夏の教室

雲矢 潮

夏の教室

冷房の乾いた空気 窓から入り込む湿った熱気

混じり合って 私の肌に気持ち悪くまとわりつく


教室はまさしく休暇前

シャーペンがノートを削る音も話し声にかき消され

チョークが黒板を空虚に掻く

その真っ白な先を 九十の瞳がみつめる

いや せいぜい六十か


窓の外は映画のような入道雲

綺麗だなって 見るだけはね

暑苦しい外に出る気はないんだ


チャイムが時間を分節する

挨拶もなあなあに 小さな液晶が教室に湧く

その指の先の ガラスの先の コンテンツ


 子供の仕事は勉強だ って

だから遊びはこんなふうに 学びの外に

遊びの方も 学びから遠ざかる


本当は おんなじものだったのに

いつの間にか

いや いつからかなんて分かってるんだ


 集団生活の訓練だ って

同い年 一五〇人

の団体なんて 学校くらいだ

あとは軍隊とか


 微積分なんていつ使うんですか 生徒が問う

先生からは いつも通りの答えが返ってくるだけ


 勉強、楽しいか って

幼い頃聞かれた

うん

私が楽しかったのは 勉強じゃなくて

学びだった


疑問の答えを 求めてただけ

未知を 知りたかっただけ


 近年の学生の学力低下――

力はいりません 学ばせて


いらない保護はいらないよ 話を聞いて

こんなこと勉強してる暇 あったら

もっと知りたいことがある 話してみたいことがある

 世界に目を向けろ って

言うくせに

 勉強 勉強 勉強

勉強 勉強 勉強



 高校生

 生徒

 子供

押し固めて

子供でしょ って

レッテルを付けて放り込む

自分にも レッテルを貼る

 大人

って


人間だったはずでは?

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夏の教室 雲矢 潮 @KoukaKUMOYA

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