第2話 きょうりょくしゃ
きょうは学園入学の日です。お母上とお父上、しようにんのみんながえがおで送りだしてくれました。その中に兄さんはいません。モノオキにとじこめられている上、テンセイにとりつかれてしまっているのでしかたありません。……ほんとうは、来てほしかったけれど、ボクが来てほしいのはテンセイシャのじょうたいではない兄さんです。なのでかなしくはありません。
学園へはじょうききかんしゃというのり物をつかって行くそうです。にもつはお父上が学園まではこんでくれるらしいので、ボクはおさいふとまじゅつにつかう杖、ひまつぶし用のしょうせつだけをもってじょうききかんしゃにのりこみました。
とてもながい時間をすごすことになるので、じょうききかんしゃの中ではたべ物やのみ物をかうことができるとききました。なので、さいふの中にはぎんかがたくさん入っています。
じょうききかんしゃにのりこむと、まだ人はあまりのっていませんでした。すきな
しゅっぱつまでまだ時間があるそうなので、もってきた本をよむことにしました。この本は光のゆうしゃがセカイをすくうおはなしです。このおはなしはつくりばなしではなく、ずっとずっとむかしにほんとうにあったことだとききました。この本をよみおわったら、兄さんによみきかせをするというやくそくをしているのです。……「テンセイシャ」になる前の兄さんと。
そんなことを思いだしていると、
「そこの貴方、ここに座ってもいいかしら?」
「いいですよ!」
声をかけてきたのはとてもかわいい女の子でした。まっ白でふわふわの長いかみに、なつのあおぞらのようにきれいなあおいろの目をもつ女の子です。あたまには目とおなじいろのかわいらしいリボンがかざられています。
「貴方の名前は?」
「ボクはネージュ・アメティストです。よろしくお願いしますよ!」
「あら、貴方がアメティスト家の天才息子? わたくしはフラム・エグマリーヌですわ。教育が隅々まで行き届いていると噂のアメティスト家なら、わたくしの名前くらいはしっているでしょう?」
ボクはかしこいので知っています。エグマリーヌ家は、たしか水のまじゅつの名家だったはずです。
「はい、ボクはかしこいので知っています。ボク、君のことなんてよべばいいですか?」
「気軽にフラムとお呼びなさって。わたくしも貴方をネージュと呼ばせていただきますわね」
フラムは気がつよそうですが、わるいひとではないようです。なぜ、ですか? ボクのかんがつげているからです!
少しはなして思ったのですが、フラムはとてもかしこそうです。ならば、「テンセイ」や「テンセイシャ」についてなにか知っているのでは? と思いました。しゃないはんばいの人がボクたちのところに回ってきたので、2人分のマカロンとワッフル、こうちゃのセットをかって、フラムにしつもんをしました。
「ねえ、フラム。少しききたいことがあるのです」
「何ですか? 貴方はわたくしの友達第1号なので、わたくしの答えられる範囲であれば特別に答えて差し上げますわ!」
「きみはテンセイやテンセイシャってコトバを知っていますか?」
「テンセイやテンセイシャ……っんごほっ!? 貴方、ごほっ、どこでその言葉を……!?」
フラムがこうちゃでむせてしまいました。
「さいきん兄さんのようすがへんで、やさしくなくなっちゃったのです。兄さんがひとりごとでつぶやいてたのですけど……君はいみを知っているのですか?」
やっぱりかしこそうなフラムはなにかをしっているらしいです。
「え、ええ……。あ、あの…………わたくしのお母様のお姉様の御友人の従兄弟のお父様の文通友達の方が教えてくださったの。……えっと…………説明は難しいけれど。……あの…………貴方はどんな意味だと思っておられるの?」
「ボクは、「テンセイ」って言うのはバケモノかなにかで、「テンセイシャ」って言うのはそのバケモノにとりつかれた人とか、じょうたいのことだと思いました。なにかにとりつかれた人はようすがおかしくなるっていいますし……兄さん、とってもやさしかったのにとつぜんかわっちゃったのです」
「…………そう………………」
ボクのヨソウをつたえると、フラムはだまりこくってなにかをかんがえはじめました。
「……貴方の予想は、大方間違っていないと思いますわ。……それで…………貴方は、お兄さんを元に戻したいのかしら?」
「はい! もちろんです!」
「……では、わたくしにも協力させて欲しいですわ。………………少し、聞きたいことがあるしね」
フラムがさいごにボソッとつぶやいたけれど、声が小さくてよくききとれませんでした。ですが、それよりもじゅうようなことがあります!!
「きょうりょくしてくれるのですか!?」
「ええ! …………わ、わたくしの……と、と、と、友達第1号ですもの!」
フラムはかおをまっかにして立ちあがり、ボクに手をさしだしました。ふわふわの白いかみがいさましくゆれ、あざやかにかがやくみずいろの目がボクをまっすぐにみつめます。ボクはその目を見て、「かっこいい」と思いました。なりたいと思いました。ボクも、まっすぐな目で友だちのためにきょうりょくできる、かっこいい人に。
「ふふ、ありがとう、ございます。…………あっ」
そうです、今まですっかりわすれてしまっていましたが、だいもんだいがのこっていました。兄さんはまじゅつのさいのうがありません。それにはいいろの目です。それを知ったらきょうりょくしてくれなくなるのではないか、そう思いました。
……でも、きょうりょくしてもらうなら、せいじつであるひつようがあります。せいじつにたいおうしてもらったなら、せいじつなたいおうを返さなければなりません。そう心にきめて、ボクはおそるおそる口をひらきました。
「……あの…………ボクの兄さん、まじゅつのさいのうがないんです。それに、はいいろの目をしてる。フラムは……兄さんのこと、みくだしませんか?」
フラムのはんのうがおそろしいです。目を合わせることができません。下をむいてへんじをまっていると、カラッとした声が上からふってきました。
「あら、そんなことですの? 才能の有無で人を見下したり差別するなんて、有象無象のすることですわ。それに、貴方が助けたいと思うなら、悪い人ではなかったのでしょう? わたくしは人を目で見ただけでは判断しませんわ。その人のことをよく知る周りの人からの評価で判断をするのです」
フラムはボクが思っていたよりずっとずぅっとかっこよくてかしこい人だったようです。フラムのような人には、はじめて会いました。
「……フラムは、すごいね」
フラムが兄さんのことをみくだすのではないかとしんぱいしたボク自身が、なさけなくなってきました。
「ありがとう、ございます。……フラム、これから「きょうりょくしゃ」としてよろしくお願いします」
「ふふふふふ、協力者……! 何かいい響きね! ……ネージュ、これからよろしくお願いしますわ」
「あっ、そういえばネージュ、協力する代わりに時々ちょっとしたお願いを聞いてくださるかしら? お願いの内容はその時々で変わりますけれど……」
「いいですよ! ボクにできることならなんでも言ってくださいね!」
ここから、ボクとその協力者の物語が始まった。
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