獣人の楽園(6)

 御造 桃八は困惑していた。

 取り残された滅星の部下を捜しに向かった奥地で眩い光に呑まれた彼の五感は気付けば明度が落ちていた坑道から月光が降り注ぐ森林に一変していたからである。

 ここがずっと求めていた動物達が集う神秘の場所である事は膨大な調査の中でどれにも当てはまらない双子の満月という特徴から明確だったが御造は到底信じる事など出来なかった。

 自分の大事な物を奪った憎き畜生達の住む世界が血と腐肉が漂う荒廃した戦場の様に荒れ果てた想像とは違い、幼い頃に読んだ絵本の様に澄んだ美しさを主体に構築されているのが気に食わず更に御造の憎悪を掻き立てるからだ。

 殺意が赴くままに天然の道と喧嘩を売ってきたエッセンゼーレを止まらぬ激情で踏み荒らす度、景色はシームレスに顔を変えてゆく。

 植物が生い茂る森を歩いたと思えば竹林に囲まれ、その先には頑丈な砦が行く手を阻む。


「畜生にこんな技術が・・・・・・」


 人間と遜色ない建築様式に一瞬、圧倒される御造。

 だが本来の獣に対する憎悪を再燃させたのは砦に在中していた前衛の兵士による声掛けだった。


「ん? 何者だ?

 ここから先は関係者以外立ち入り禁止だぞ」


 門の傍らに立っているのは男性にも負けない鋭い目と声色で御造を牽制する兵士。

 姿は軍服を着る人の女を象っているが頭から生えているコーギーの耳から獣人である事が推測出来る。それ故、畜生から気軽に話しかけられている事態に吐き気を感じる御造の手は無自覚に柄へ伸ばしていた。

 添える手は小刻みに震えており痙攣を疑う獣人は顔色を窺いながら気遣うが御造の全身を観察し動物の特徴を持たない目の前の人物がやがて自分と同じ獣人では無い事に気付く。


「お前、人間か?

 ここに来たのはキタザト様だけだと」


 それ以上、彼女の口から言葉が紡がれる事は無かった。

 元々、警戒心の薄い温厚な性格だった彼女に若干の油断があった事は否定出来ないがそれを差し引いても御造が放った無情の一振は獣の本能に備わっている動体視力でも鍛錬で培った戦闘経験でも捉えきれず気付いた時には意識を奪い、全身に強制的な脱力を促した。

 訳も分からず物言わぬ屍となった女性に御造は煮え滾る怒りを向ける。


「人の人生を奪った癖によくもへらへらと笑えるものだ」


 砦を抜けた先はキャンプやピクニックに最適な湖畔を持つ湖に繋がっていた。

 月を一口で呑み込みそうな程に大きなその湖は砦の掲示板に貼られていた "吸吞湖月" と呼称されるに相応しい風格を持つ。

 キャンプやピクニックに最適な湖畔から二つの月が映る水面を眺めると小さな違和感が御造を釘付けにする。

 微風が水面を静かに揺らした僅かな隙間から放置されて長い年月を感じる下層へ続く階段が円状に並んでいた。

 月光の当たらない深部は完全な闇に支配されているがこうした誰もが侵入を躊躇う場所こそ獣の隠匿に使われる絶好の秘境である。

 そう考える御造は憎き畜生の根絶を目指す為、古い階段を降りて行った。

 しかし流水と埃が共存する工業地帯を暫く歩いても機械や鉱石の体を持つ無機物なエッセンゼーレがいるだけで苦労に見合った成果は得られなかった。


「小賢しい畜生もここを根城にする勇気は無かったか・・・・・・」


 このまま無駄足で終わるのかと思いながらエッセンゼーレを斬った際に付着した刀の汚れを拭っていた御造だったが今までの街路よりも多い水位で妄執から引き戻された。

 冷温で足首を拘束する水の上に建つ倉庫群には変形せずに浮き続ける飲料箱と普通なら有り得ない光景があるがメインの大倉庫と何かを模した様な巨大サファイアがある奥にはそれとは比にならない驚愕があった。

