ……『とうさんかあさんありがとう』に」

「そうは見えなかったけどね。それだったら、十回も組んで解散した人の方がありそう」

「そうですかね?」

「そうじゃん、だって十回も組んで、結局その人も……」

「生きてますけど」レレ子がつまらなそうに言った。「結局十回目も上手く行かなくて、今は田舎に帰って真面目に働いて、五人の娘が居る、ってネットに書いてありました。戸田大介のルーツを探る番組で久しぶりに共演した時には、娘が五人くらい居るって聞いてた話に、くらいって何やねん、それ途中で誰か話盛ってるやん、ってまた怒ってたって」

「すぐ怒るね、戸田さん」

 五人の内の三女は、上に二人、下にも二人居る。

 夢見がちだけど、案外しっかりもしている、ど真ん中だ。

 もしかして戸田は、レレ子の事をそういう風に言いたかったなんて事は、ないか。

「でもなんか、さっきそれで悲しいみたいな話にならなかった?」

「死んだから、とは言ってないですけど、責任転嫁やめてくださる?」

「転嫁はしてない。解散したら確かに悲しいけど。ややこしいな」

「さとぴだって、CWBGが無くなって、アイカとも……アイカって誰ですか?」

 なんでこっちが変な事言い出したみたいな反応。

「え、知らない。あれ、なんかの時にメンバーに紛れ込んでた何かじゃなかった?」

「あのカノンがよく分からない何かと一緒に踊ったんですか?」

「カノンは居なかったけど」

「はあ。まあとりあえず、戸田さんをどうするかなんですけど」

「隈田さん、早村さん」戸口から声を掛けられ、驚いて振り返ると帆取Dが立っていた。廊下の奥を気にして、この部屋よりも、横目でチラチラ見ていた。「戸田さんが、全然動かないので、インタビューもまだしばらく掛かりそうなんですが。もしよければ、ロケバス持って来たんで、中で休んでて貰っても構いませんけど」

「どんな様子ですか?」とレレ子が聞き返す。

「暖房はまだ効いてないですけど」

「戸田さんは」

「ああ、ずっと何かに相槌を打ってるだけで。よくある事なんですけど」

「よくあっていいんですか」と聞く。

 帆取Dは乾いた笑いを漏らし、なんとなく会釈をしながら戸口を去っていった。

「さてと」言ってレレ子が立ち上がる。「見に行こうかな」


 部屋に入るとすぐに、レレ子はロープの辺りにスマホを向け、それから戸田を見守っているスタッフ達にスマホを向け、何枚も写真を撮っていった。戸田はカメラにも動じない。気付いてもいないようだ。相変わらず相槌を打っているだけで、その声が異様に大きい。

「まあまあまあ、おうん? いや……そらそうかも、ああ、な。そう。うん」

 ロープは床にまで達していて、そこから少し丸まって、床の端に伸びている。

 撮影を終えたレレ子は、もう一度部屋の中を見回し、入り口の側に戻って来た。

「さっきロープの所しか撮らなかったんですけど」と言って、スマホの画面をこちらにも見せてくる。今撮った部屋の様子が画面に映し出される。「さとぴが言った通りだとしたら、もしかしたらスタッフの方に紛れ込んでる可能性が」

「そんな事言った?」

「ここ、これとこれ、二つ光ってるの、丸い眼鏡みたいじゃないですか?」

「絶対にただの反射だと思う」

 レレ子は帆取Dの方にスマホを持っていって「丸い眼鏡じゃないですか」と全く同じ質問をして、帆取Dを困らせた。次の写真、次の次の写真には帆取Dも映っていて、画面の端にロープが見切れていた。「もうそろそろ十五分ですね」と音声スタッフが言った。

「十五分の漫才ってあるんですか?」

「寄席とか営業では、持ち時間が十五分とか二十分になるので」

「これも?」

「これは、なんでしょうね」

「どうやったら終わるんですか、最後って。いいかげんにしろ、みたいな」

 漫才って最後まで見た事……、ないはずはないんだけど、ちょっと思い出せない。

「どうでしたっけ?」帆取Dと、音声スタッフの人が顔を見合わせ、困惑する。

 二人が黙ると、相槌の声だけが部屋の中を流れ、まるで迷惑な街宣車が家の前に停まったみたいだった。和菓子屋、廃品回収屋、それともダンスミュージックかもしれない。そのうちスーツ姿の男性が帆取Dに近付き、小声で何かを伝えた。

