オニ―さんと俺
黒いたち
オニ―さんと俺
セミの歓声のなか、151段を駆けあがる。
ふりむけば、頬を冷やす風。
ここからは町が一望できる。田畑はモザイク柄で、病院は無機質に白い。
応援にきて、と言えば、はい先生、と返された。
ばーちゃん、俺だよ。孫の
知らないと言われるのが怖くて、自分の名前を飲みこみ、逃げた。
息をつき、ひび割れた参道を進む。
枯れた
古い拝殿で、大きく二回、手を打つ。
「ばーちゃんの認知症が治りますように!」
「
現れたのは、一本角の鬼――になりきった変人だ。
「今日も
「だから本物だと」
「はいはい。
この地方の鬼伝説。昔ばーちゃんが話してくれた。
特徴は角に巻かれた白い
「その数珠、さわりたい」
「好きにせい。
「あ、とれた」
「なんと!? 力が、みなぎる!」
羅雪の八重歯がのびて、肌が黒くなる。
「ふははは! 我こそは破滅の鬼神! まずは貴様の恐怖を
「動画撮ってる。手ブレするし、数珠は返すわ」
押しつけた数珠が、角にまきつく。奇声をあげた羅雪が、元に戻った。
「すげー手品」
「ちがうわ!
おもわず吹きだす。
大のおとなが、全力で羅雪を演じている。無意味すぎてバカらしいし、笑いすぎて涙が止まらない。
「清夏?」
「……家族の面会が症状の進行を遅らせるってさあ。もう俺のこと家族ってわからないなら、無意味じゃん」
でも、と涙をぬぐう。
「結果しか見ない方が、バカだよな」
「それより数珠をな」
「ありがと、羅雪! もう一回、病院行ってくる」
「清夏ー!」
羅雪に手をふり、鳥居をくぐる。
セミの歓声のなか、陸上部で
オニ―さんと俺 黒いたち @kuro_itati
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