 粉砕しているはずの鉱石に僅かな脈動が見受けられたのだ。



「おはよう、お二人さん。

 ・・・・・・ふむ、指定時刻の五分前。急なお誘いにも関わらず早めに到着して戴き助かる」


 街灯で懐中時計を確認する碧櫓さんは感心感心とばかりに何度も首を振っていた。


「おはようございます、碧櫓さん。

 ・・・・・・起きても外が暗いままなのでちょっと戸惑いましたけどね」


「サメノキ地方の夜と同様に地域によってはずっと常夏の昼間や絵画の題材にも起用される黄昏に満ちた場所も存在すると聞いた事がある。

 北里様やウィンドノート様のように優秀な者は遠征も多くなるだろう。機会があれば俺が使っている方法を伝授しても構わないのだが」


『真か? 後学の為にもぜひ伝授を頼む』


 ずっと月夜に覆われているサメノキ地方ではちょっと違和感のある開口の挨拶を終えたところで私達の今日の予定を話そうと思う。

 昨日、巨大なエッセンゼーレ "サファイアクイーン" を四臣に属する碧櫓さん、白波さんと共に倒した私は鮭のムニエルが美味しかった豪華な晩餐の後、碧櫓さんに栄遠の銀峰を案内させて欲しいと頼まれたんだ。

 なんでも今日は "桜爛おうらん大祭たいさい" と呼ばれる獣人にとって伝統的な催しが開催される特別な日らしく素敵な思い出にする事を約束してくれたので快く誘いを承諾した。

 仕事も無いしここって気軽に行ける場所じゃないから思いっきり楽しまないとね。

 住人全員で準備したという栄遠の銀峰は隅々まで華やかに丁寧な飾りを施していて作り手の個性が存分に発揮された手作り感のある提灯やファッションを楽しむ様に電飾を身にまとった大事な植物達が街全体を柔らかな紅色に包んでいる。桜を最大限に美しく表現出来る照明の使い方も相まって今日の夜桜はより一層幻想的だ。

 若年層の人達は特別なうちわやお面を身に着け屋台も豪華な食べ物や射的といった娯楽にも富んだラインナップで住人達がこの日をどれだけ待ちわび楽しみにしてきたのか、その熱意が客である私達にもひりひりと感じる。


「本来、" 桜爛おうらん大祭たいさい" は息災で節目を迎えた喜びを祝う祭事だったのだが今となっては家族、友人、時には初対面の人間と心の内をさらけ出し交流する貴重な機会へと遷移した。

 人間の真似事である獣人の祭りなど北里様には拙く写るかもしれないが・・・・・・ 少しでも楽しんで戴けるよう努めさせて貰う」


 盆踊りに似た風景に様変わりした城下町を練り歩きながら碧櫓さんが堅苦しくポーズを取る。


「そんなに卑下なさらないでください。ここまでの規模は日本でも中々無いですよ」


 勿論、これはおべっかや形式上の慰めなどでは無い。

 会場は文字通り栄遠の銀峰の城下町全てであり、普段は飲食業を営むお店は外に出て祭り限定のメニューを提供してるし自動販売機並にドリンクスタンドも点在している為、近所を歩くだけで食事が出来るし事前に統主である清華さんから許可を貰った夢追い人がマイクや楽器を持って実力をアピールしてるから音楽にも事足りる。

