いわゆるデートのようなもの
寝室は私と姫様5人で別々だ。
眠るその時まで自分たち以外を警戒して、一時も気を許さない。
まぁ、下手に手を出すよう仕向けられても困るし、これで全然良くはある。
一番広い個室を狭すぎると言われたのはショックだったけど。
ぼんやりする頭で考えながらドアを押し開けようとすると、同じように体を滑り込ませていたエミーラ様と目が合った。
少しの間の後、エミーラ様ははにかむように笑い、明日が楽しみだと伝えてくれた。
翌日、なんだかいい匂いがする気がして目を覚ます。
メイドか執事がもう来てくれたのだろうか、と思いながら階段を降りると、キッチンにエミーラ様が立っていた。
ダイニングには美味しそうな朝食と、サンドイッチの入ったかごが2つずつ置いてある。
「おはようございます、王子様」
「おはようございます、エミーラ様。このお料理はどうなされたのですか?」
「・・・・作りました。お口に合うとよいのですが」
「も、申し訳ございません、もっと早く起きて私が作っていればお手を煩わせることなんてなかったのに」
「いいんです。自分たちのことは自分たちで行えと父から教えられたので」
「王としても、人としても優れているお父様なんですね」
「そういうことでは、ないのですが」
そういうことでなければどういうことなのだろうか。
思わず首を傾げてしまうが、今日はそれよりも重要なことがある。
早いところ図書館に連れて行って、明日は私が朝食を作ればどうにかなるだろうか。
そのためにも早く朝食を食べきってしまいたいのだが、美味しすぎてよく咀嚼してしまう。
一昨日からわかっていたことではあるけれど、もぐもぐ、5人は大体なんでもできるのだ。
・・・・手が止まらない。
予定より少し遅れて8時くらい。ロメン様やアルリィ様が段々と起きてくる。
意外にもレミーラ様は朝がお得意ではないようだ。
外出の伝言と戸締りを頼み、少し古びた木製のドアを押した。
昨日の運転手に車のドアを開けてもらい、エミーラ様と後部座席に座る。
彼にはあとで臨時ボーナスを渡しておかねばならない。
何も言わない運転手と、書庫から持ち出した本にうずうずと肩を震わせるエミーラ様を見ながら、手を付けていなかった資料を眺める。
最近の国民、とりわけ若者は農業があまり好きではないらしく、野菜や穀物の生産量が年々少なくなっている。
近くにあるギルガル国やイチノセ国なんかに上る人もいて、人の数も足りない。
穏やかで刺激のない生活は面白くないのだろう。
「・・・・うちの国から、移住者を募りましょうか」
気分の悪くなる文字列をにらみながら考え込んでいると、エミーラ様が話しかけてきた。
「え、エミーラ様。そこまでしていただかなくても、私は自力でどうにか・・・・」
「人が減る要因には、うちの国もあるんですよね。都会の雰囲気が息苦しいとか、病気の療養のためにきれいな空気を吸いたいという人が一定数いるんです。こちらとしても、都合がいいので」
「・・・・そこまで言うのなら、わかりました。あとでレミーラ様にも聞いておきますね」
「ど、どうしてですか」
何か不満でもあるのだろうか、とは思っても言わない。
きょうだいで比べられるのは嫌なのだろう。それくらいなら私でもわかる。
それと公平は別のものだけど。
「だって、お二人は同じ国の出身ですから。それに、国にもかかわることですし。
あ、図書館はあれです。着きましたよ」
気に入っていただけるといいな、と思いながらエミーラ様をエスコートする。
少しは王子様らしくできているだろうか。
国立図書館を見上げ、木造の巨大なビルのような建物の中に膨大な量の本があると考えると、つい身震いしてしまう。
扉も普通に開けるには重たいから、全自動である。
今はどうでもいいことを思いながら中に入ると、エミーラ様は歓声を上げた。
瞳の輝きが尋常ではない。
「高いところの本は、はしごを使って取ってくださいね」
もっともうちの国の王族、つまり私たちは体の小さい者が多い。
それに合わせて作られているので、これはエミーラ様でも必要ない言葉だったかもしれないが。
聞こえたか聞こえていないかはわからないまま、エミーラ様は走るように本棚に近寄り本を数十冊ほど手に持った。
満面の笑みのまま近くの椅子に座ると、とても速いスピードでページをめくっている。
ちゃんと読んでいるのか不審に思うけど、楽しそうだからいいか。
私も読みたい本を探しに行こうっと。
あの絵本は、まだみんなに読まれているのだろうか。
「あ、あった。この本も、面白そう・・・・」
あまり多く持っていっても戻すのが大変だ。
だいぶ遠ざかっちゃったし、そろそろ戻ろうかな。
魔王を倒して世界に平和が訪れましたが、問題は山積みです! 絵猫 アオイ @0420114514
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔王を倒して世界に平和が訪れましたが、問題は山積みです!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます