オンライン短冊
@himura526
第1話
七夕にまつわる「本当にあった怖い話」を吐き出します。(ちなみに私はとあるテレビ局で働いている者です。)
2021年の夏、日本中で外出自粛が求められていた頃。ある番組の盛り上げ策の一環で、ウェブ上で視聴者が参加できる企画を考えていました。ちょうど七夕前だったので「オンライン短冊」なんてどうかなと。
良いアイデアだと思ったんですが、検索してみたら似たようなサイトがたくさん出てきて「そりゃ誰でも思いつくよな~」と反省したものです。せっかくなのでどんな願い事が書いてあるのか覗いてみました。
「今年中に彼女ができますように たかし」
「3キロ痩せる!! ゆい」
「ひとりで海外に移住したい カオリ」
などなど。その中に気になる短冊があったんです。どうやらカップルで書いて投稿している感じ。
「けんじくんと結婚できますように えり」
「えりちゃんと結婚できますように けんじ」
2枚連続で短冊の投稿がありました。ネット上でイチャイチャするなよ!という気持ちも抱きつつ、さらに投稿を遡っていくと、えりとけんじのセットの短冊が何枚も出てくるんですよね。
「えりちゃんと一緒に住みたい けんじ」
「けんじくんと一緒に住みたい えり」
「えりちゃんのものになりたい けんじ」
「けんじくんのものになりたい えり」
このあたりから少し気持ち悪さを感じました。えりとけんじの短冊に対する思い入れの強さが、なんだか異様に思えて。僕もここでやめておけばよかったのですが、気になる気持ちは止められず...もうしばらく遡ってみました。すると、突然けんじの短冊だけになるんです。
「えりちゃんと付き合いたい けんじ」
「えりちゃんと付き合いたい けんじ」
「えりちゃんと付き合いたい けんじ」
「えりちゃんと付き合いたい けんじ」
「えりちゃんと付き合いたい けんじ」
「えりちゃんと付き合いたい けんじ」
「えりちゃんと付き合いたい けんじ」
ゾッとしつつも少しして理解しました。これ、おそらくけんじって子がずっとえりちゃんに対して片想いしてたんだろうなと。えりと付き合う前の時期に自分で何度も投稿して、最終的に付き合ってから「実はこんな投稿してたんだ」とか言いながら、今は仲良くカップルで短冊を投稿してるってことかなと。
そう考えるとこれまで見てきた短冊も微笑ましい気がしてきました。付き合うきっかけとなったオンライン短冊にカップルの重要な出来事を残していたのかなと。怖さもなくなり、俄然興味が湧いてきて、もっと前のけんじの投稿はないのかなと、さらに過去の投稿を遡ってみたんです。そしたら...
「けんじくんがカオリと別れますように えり」
「カオリがけんじくんと喧嘩しますように えり」
「けんじくん許して えり」
「けんじくんがブロックを解除してくれますように えり」
「けんじくんなんでLINE無視するの えり」
古い投稿にはけんじの投稿はなく、えりの投稿ばかり。そこでようやく真実に気づきました。
「これ最初から最後まで全部えりが1人で投稿しているんだ」と。何かがあってけんじに嫌われてしまったえり。そしてどうやらけんじはカオリという女性と付き合った。当初えりは短冊に自分の想いを託すが、それに止まらず、勝手にけんじを名乗って、けんじ目線の短冊を書きはじめる...
そしてカップルのふりをして投稿していたのが最新のあの2枚並んだ投稿なのです。すべてはえりの一方的な願い。叶わぬ恋。七夕にふさわしい言霊の使い方なのかもしれないですが、なんとも言えない気持ちになってきました。
この話はこれで終わりです。まぁそんなに怖いってほどでもないですかね。あ、この話、後日談もあるんです。
ふと、2021年の冬、まだサイトが残っているのか気になって、探してみたんですよ。そしたらまだサイトは生きていて、そこの最新ページの短冊を見ると...
「けんじくんが私と別れますように カオリ」
「けんじくんが私と別れますように カオリ」
「けんじくんが私と別れますように カオリ」
「けんじくんが私と別れますように カオリ」
「けんじくんが私と別れますように カオリ」
「けんじくんが私と別れますように カオリ」
もしかしたら今年の七夕、あなたの名前を勝手に借りた誰かが、あなたの思っていない願い事を短冊に書いていたかもしれません。
おしまい。
オンライン短冊 @himura526
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