 本当に獣人だけで楽しむには勿体ないイベントなんだ。

 話を弾ませながら会場を散策する親子連れ。

 特設の飲食スペースで乳酸菌飲料と食べ物を並べて豪快に笑うおじ様達。

 獣人達が人間と同じように楽しむ様を眺めUNdead社員として創造したい幸せを再認識するとある屋台で足が止まる。

 出来たての熱気を残しながら子供達の手に渡るじゃがバターである。

 そういえばじゃがバターなんておじいちゃんの地元でやってた小規模の夏祭りで数える程しか食べてないなぁ・・・・・・

 無邪気に食べたから口の周りを汚しておじいちゃんを困らせたっけ、と見た時、朧気に思い出してしまったのだ。

 今頃、おじいちゃんの耳にも自分より先に死んだ孫娘の訃報は伝わってる頃かな。


「それに興味を惹かれたのか? ならば俺が購入しよう」


「え!? そ、そんな恐れ多いです。欲しかったら自分で買いますし」


「これは北里様とウィンドノート様に働いた無礼への補填と思ってくれれば良い。

 それにせっかくの思い出を興味の惹かれた食事や催しに飛び込めなかった後悔で埋めて欲しく無いからな。今日の費用はこちらで受け持つ」


 碧櫓さんは私達と一時的に離れると購入を終えた家族連れが移動した事で丁度空いた隙間に立ち、一人で営業をこなす兎獣人のおじさんとやり取りを始めた。

 ちょっと罪悪感を感じる私にウィンドノートがこそっと耳打ちする。


『ここはご厚意に甘えよう。せっかくの申し出を断っては碧櫓殿に失礼であろう?』


「店主。じゃがバターを三つ戴けるか?」


「おや、これは碧櫓殿じゃないですか。今日は休暇目的で城下町に?」


「勤務と休暇が半々、といったところだ。統主の大事な客人を案内しているが桜爛大祭に参加する以上は慎ましく楽しませて貰うさ」


「ではこっちも慎ましくとびっきりの奴を用意させて貰いやすぜ」


 手際良く用意されたじゃがバターは未だに出来たての熱気が漂い、十字の切り込みに載せられたバターがじわりと溶け始めている。

 久しぶりに食す懐かしの味。割り箸で大きい一口大に変えた芋を食べると美味よりも先に驚きが直撃した。


「え!? 甘っ!!」


 火傷しそうなホクホク感の奥に貯め込んだ糖分は現世のじゃが芋よりも更に高い素朴な甘さに変わっていて数種類のハーブを混ぜた塩による程よい塩味がじゃが芋の本質を引き立てて、液状化したバターの円やかさとの相性も言うまでも無い。

 この美味しさが屋台で百十円という安価で食べれるなんて。

 恐るべし桜爛大祭、恐るべし獣人族。


「栄遠の銀峰で使われる野菜は全て "スウィーティーファーム" から取り寄せている。

 植物の糖分を高める特殊な土壌で育まれた野菜は本来の持ち味を残しつつ食べやすい味を形成している。お陰で野菜嫌いの者は少ない印象があるな」


 碧櫓さんはサラッと解説してるけどスウィーティーファームの野菜って最低でも三千円以上はする高級ブランドじゃなかったっけ・・・・・・

 確かにこんな野菜を毎日食べてたら苦手意識なんて湧かないだろうね。


『これは次の品にも期待が持てるな』


 それから私達は心を動かされるまま魅力的な屋台を巡っていく。

 大葉と味噌を塗ったおにぎりを炭火で焼いた焼きおにぎりもケチャップをそのまま飲んでいるのかと疑う程トマトの旨味が溶け出た角切り野菜たっぷりのミネストローネも美味しかったけど、一番のお気に入りだったのはコンビニのホットスナックを倍にした大きな唐揚げ (名前はシャンジーパイって言ったっけ)。これが日本の唐揚げと違うスパイシーな味付けでまた格別だった。

 勿論、食事以外にも様々な体験に出会いパチンコとゴム弾を使って景品を撃ち落とす射的に挑戦したりスノードーム作りも体験させて貰った。

 粗方、巡り終えプロデビューしているロックバンドの演奏が鳴り響くテーブル席で休憩しているとウィンドノートが注意深く観察している。


『栄遠の銀峰の営みは凄まじいな。

 エクソスバレーの恩寵を賜ったとはいえ前世を動物として過ごした者が人間と同じ生活模様を送っているのだからな』


「ちょっと教えただけで社会に適合出来るハスキーも凄いと思うけどね」


 でもウィンドノートの言う事は同意出来る。

 獣人達がこうして近代的文化を形成しているのは間近で人間の生活を見ていた子達が見聞を共有し人並み外れた知恵を持つ子達が血の滲む努力を重ねたからであってサメノキ地方と動物への人体を産み出した着物少女の願いは僅かなきっかけにしか過ぎない。

