帝国主義が隆盛を見せる近代、大国同士のパワーゲームの陰で、人ならざるモノたちもまた人界の国境に紐づいたパワーゲームに興じていた……本作はそんな世界観において、すれ違いながら絆を手繰り寄せる二人の物語です。
主人公の穂波は、母親と妻を亡くしたそれぞれの因果で、いわゆる悪魔の斎門に使役されています。
妻の思い出と、一人息子の雪を支えに生きていた穂波は、やはり人ならざるモノを引き寄せてしまう血を受け継ぐ彦乃と出会い、恋に落ちるのですが、そこにも因果の干渉を疑わさるを得ないことから素直になれず……。
そんな焦れ焦れに悶える二人も魅力的なのですが、いわゆる悪魔の斎門さん、人の価値観からすれば残酷で嗜虐的に見えても、悪魔なりの諸事情や制約を受けながら結果的には二人のために東奔西走、あっちこっちに細かく気を遣う苦労人(?)っぷりが素敵です!
穂波も穂波で、行く先々の老若男女、人ならざる皆さまに絶妙にイジられます。
耐える穂波のケナゲな姿に、いろいろあきらめてハジけちゃった方が、むしろ世界も戦争もうまく行くような……そんな風に思えたら、あなたもきっと、人ならざるモノの仲間入り?
純粋で、不埒で、蠱惑的な宴にようこそ、です!
互いに一目惚れで夫婦になったのに、ひたすら障害に阻まれて、一つになれない恋のお話はいかがですか?
超美形の悪魔たちに、ひたすら篭絡されるセクシーなお話はいかがですか?
明治時代の日本に酷似した国の、かの戦争を裏から操る、人ならざる者達の攻防の物語はいかがですか?
それらを全て内包して、かつ最高のバランスで語られるのがこちらのお話です。
スケール感が尋常でなく大きくて、読んでいて先の展開に驚かされることばかり。お話にぐいぐいと引き込まれることは必死です。
また、建築、庭園に関する美しい描写、あるいは作者様の深い古典への知識が絶妙に織りこまれているのも物語に重層的な厚みをもたらしています。
作者様の語りの自在さに心地よく翻弄されるお話です。是非ご一読下さい。