雨の中の一人観光

@naimaze

雨の中の一人観光

親友と温泉旅行に行った。


観光地として賑わっているところに、2泊3日で。


でも、あいにく2日目の天気は雨。


旅館を予約した時の天気予報では晴れだったけど、1週間前くらいに確認したら曇りの予報に変わっていて、当日になってみたらザーザー降り。


それでも私は、せっかく来たんだから雨の中でも町の観光に出掛けようと親友の袖を引っ張るんだけど、彼女は旅館で温泉に浸かって一日中のんびり過ごすって言って全く聞く耳を持たない。


私と彼女の間にはこういった意見の食い違いがしょっちゅうあって、その度に半分喧嘩のようなやり取りにまで発展するところまでセットで、よくあることだ。


喧嘩のようなとは言っても、だいたいは私がイライラをぶつけるような言葉を投げ掛けて、しばらく距離をとるだけで、親友の方はそんな私の態度を気にも留めずに見送るだけなんだけど。


だからこの日、私が雨の中プンスカと旅館を出ていって、それを彼女が行ってらっしゃいとのんびり手を振って見送るような流れになったのも、いつも通りと言えばいつも通りのことだった。


そこで、私が新しい友達を作ろうとしなければ、そのままいつも通りの日常の1コマで終わっていたのかもしれない。


でも、私はあの日、雨の降る観光地で、あの子に出会ったのだ。


私と同じような理由で、彼氏と喧嘩して旅館を飛び出してきたと言う、同い年くらいの女の子に。


どちらから、何と言って一緒に観光をする流れになったのか、細かい部分は覚えていない。


だけど、行ってはみたけど運悪くその日は臨時休業中だった有名な甘味処の軒下で、買ったばかりの全く同じビニール傘を片手に、同じタイミングで隣でため息をついた彼女と目があって、何となく、この子とは仲良くなれそうだなって思ってしまったのだ。


だからその日は、その子と一緒に、観光ガイドに載ってない通っぽい甘味処を巡ってみたり、晴れてたら賑わっていたであろう貸し切り状態の絶景スポットで一緒に写真を撮ったりして、不運続きの割には何だかんだ楽しく過ごした。


それから、日が落ちはじめてからやっと雨が上がって、気がつけばもうすぐ旅館で夕食が出されるって時間で、急いで帰らなきゃって近道をしようとして、その子はその道は暗いし滑るから危ないよって止めてくれて。


旅館の前で別れるときに連絡先を交換しようとしたけど、その子がスマホをどこかに落としたみたいで、一緒に探すって言ったけど、彼氏に探してもらうからいいって、一緒に和風スイーツの写真を撮って上げたSNSのアカウントだけ教えてもらってバイバイした。


なんで、その時に写真が投稿された日付に目を止めなかったんだろう。


私は旅館に帰って、喧嘩してた気分もすっかりどこかに行った親友と夕食を食べながら、スマホを渡して今日撮った写真を見せて。


彼女に、よく一人で雨の中ここまではしゃげるねってスマホを返されて、怪訝な顔で画面に目を向けて、箸を落とした。


あの子と一緒に撮ったはずの写真に、あの子の姿は無かった。



後日、検索して出てきたネット記事で、雨の日に彼氏と喧嘩して旅館を飛び出し、一人で観光した帰りに坂で足を滑らせてしまった同年代の女の子の事故を知った。


現場に落ちていたスマホには、一人で雨の中はしゃいでいる写真が保存されていたそうだ。

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