 先の見えない幸福の為に持てる全ての頭と力を駆使してがむしゃらに生きる。その本質を共通して持つ人と獣に違いは無いのだなと改めて実感する。

 暫くして碧櫓さんが新たな品を持ってくる。

 小さな器の中にはなんと琥珀の香味油が光る醤油ラーメンが入っていた。


「俺の行きつけの看板メニューだ。きっとお二人にも気に入って貰えると思う」


 買いに行く前に締めにピッタリだと言ってたけど確かに祭りの食事で少しづつ貯めていた胃の満腹感を程良く満たすには相応しい適材だ。麺が伸びる前に早く戴こう。

 おぉっ、碧櫓さんが気に入ってるだけあって麺、具、スープのどれをとっても絶品の味わいだ。

 恐らく煮干しを中心に様々な魚介から出汁を取ったスープはあっさりと澄んでいながらもパンチのある旨味が魚介達を産み育てた荒波の如く押し寄せて来て、縮れ麺との相性も抜群。

 トッピングに使われてる具材は白髪ネギに小松菜、加えて大きなチャーシューに半熟の煮玉子。

 祭り用に少なく調整されているが徹底的な職人のこだわりを感じる至高の逸品は数分足らずであと一口の量になっていた。


「美味しいですね。近所にあったら毎日食べに行きたいレベルです!!」


『あぁ、何杯でもいける味わい深い一品だ。このような美味を紹介してくれた事、感謝する』


「そうか、口にあって何よりだ。

 ところで北里様は頻繁に猫の獣人に横目を向けているが何か思い入れがあるのだろうか?」


「え? そうなんですか?

 すみません、実家にいた猫を思い出してつい視線が揺れ動いてたかもしれません。

 知人でも無い人に見られたらいい気分ではありませんよね。気を付けます」


「ほう、猫を飼われていたのか。失礼ながらどんな者か伺っても?」


「 "ルミ" って言うメスのサイベリアンです。歳は四歳くらいだったかと。

 雪みたいな白い毛並みと気高く我儘な性格を持っててまるで女王様みたいな子なんですが・・・・・・

 聞いてくださいよ。あの子、父さんと母さんと姉さんだけには喉を鳴らして近付くのに私の事はガチで避けていたんですよ!!

 爪切りやシャンプーを率先して引き受けたのに私の顔を見るなりダッシュで逃げて」


 熱弁の途中で二人の顔を見るとその目には憐れみが宿っていた。


『まさか愛猫にまで不平等な扱いを受けているとは・・・・・・

 愚痴は俺が最後まで付き合うからここの猫に良からぬ手を出すなよ?』


「出さないよ!! 私にだってそのくらいの常識は、ん?」


 席を立った瞬間、向こうで大の男と子供が言い争う声が響いてくる。内容までは分からないけど段々と強くなる語気からしてただ事では無いのは確か。

 例え休日だろうと喧騒が発生しているなら大事件に発展する前に止めなくては。

 現場にいたのはお父さんらしき男性とその子供と思われる男の子の二人に派手な出で立ちをした猿の男達。気の弱そうなカンガルーの親子に男達はねちっこく言い寄る。


「おいガキィ。お兄さん、お前とぶつかったせいで骨折れちゃったんだがぁ?」


「あ〜ぁ、可哀想に。

 これは保護する責任を背負ってる親父が代わりに払うしかねぇよねぇ?」


「あ、あなたがじ、自分から、ぶつかってきたんじゃないですか・・・・・・」


「はぁ〜ん? 文句があるならもっとはっきり言いなよ〜?」


 因縁の付け方はしょうもない骨折の偽証だがあんな型崩れした着物にゴツイ肉体、徐々に増す威圧感を多勢で迫られたら大抵の人は怯えて要求を呑んでしまう。

 現にカンガルー獣人の親子は気圧されて今にも理不尽な言いがかりに屈服しそうになっている。急いで割入って仲裁しないと。


「桜爛大祭の最中に民を陥れようとは・・・・・・

 如何なる罰も受け入れると言うのだな?」


 男達のちゃちな威圧を集合しても天と地の差がある背筋を震え上がらせる鋭い覇気。

 栄遠の銀峰の国民を侮辱された碧櫓さんが本気でキレているのだ。


「あぁん? 部外者は引っ込んでやが、って碧櫓ぉ!?」


「骨折した者は誰だ? 医務室まで案内しよう」


 おやおや、栄遠の銀峰上層に属する四臣の一人が態々心配してくれてるのに素直に甘えず焦っているね。

 言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。


「どうした、何故名乗り出ない? 早く治療した方が良いだろう?

