第9話 大団円

 今のこの世の中で、まりえや里穂、そして豊や山口を見てきたが、この四人が、それぞれの世界で、今後は中心になっていくのではないかと私は考えるようになった。

 いや、私が注目しているのは、

「それぞれの世界で、今後、世界の中心にいるようなカップルを探す」

 ということを考えていたからだ。

 お互いにもう一人の自分なのだから、もう一人の自分同士がそれぞれの世界で結び付くというのは当然のことで、まりえと豊、里穂と山口は当然のように結びついた。

 しかし、里穂の方は、この世界の考え方に踏襲しているのか、二股三股と、たくさんの彼を持っている。それを男も嫉妬してはいけないという法律はないが、慣習があることで、どうしようもないことであった。

 だが、神である私は、里穂と山口を一緒にしなければいけないことを自覚していた。

 一緒にしなければいけないというのは義務というわけではなく、あくまでも自分の理想として考えた場合ということが大前提であった。

 二人の世界で広がっているその思いは、他の神もきっと分かっていないだろう。むしろ、人間の方が分かるかも知れない。だから、最近までは、この世界でも、神の存在はあくまでもフィクションだったのだ。

 だが、神を信じる人が少なからずいなければ、意志疎通ができないことで、神の力をいかんなく発揮できないということもあり、特別な人間として、選ばれていた人は存在したのだ。

 それが里穂でも山口でもない人物だったことで、二人が神の存在を信じ、この私を神だと思ってくれたのは最近のことだった。

 とにかく私は、里穂と山口には一緒になってもらいたい。その一心は間違いのないもので、それを運命として、二人がいつ気付いてくれるかを考えていた。

 私は里穂よりもむしろお、山口の方が気になるのだ。

 里穂はきっと、

「私のことを真剣に愛してくれて、覚悟を示してくれる人は山口なんだろう」

 と思っている。

 それは最初から思っていたわけではない、最初から思っていれば、こんなに長く、数人と付き合うことはないだろう。それを続けてきたのは、なかなか一人に決められない優柔不断さが自分にあると思ったからだろう。

 だが、そのうちに、自分の好きな相手が最初はおぼろげだったが分かってくるようになってきた。

 そして、その確認の意味と、自分で覚悟を決めるために、どうすれば円満でいられるかということを、まりえに話を訊いて確かめたかったというところが真実であった。

 里穂にとって、その気持ちはとても大切で、まりえに聞けた話と、豊に話が聞けた山口も、里穂にとっては願ったり叶ったりだったのだ。

 私はほっと胸を撫でおろした。

 少なくとも、ここまでは私の思惑通りであり、里穂も山口も徐々に近づいていた。

 その頃、まりえの世界では、まりえと豊が結婚していた。結婚してすぐに子供を授かって、

「私、早く子供がほしい」

 と言っていたまりえにとって都合のいい人生を迎えていた。

 子供を早く作ることには賛成であった山口なので、子供ができたことは、これほど嬉しいことはなかった。

「まりえ、おめでとう」

 と里穂は、自分の世界から、まりえに声をかけていた、

 里穂とすれば、もうまりえに聞くこともなくなったこともあって、これから先はまりえの夢には出てこないようにしようと思った。まりえには、独自の幸せを掴んでほしかったからだ。

 山口も同じ気持ちなのか、豊の夢にあれから現れていない。里穂と山口、そういう意味では理想のカップルだと言えるだろう。

「これが私の将来の姿」

 ということで、里穂はまりえのウエディングドレス姿を目に焼き付けていた。

 里穂の世界では、結婚すると言っても、結婚式や披露宴のようなものはない。実にアッサリとしたものであった。

 まりえの顔は美しかった。最初は、可愛いという印象が強かったまりえだったが、その可愛さが消えることなく、美しさが加わったという感じだろう。

「好きな人ができると、女性って本当に綺麗になるんだな」

 と感じ、それを呟いた時、後ろから声をかけてきた男性がいた。

「君も綺麗だよ」

 と、そういってくれたのは、山口だった。

「ありがとう」

 と、あっけにとられたように、そう答えたが、里穂にとって、その言葉が目からうろこだったのだ。

――そうだ。彼の今の言葉が自分の怖がっていた部分を払拭してくれる言葉ではないか――

 と、里穂は感じた。

 人を好きになった時の顔が一番美しいというのは、里穂が一人の男性を好きになって、その人のイメージが頭に浮かんでいるということだ。それが山口であることは間違いなかった。

 山口も里穂の瞼に写った自分の姿を見て、それを確信した。

――本当に自分のことを好きになってくれた人でないと、瞼に写った姿を見ることができないんだ――

 と感じたが、それ以前に、瞼に写る姿を見ようなどという発想にならないだろう。

 だから、瞼に姿が写るかどうかは分からないが、結果的に写っている人が自分であるのを確認できた時点で、自分がその人を愛しているということであろう。

 そのことを証明できれば、里穂は自分の目的が達成できた気がした。

 里穂は、この瞬間のために、まりえに会ってきたのだし、まりえに話を訊いてきた。自分の意見も話して、こちらの事情も話し、分かってもらえたとは思うが、言葉にするのはそんなに簡単なことではない。

 こういう形で示してくれるとは思っていなかった里穂だっただけに、感動はひとしおである。

 里穂はそう思いながら、今大団円に自分が立っていることを自覚していた。

 だが、まだスタートラインに立っただけである。

 いや、まだスタートラインにすら立っていないのかも知れない。そこまでは何ともいえないと思っているが、見えてこなかったことが見えたことで、里穂は、階段を一段上ったことは間違いないと感じた。

 それからどれくらいの期間が経ったのだろう。里穂は山口と付き合うようになって、結婚した。その時の二人の縁結びとして君臨したのが、この私だったのだ。

「これが、私が二人に対してできる最後のことなんだよ」

 と言って、二人を祝福した私。

 二人は私を神として崇めてくれた。私もたくさんの幸福を二人に与えた。

 この世界は、神だって実は転生するのだ。ずっと生き続けていて、そして記憶は転生する前から残っている。そして、生まれ変わる。輪廻転生というやつだ。

 私は、また新たに生まれ変わった。目の前には新しいパパとママが、

「パパですよ」

「ママですよ。はじめまして」

 と言って、ニコニコ微笑んでいる。

 私は心の中で、こう叫ぶのだ。

「パパ、ママ、綺麗だよ。結婚したあの時のママだ」

 そう、私は、山口と里穂の子供として、生まれ変わった神の子であった……。


                 (  完  )

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神の輪廻転生 森本 晃次 @kakku

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