第10話 発現

厩舎に行く道は何通りかある。どの道も美しくわたしは行き帰りも楽しく過ごせている。


騎士団の人はわたしを冷ややかに見ているが、意地悪するわけではないので、まぁ住み分けしてお互いに平和・・・


馬丁さんとはそれなり仲良しになってきてるし、そもそも馬を触りたいわたしとしては、望みがかなってるから、このままずっとと思っていたけど・・・・



最近はどの馬もフライングチェンジが出来るようになり、今はスキップを練習している所。これって調教師さんが教えて出来るようになった馬にわたしが乗ってやってもらうと言うかやらせるんだけど、この世界に調教師さんはいない。強いて言えばわたしだ。教えているのよ。


この世界の馬が賢いのかわたしの才能が開花したのか、なんとなく馬の言わんとする事がわかるようになってきたし、馬もわたしのやりたい事がわかるようになって来たなと思う。


わたしの願望かも知れないけど・・・・


だってわたし、スキップの見本で馬場でスキップをやったのよ。捨て身よ。騎士団の人はともかく、馬丁さんからねぇ浴びせられた視線はね・・・・・いいの気にしない。だって向こうのインストラクターは駈歩をする時、馬の前を走ったのよ。別の先生はね・・・・・笑ったらダメだけど・・・・いい先生よ・・・・内側をね、腰に手を当てて片方だけのスキップを「キャンター、キャンター」って言いながらやってくれたの。それを思えば普通にスキップするくらいね・・・・


それで、出来るようになって来たのよ。今、それをやっている所、馬は上手に出来るようになってるけどわたしがだめ。気が付くと腕を前後に振ってる。騎乗者は動いたらダメなの。なんにもやっていないって見えなきゃだめ。


自分の姿が見えないって辛い・・・・わたしは夢中で集中してた・・・・・



「さっさと退け」といきなりの大声だった。


馬もびっくりしたと思う、わたしに集中してたから。わたしもびっくりした、馬と自分に集中してたから。


タイミングも悪かった。それで多分、踏み違えた馬の脚が、折れた。わたしの動きも悪かったと思う、弱い所に体重をかけた。


なにが起こったかと言うと、人馬転。転んだ馬の身体がわたしの足の上に乗った。


それから夢中で覚えてない、気がついたら確かに馬の体重で痛めた足で普通に立って、普通に立ってる馬に頬ずりされてた。


魔力が高速で体を巡ってるのがわかった。


わたしは引き馬で馬場を出た。


洗い場に馬を連れて行くと、馬丁さん達に取り囲まれた。


わたしの手が震えているのを見たみんなは、馬の前に椅子を持って来てわたしを座らせた。それから馬装をといた。


馬場から、女性の声が聞こえた。


「このバカ馬を動かしなさい」


ムチの音も聞こえる。あれは罰としてのムチだ。馬は悪くない・・・・・と先ほどの自分が映像として蘇って来た。


馬の脚はたしかに折れた。わたしの足も重傷だった。ひねった足首に馬の体重が乗ったんだもの・・・・


立ち上がろうとして足が痛くて・・・・動け、治れって・・・あの男を引っぱたく・・・・そしたら魔力が・・・


そうだ、わたしの足と馬の脚を治したんだ・・・・回復が使えるようになったって事か・・・・


これも秘密だ。


ふっと我に返った。手の震えも止まっている。


「馬の世話ありがとう、後はもうやれる。さっきはびっくりしたーー」と言うと


「・・・・そうだね。僕たちもびっくりしたよ。無事でよかった」と棒読みで返ってきた。笑顔がひきつってるぞ。


「あの人たちが来る日は来るのをやめた方がいいみたい。予定はわかるかな?」


すぐに付け足した。


「自分で調べるよ。それくらい・・・・今、馬場にいる子が故障してないか心配・・・・今日の夕方、もう一回来ますね」


わたしは、厩舎を後にした。

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