第5話 あの時の神殿

白い光が消えるとひとりの女性が座り込んでいた。第二王子のジュリアスは彼の野心を満たす存在が現れたことに満足した。

女性は我に帰ったようで立ち上がった。そこに神殿長が近づいた。その手には聖女の杖が握られている。その杖は聖女の力を増すと言われている。

「よくおいでた。聖女様。さぁ神殿に参りましょう」

「なに?神殿などにやらぬ、王宮に留めるぞ」とジュリアスの側近が神殿長に詰め寄る。


「あなた方、これって一体?どういうこと?」

神殿長が笑顔を浮かべ

「聖女様、よくおいで下さいました。」

「なんですって?おいでしたくなんかないわよ」

神殿長は杖をかまえて女性に近づくと

「聖女様、お静まり下さい」といいながら杖で女性の肩を撫でた。

一瞬、女性はピクっとすると怒りもあらわに神殿長をみると、靴を脱いでそれで神殿長の頭を叩いた。



「なにしてんの。このくそじじい」


ボコっと音がすると神殿長が尻餅をついていた。杖が手を離れて転がった。




女性が転がる杖をみると杖が女性のほうに転がっていった。


足元に転がってきた杖を女性が拾い上げると


杖が『おぉ任せろ』と言ったようだった。後に部屋にいた者は全員そのときのことをこう証言した。

杖が生き返ったと・・・・・


杖は女性が手に持つとやにわに光り始めた。

杖はやる気と殺る気をみせた。


ジュリアンは護衛の後ろに隠れた。神官たちも後ろに下がった。その時、女官長の声がした。


「お嬢様、ここで話しても解決いたしません。よろしければお茶はいかがですか?一休みして然るべき人に相談しましょう。でも先ずはお茶を・・・この世界のお菓子がお好きだといいのですが・・・」


そして女官長は優雅にお辞儀をした。


それをみた女性は杖を、そばにいた男に渡すと女官長について部屋をでていった。



女性が部屋をでて、すぐに騎士団団長がやってきて部屋を封鎖し、この召喚を知るものを部屋から一歩も出すなと命令した。


ジュリアスも神殿長もこの部屋から出られなかった。



しばらくすると国王、宰相、魔術師団団長がやって来た。宰相が口を開いた。


「聖女召喚が失敗に終わって残念だった。聖女は現れなかった。まぁそもそも許可が出ていないことを、やった暴挙だ。責任者は処罰する。

命令されて仕方なく参加した者もいるだろう。個別に事情を聞くが、当分この部屋から出ては、ならないし外部との連絡も禁止だ。ジュリアスと神殿長はついてくるように」


宰相の言葉が終わると二人は騎士団に囲まれた。その際大声を出すと国王の合図で猿轡がはめられ手足を縛られ袋に入れられた。



一行が出て行くと残った者はお互いを横目で見たが誰もなにも言わなかった。


聖女から杖を受け取ったマーチンは、杖をしっかりと胸に抱いていた。




しばらくすると食事と飲み物が運び込まれ、お腹がいっぱいになると彼らの口はほぐれて言った。



そこにいる騎士団員はたまたま、やって来た第二王子に命令されて不思議に思いながらここに来ただけで、えらい災難だと思っていた。


神官もそうだ。神殿長と神官長の仲が悪いのは知っていたが、自分には関係ないと思っていた。だから、神殿長に言われてついて来ただけだ。


いきなり、召喚の儀式をするから全力で魔力を出せと言われて、それなりにかんばったが成功して驚いたくらいだ。



そして口がほぐれてきた彼らが話題にするのは、あの神殿長が尻餅をついたことだ。


聖女様はほんとうにかっこよかった。靴を脱いで頭をスパンと・・・・杖だって喜んで聖女様のお手に収まった。


聖女様の手に収まった杖のなんと生き生きしていたことか!そう語る者の顔はうっとりとしていた。


それから恐ろしいまでの魔力をためていったが聖女様は涼しいお顔をなさっていた。それから・・・それから・・・惜しげもなく杖を手放されて、あっさり去って行ってしまわれた。


彼らは騎士団も神官も相手を変えては話し、元の相手とまた話しをして強固な絆で結ばれた仲間となった。


聖女へ絶対的な忠誠を持つ、この一団はこうして出来上がった。






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