第15話 最終話
「離婚してくれないんだよね?」なに?他人事?
これじゃ不倫じゃないの! 直美は高ぶる胸中を制止して一泊置いて考えてみたら今まで観えなかったイチルの真実や誠実さや・・・、私は甘えていた? 刺激が欲しかったの? 危ない冒険をしたかっただけかも知れない。
塩が引くようにこれまで愛だと思っていたパッションは、イチルをやり込めたいだけのエモーション? 告白された二人の男と逢っている時にはイチルの陰が同行していた。
高ぶるイチルへの思いは怒りだと思っていたが、それは私の錯覚で、一時的な覚醒が私を包み何処か遠くへ誘う薬のようなもの・・・。
「ゴメン、私。偽りの愛だけは出来ない。」身体を凍らせていた。
今までのご無体は、偽りのパッションだった。
後悔している・・・。悔しくて悲しかった。
「イチさん・・・。」
心細く呟く。
「洗った。」心を洗ったわ・・・は? そわそわしていた男は、シャワーを促す。
身体だけなのね?「何を今更?」
ベッドに腰掛けている直美の両肩を掴み押し倒そうとした!身を縮める!身体が硬直し、小さく丸くなった!「イヤッ!」いいじゃないか!直美の全身に覆い被さった!こうなったら力付くでも想いを果たしてやる!ナオミッ! イヤアアーーッ!
県警に解放された陶子がトボトボと、理学療法の島へ帰って来た。
遠巻きに観ているだけの同僚?・・・イイエ、同じ職場の人達。友達では無いすれ違っても会釈もしない人・・・。
午後のリハビリが終わるまで完全に無視されていた。
ジャンキー長嶋茂(ながしましげる)・・・。
こんな陰口が、陶子が退職するまで鳴り響いていた。
即日陶子は依願退職という形で医療センターを後にして行った。
人間の錯覚は時として一心同体と思える陰の様なモノ・・・。
然るに茂は、私の影だった?体温もあったし、息が掛かったら陶子の前髪が揺れた。
彼の味噌汁も作ったしハンバーグも作った。美味しいといってくれたのにキャベツだけ残した残飯を食べてあげた。
独りでに涙が溢れやがて嗚咽していた。
彼の何を愛したの?幽霊?偽りのパッション?
愛だと感じた嘘の愛?結婚するって本当だったの?
彼の愛撫に身を任せ、愛されていると思ったのは勘違いだった・・・。
あんなに「陶子ちゃん陶子ちゃん!」と、言っていたのに茂が亡くなったらオセロの様に黒く為った。
「他人のあんたに息子の位牌を置いとく訳に行かん!あんたと婚約してから茂はこんなになったんや、息子を返して! 茂を唆した罪は重いで!」
「ワシらの思いは、アンタに譲れんのや、このマンションも処分するから早う出ていってくれ!」
いきなり豹変した茂の両親が、新居にやって来た理由は邪魔になった陶子を追い出す為だった・・・。
寂しい・・・。
「結婚前で善かったね、旦那が死んだら死後離婚とか手続きも大変だもんね。」慰めのつもり? 心無い職場の人達は何を言っていたんだろう・・・。
「キャンベラは不倶戴天の敵! キャンベラは不倶戴天の敵! キャンベラは不倶戴天の敵!」
ブツブツと呪文の様に口走り夢遊病の様にフラフラと歩を進めた。化粧室からリビングと居間を抜ける。
新居になる筈だったマンション10階のバルコニーで、風に揺れるブナの枝葉を観ていた。
・・・・・。
スーッと空いた両開きの自動ガラスドアを確認して医療センターのリハビリ会場に足を踏み入れた女を全員観ていた。
信じられないような顔、顔、顔・・・。
「ナ、ナオ!」両手を広げたイチルの胸に飛び込んだ!イチルの胸辺りに直美の顔が来るのは定石だった。
「色々考えたけどね、沢山考えたのよ? だから・・・。ユ・ズ・レ・ナ・イ。」
その言葉が全てを物語っていた。
ニコッと微笑む直美は、やっぱり可愛い! やっぱり可愛い!ナオは!
そして陶子のマンションの管理人はブナの太い枝に腹を打たれて事切れている陶子の変わり果てた姿を発見していた・・・。 (了)
了)
恋音・こいおと しおとれもん @siotoremmon
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