第3話

 ぼーっとしていると「カチャ」という音が聞こえ、目の前には一杯の珈琲が置かれていた。白いカップに黒色の珈琲が映えて見えた。


「お熱いのでご注意ください。」


早速飲もうと手を伸ばした俺に彼はそう言った。ここで「分かってますよ。」といって慣れた手つきで珈琲を啜れたら格好よかったんだろうが、俺は「分かりました。」と言って少し冷ますことにした。


こんなんだから彼女がいないんだろうか。高校の時、三ヶ月で別れてしまったのだろうか。格好良く飲むわけでも、舌を火傷して場をなごますわけでもない。無意識に中途半端な感じになってしまう。そして「冷めないうちに」と言われるよりも前に飲み出すんだろうな。


実際には、店主が片付け終わるのを待ってから飲むことにした。口に含み飲み込むと、その香りが鼻を抜け、より一層その香りを際立たせた。ちょうど良い熱さで、思ったより苦くもなく落ち着く味だった。もしかするとブレンドと言いながら、若めの俺に合わせてくれたのかもしれない。


「おぉー」


ほっと一息つくと同時に、気がつけばそんな声が出ていた。店主が嬉しそうに、にこにこしながらこちらを見ていた。


「気に入りましたかな? 」


「はい、もちろん。恥ずかしながら普段あまり珈琲を嗜まないのですが、今までで飲んだ中で1番好きな味です。なんかこう落ち着くというか、安心するというか……」


イメージは掴めているのになかなか言葉に表せない。自分の語彙力の無さにもどかしさを覚える。これが本を読まないことの弊害というやつか。


ネット動画で事足りてしまい、紙の本はもちろん、テレビでさえ見る人の少なくなってしまった昨今、俺もまたそのうちの1人だった。紙の本なんて、高校の頃の読書感想文付きで読まされた外国人の本が最後だった気がする。


店主はそんな俺の拙い言葉に気にした様子はなく、笑っていた。


「すみません。それほど美味しそうに飲んでいただくと、私としても作った甲斐があるってもんですよ。いやぁ、店を開けてよかった。」


最後は感慨に耽るような感じで、店主も嬉しそうな顔をしている。敬語が外れているところからも本心なんだなぁと思ったりもする。

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一軒家な珈琲店 天白あおい @fuka_amane

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