 それとも本当は異常など全く無いのに慰謝料を不当に請求しようとした事実を認めるか?」


「ひ、緋袁ひえんの兄貴を追放した白猫のチビのおまけが偉そうに喋ってんじゃねぇぞ!!」


 男達は玩具みたいな武器を取り出し無謀にも殴りかかって来た。

 勿論、エッセンゼーレにすら劣る低俗な軟弱者が私達に凶刃を届かせる事など出来ず簡単な防衛と反撃をするだけで小さな反抗はあっという間に鎮圧された。

 草の上で倒れる男達を冷徹に監視しながら碧櫓さんは通話を始める。


「碧櫓だ、仕事中に済まない。

 特設ステージのある広場で下らん阿呆を捕まえた。手の空いてる者を回して貰いたい」


「くそが・・・・・・

 俺達が肩身の狭い生活をしているのに呑気に祭りなんぞ開きやがって」


 ん? 今、何か吐き捨ててたような・・・・・・?



「今日はありがとうございました。獣人の国で過ごした一日、色濃く残りました」


 遠くで祭りの灯りが見送る宮殿への道中、碧櫓さんはずっと半グレ風の男達について考え込んでいる。

 私から見ればただお金を騙し取ろうとしていた小悪党にしか思えないけど。


「・・・・・・あぁ、貴方の印象深い思い出作りに貢献出来たのは俺としても幸いだった」


『随分と思い悩まれているがあの男達に何か因縁があるのか?』


 碧櫓さんは短い返事だけで答える。


「暴雨の囚獄に収監された大罪人の義兄弟だ。

 文字通り、奴の目と耳でありああして栄遠の銀峰に潜り込んでは情報を掴み多少のお恵みを簒奪しようとする卑しい者共だ。

 最近、奴らの活動が活発になり始めたと思ってな・・・・・・ 近い内に奴らが攻め入る可能性も考慮せねば」


 巨大エッセンゼーレを倒したと思ったら今度は囚人の反逆への対応かぁ。

 サメノキ地方の安心して暮らせる日々はもう少し尽力しないと戻らないみたいだ。

 宮殿に戻ると一足先に桜爛大祭から戻って来た給仕さんがいつも通りに仕事を再開していてソファに座っている清華さんは紅茶を飲んで束の間の休息を取っていた。


「統主。ただ今戻りました」


「おかえりなさい。碧櫓、北里 翠さん、ウィンドノートさん。祭りは楽しめましたか?」


「とっても楽しかったです。こんなに童心に帰って遊べたのは久々です」


『祭りが聞いた話以上に素晴らしい物だとは。今日は忘れ難い日になった』


 私達が楽しめた旨を聞いた清華さんは "それは良かったです" と少し喜びの滲んだ声で安心し率先して祭りを案内した碧櫓さんも労う。


「貴方もご苦労さまでした、碧櫓。

 客人の案内に加え恐喝への対処、報告を受けております。最近、あの人・・・の行動も過激になって来ましたね」


「細々と欠片を捕まえたところで奴らの暴動は抑え込めません。大乱に移行する前に策を講じなければ」


「その前に残酷な真実を突き付けなければなりません」


 膨大な資料を収録したタブレットの画面、そこに写った地底湖の倉庫群で再び動き出すサファイアクイーンを見せつけながら清華さんが義務的に報告する。


「貴方達が対処した鉱石の形骸は、まだ生体反応を示しているようです」


 倒すのに苦労した強力なエッセンゼーレが復活しているなどタチの悪い夢だと思いたかったが、清華さんが冗談を言うキャラじゃないってすぐに思い出すとこの現状に対する重い失意がのしかかった。


 獣人の楽園(6) (終)

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アンロック・ゲフュール Ryng @ryng

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