 帆取Dが戸田を一瞥して、言う。「戸田さんがどうもありがとうございましたって言って先にハケてから、相方が深々と頭を下げる、っていう流れらしいですね」

「あの、ハサミって持ってますか?」とレレ子が聞く。

 誰に向かって、でもないだろうけど、音声スタッフが先に心当たりを見せた。

 肩に掛けていたカバンの中を漁り、紙を切るような小さなハサミを取り出した。

「これで何か切るの?」と、ハサミを渡しながらレレ子に聞く。

 レレ子は無言でハサミを受け取り、戸田に近付いた。ロープを掴み、太い繊維の端に、少しずつ刃を食い込ませ、そしてロープを切った。切断箇所は、ちょうど結び目の真上で、垂れたロープは所在なく揺れ、すぐにそれも止まってしまった。

「おう、ああ、そう……んん? あれ、げんじぃ、どこ行ったん、げんじよぉ」

 ふと彼は左に向きを変え、そのまま歩き出す。舞台袖に向かって、壁までのわずか五歩の距離はすぐに詰まって、体全体でぶつかった。「ぅあいで! なんっ、壁か。あれ」尻餅をついた格好で、彼の目がスタッフの姿を捉える。「帆取くーん、今何してたんやっけ?」

「あ、インタビューの途中で」

「そう。あ、隈ちゃん、それ何持ってんの?」

「マイクですが。あの、戸田さん。相方を祓うのは諦めた方がいいのでは?」

 そう言われた瞬間の戸田の驚きようと言ったら、とても言葉では言い表せない。

 レレ子に関しては、なんとしても祓うべきだ、と言ったとしても寸分違わないような表情をしていて、逆に意図が汲み取れなかった。拳大の結び目を戸田に差し出し、戸田がそれを手に取ると、余っていたロープも戸田の方に送った。

「これマイクか?」戸田が首を傾げる。「諦めた方がいいってどういう事よ」

「たぶん、戸田さんが源司薫太を殺した犯人だと思うんですが」

「はあっ? 違う違う違う、何言ってんねん、あいつは自分で」

「じゃあ違いました」大声に辟易しながら、レレ子がさっさと意見を退ける。「ずっと見られてると思ってるのかもしれないけど、その心残りがこういう、怪奇現象を生んでるんだと思うんです。たとえばあのチラシとか。蝶ネクタイとか。カツラとか。そしてこのロープ」

「あ、ロープか。ロープな。なあ、この部屋って誰かが首……」

「若い子達にも聞かれたけど」遮るように帆取Dが答える。「そういう事実は無いです」

「他の人、たとえばさとぴもその人の姿を見たと言ってます」とレレ子が言い、スマホの画像フォルダを開いて見せた。そこには、坊主頭で、半裸の、感情のない目をした男の写真が表示されていた。「丸い眼鏡で、おかっぱ頭の、陰気そうな青年、それは戸田さんとコンビを組んでた時の源司薫太の姿で、別れてからはこんな姿に変わってました」

 一瞬、注目が集まったから小さく挙げた手を、下げる機会を逃してしまった。

「そりゃ知ってるよ。ニュースんなった時これ見せられて、誰や、ってなってんもん」

「こちらからは以上です」

「えぇっ、そこで終わりなん?」

 やっと立ち上がった戸田が押入れの上段に手を置き、顔の上のロープを手で払った。

 切り離した方のロープは手に握り締めたままだ。「なにこの、あとは犯人が自供するだけみたいな空気。何もしてないねん、何も……」戸田がふと黙り込み、その沈黙が部屋いっぱいに染み渡ると、今度は口の奥でボソボソと音を立て、言った。「なあ、たとえばよ。源司の方に心残りがあって、まだやりたいって思ってたなんて事あるかな、帆取くんよ」

「それは分かりませんけど」と帆取Dが言う。

「早ちゃんは、どう思う?」

「あんまり面白い人には見えませんでした」と言う。

 戸田が目を丸くしてこちらを睨む。「そうなんよな。だから、すぐに解散したはずなんやけどな、別に死なんでもええやん。なあ、源司って心残りあったんかな。それとも、別に何とも思ってなかったんかな」

「分からないけど」レレ子は言う。「別に今相方居ないし、このままでいいのでは?」

「どういう事、このままって?」

「二人にまつわる物が出て来たり、幻聴が聴こえても、気にする事ないと思いますよ」


 ゲームセンターは五階建ての細長いビルで、階段が途中から埋まっていた。

 地下鉄駅は大雨で一度完全に浸水したらしく、天井付近に水の跡が残っていた。

 もちろん源司薫太や『とうさんかあさんありがとう』に関する物は色々出て来て、戸田が幻聴を聴いて架空のネタ合わせに取り憑かれる場面も何度かあった。それが、レレ子に肯定された事で何かが解放されたのかも、余計に抑圧されたのかも分からないけど、ただ一つ確実なのは、それに怯えたカノンの様子をレレ子が嬉々として撮影していた事だけだ。

