第1話 ボクはかしこいので

 ボクはかしこいので知っています。なにを知っているのか、ですか? それは、兄さんが「テンセイシャ」であることです。ボクはかしこいので兄さんがテンセイシャであることは知っていますが、「テンセイシャ」ということばのいみは知りません。友だちにきいてもお母上にきいてもお父上にきいてもだーれも知らなかったので、きっととてもかしこい人じゃないと知らないのでしょう。

 どうして知っているのか、ですか? それはボクがかしこいからです。……というじじつはおいておいて、だれからきいたのか、ということですよね? だってお母上もお父上も友だちも知らないのですから、知るキカイはないはずですからね。

 トクベツにおしえてさしあげます。それは、兄さんがひとりごとで言っていました。ボクはすごいのでこっそりとどこかにかくれていればだれにも見つからないのです。

 なぜボクがかくれて兄さんを見ていたかというと、それは兄さんがへんになってしまったからなのです。どんなふうにへんなのか?それはですね、少しながくなりますよ! 

 まず、兄さんはペルル・アメティストという人です。まじゅつのさいのうもむらさきの目ももっていませんが、とてもやさしくておけいこもつけてくれる、ボクが持っている何よりもじまんの兄さん

 なぜカコケイなのかというと、兄さんがやさしくなくなってしまったからです。やさしくなくなってしまったこともへんになったことにふくまれます。それに気づいたのは、いつもどおりおけいこをつけてもらったある日のことです。

 兄さんとのおけいこは、まず兄さんがすごーくてかげんをしてボクとしょうぶをします。そしてボクがかったら兄さんは少しだけてかげんをしなくなります。そしてボクはその兄さんにいどみます。それのくり返しです。ですが、その日兄さんはてかげんを全くしてくれなかったのです! おもえば兄さんにいどむ時も兄さんはとってもキョドウフシンでした。そのじてんで気づくべきだったのです。

 そして、てかげんをしない兄さんにボクが勝てるはずもありません。それどころかボクのうでがケガしてしまったのです! ボクが弱いのがわるいのでしかたないですが、てかげんをしてくれなかった兄さんもわるいです。だってそういうルールだったのですから。それにそのルールは兄さんが言いだしたものなので、兄さんがアットウテキにわるいのです。

 もともと「デキソコナイ」とお母上とお父上にきらわれていた兄さんはモノオキにつれていかれました。お父上に「近寄ってはいけないよ」と言われました。ボクはかしこいのでそのいみをしっかりとリカイしました。ですがボクはわるいこでもあるのでモノオキに行って兄さんにおにぎりをさしいれしようとしました。

 モノオキの中にはいれるトビラの前まで行くと、兄さんがなにかをつぶやいていました。びっくりしたボクはおもわずトビラの近くに立てかけてあった木のいたにかくれてきき耳をたてました。

 すると、兄さんがつぶやいていたことが少しだけききとれるようになりました。

 「テンセイ」「テンセイシャ」「メガミ」「スキル」「マジュツ」「ゲーム」「ショウセツ」「モブ」「ムソウ」「ゲンダイチシキ」……ボクがききとれたのはこのくらいでした。だってボクにはまだききとれないくらいに早口だったのですからしかたありません。

 いみが分からないのもありますが、「メガミ」と「スキル」、「マジュツ」、「ゲーム」、「ショウセツ」は分かります。ボクはかしこいので。

 「メガミ」はお母上のむかしばなしにでてきました。とてもきれいですごい人らしいです。

 「スキル」はだれもが1つもっているのうりょくのことです。兄さんのスキルはたしか「さいほう」でした。そのスキルをつかってボクのかみをむすぶリボンをつくってくれました。とてもきれいなあかいろのリボンです。

 「マジュツ」はまじゅつです。ボクにはそのさいのうがあるらしいです。 兄さんにはありません。

 「ゲーム」はスポーツのしあいのことです。あれ? チェスも「ゲーム」と呼びます。ではスポーツのしあいのことではないのでしょうか? 

 「ショウセツ」はものがたりがかかれた本のことです。字が小さくていっぱいですがボクはかしこいのでよむことができます。兄さんは「すごいなー! オレには無理だよ!」と褒めてくれました。

 ボクにはそれらをつなぎ合わせて文にすることはできませんでしたが、1つのヨソウを立てました。

 それは、兄さんは「テンセイ」というものにとりつかれて「テンセイシャ」になっている、ということです。何かにとりつかれている人はようすがおかしくなるとききます。兄さんはようすがへんです。そして、「テンセイシャ」の中に「テンセイ」というコトバが入っているのでこの2つのコトバには強いつながりがあると分かります。

 つまり、「テンセイ」はバケモノか何かで、「テンセイシャ」はそのバケモノにとりつかれている人のことやそのじょうたいをあらわしているのでは、というのがボクのヨソウです!

 おそらくコレがせいかいです! ボクはかしこいのですぐにせいかいが分かってしまいました! 

 そうと分かればすぐに兄さんから「テンセイ」をひっぱりだして兄さんをもとのじょうたいにもどすひつようがあります。ですが兄さんのことをきらってみくだしているお母上やお父上に友だち、しようにんたちはきょうりょくしてくれないでしょう。みんな兄さんのことなんてどうでもいいのですから。

 つまり、ボクは兄さんをみくださないきょうりょくしゃを作るひつようがあります。ボクはあまり家の外にでられません。今までのボクならばそこであきらめてしまっていたことでしょう。しかしボクはもうすぐ「学園」というばしょに行くことになっています。そこでたくさんのことを学ぶらしいのですが、そこにはたくさんのばしょからとてもたくさんの人があつまります。ならば兄さんをみくださない人もきっといるはずです! その人ときょうりょくして兄さんをもとにもどすのです! 

 よーし、がんばるぞー! えいえいおー! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る