挿話 国境へ

部屋に入ると、神殿長とジュリアスが椅子に坐って待っていた。


宰相が口を開いた。


「今回の罪はきちんと償ってもらう」


「どうして罪ですか?聖女はやって来ました」


「命令に逆らった罪を問うておる」と宰相が言うと


「ですが、成功しました」とジュルアスが答えると


「禁止した時の説明をここで言ってみろ」


「ジュリアス、覚えているな?」と国王が言うと


「魔術師団団長の計算によると神官百人の魔力が必要で、そのものらは魔力を吸い尽くされて命を落とすだろう。召喚した聖女の力は計算できない。その犠牲に見合う力があることを望むが・・・・」


といった感じでしょうか?


「つまりたかだか神官百人の命で聖女が手に入るなら、安いものでしょう」


この言葉を聞いた王の顔が怒りに満ちたが、すぐに穏やかな無表情になった。



「さようでございます。わたしとて神官は大切に思っておりますが、彼らとて国の為に命を使うことを名誉に思います」

と神殿長も続けた。


「国の為に命を捧げることは名誉だと思うのだな」と宰相が言うと


「当たり前にございます」と神殿長が答えた。


「それはありがたい。国境がきな臭くなっている。行ってくれるな」と宰相が神殿長を見ながら言うと


「え?わたしがですか?」


「戦えなくとも、治療ができなくともかまわない。国境の神殿はいま、人が足りない。なにもできない役立たずでも一応、神職であればよい。覚悟のある者がいて良かった」


「わたしは神殿長ですよ。それを・・・」


「なおのことだ。神殿長が職務を投げ打って赴任するのだ。喜ばれる」と国王は言うと、次はジュリアスを見た。


「おまえも国境へ行け。王子として行ってよい。国王として命ずる。今度は逆らうな。従え」




二人が騎士に連れられて部屋をでて行くと国王はため息をついた。


「辺境伯は孫をどう扱うか?」


「どうでしょうね。鍛えてくださるかも知れません」とサイコが答えると


「おまえ、死にぞこなったな」と宰相がサイコを見ながら言った。国王のうなづきながらサイコを見た。


「・・・・あーーー」とサイコが言うと


「止めようかどうか、迷ってなぁ・・・・・・なんとも面倒な立場だよな。だがそこまで考えてくれた事は感謝だよ」と宰相が言うと


「そうだ。結果はとりあえず成功。少なくとも誰も死んでない。だがジュリアスは・・・・・いらない」


「神殿との関係がどうなるか?聖女はどんな人だろうね」と宰相が言うと


「ケイトの報告を待とう」


「実はすごく楽しみでいますぐにも会いに行きたい」とサイコが言うと


「まぁ同じ気持ちだが、方向は違うだろうね、三人とも」


「そうだ。だが、ケイトに感謝だ」


宰相もサイコも国王の気落ちに気づかないふりをして話を続けた。



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