 ビルとビルの間に紛れた謎の下り階段に、それぞれ腰掛けたり、壁に寄りかかったりしながら、戸田が最下段のカメラに向かって言う。「さあ、今回は権東家、ゲームアックス、斧台町駅の三つを巡ったわけなんですが、最後凄かったですね、まさか東京の地下にあんな場所があったなんて」台本でも覚えたように朗々と戸田が言う。「三人はどうでしたか?」

「楽しかった!」とレレ子が飛び跳ねながら大声で答えた。

「はあい、それは良かったです。加賀ちゃん……すごい疲れてるけど」

 カノンは声も出さず、カメラの方に軽く手を振っただけだった。

「カノン、掃除するのは好きなんで、そういうのに呼んで欲しいみたいです」

 俯いて微かに首を振ってるけど、戸田はもうカメラしか見ていなかった。

「というわけでCWBGの三人、今回は本当にありがとうな、なんか楽になったわ」

「はい。こちらこそ」

「幾田さんも、毎度毎度お疲れさんです。次回なんか、どこか候補ってあります?」

「一応ね、研究所みたいな所が二箇所あるんですけど、安全面が」と言い、それから何か思い出す素振りを見せ、幾田さんが言う。「あとは動物園、もう取り壊しが決まってて、色々崩れたりしそうでこれも危ないんですけど、夜中に謎の音が聴こえたみたいな話があって」

「それいいですね」と言うレレ子の横で、カノンが顔面蒼白になっている。

「動物なんて居たら問題じゃないの」

「居たら、それを放置してる方が問題ですよ」と急にもっともらしい事も言う。

「どうしましょうか」

「女の子が居るんだったら、動物園やないの?」

 また呼ばれる事に決まっていた。

 しかも今日三箇所回ったって事は、動物園の後で研究所に行く可能性もあるのでは。

 少し前から、帆取Dが締めの合図を出している。やっとその事に気付いた戸田が、立ち上がり、ゆっくりと階段を下り始めた。「じゃあ、そんなわけで今回の廃探部は、ここで終わりになります。最後に、今日のまとめを、加賀ちゃんにお願いしましょうかしら。加賀ちゃん、ちょっと。下りて来てもろて。ああ、ゆっくりでいいから」

「な、なんですか」ほんの十段くらいで、息も絶え絶えだ。

 戸田がカメラを指し、画角からゆっくりと外れた。「最後に一言どうぞ」

「あ、はい」息を整え、カメラを見る。「えーっと、廃墟ってまだまだいっぱいあると思うので、これからもっと増えるだろうし、今後も注目して行きたいと思いました。あと、出る時は出来るだけキレイにしていって欲しいです。あー、加賀崎でした」

「はい、ありがとう。じゃあまた、三ヶ月後くらいになー」

 手を振り始めた戸田に合わせ、後ろの方で一緒に手を振った。

 カメラの真ん前に突っ立って、カノンだけは戻っていいのか、まだ何かがあるのか、不安そうにスタッフの顔色を窺っている。「はい、オッケーです」帆取Dの合図に、戸田が真っ先に踵を返して「おしゃっす、おしゃすー」と省略されきった挨拶をしながら、二段飛ばしくらいで階段を駆け上がっていった。立ち上がる頃には、もう姿が見えなくなっていた。

「おつかれさまでーす」と背中に声を掛けたはずなのに、声は虚空に吸われる。

 ダイモンが近付いてきて、ダサい灰色のトレパンを渡してくれる。別に、穿いて映りたくなかったわけでも、オフだったら穿きたいわけでもないけど、なんとなく肌寒さも感じていたので受け取ってしまった。カノンは水を飲んでいた。「このまま解散かな?」

「すぐ帰っちゃいましたけど、戸田さん」

「ああ、なんか上で誰かと話して、ないな。なんだ、すぐそこに居るけど」

「お礼しに行った方がいいんですか?」と聞くと、ダイモンは首を捻り、もう一度階段の上の方を見た。「いやでもやっぱり誰かと話してるようだし、スタッフさんだけでいいんじゃないか?」探索中も、ダイモンは戸田を避けてたような気もする。源司薫太を、か。

 なんか戸田自身はスッキリしたような顔はしてるけど。

 ゲーセンでも地下鉄駅でもネタ合わせに取り憑かれてたわけで。

「レレ子、あれで良かったの、戸田さん?」と聞くと、レレ子はスマホを見ている。

 調べているのは、戸田のプロフィールと経歴だ。「他の元相方はご健在ですね、残念」

 残念だとしても、そのまんま残念だなんて言わない方がいいと思う。

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