祭りの中へ

犬飼和音

祭りの中へ

夕闇の祭囃子は提灯の灯りとともに生命となる


友達か知り合いか分からない人をそっと横切り屋台へ並ぶ


前に並ぶ人の虫よけスプレーに私の虫の部分が嫌がる


イカ焼きのたれが地面に垂れ落ちて砂に吸われずまみれてしまう


サイリウム丸く軋ませ腕に巻く蛍光色の新しい骨


割高なラムネのビー玉押しこんでくぼみへ月と私が宿る


弟の爪の形のスプーンでブルーハワイに開けている穴


真剣に顔を近づけカステラの丸く生まれるまでに立ち会う


りんご飴の分厚い縁へ歯を立ててさっきより遅い秒針を見る


オレンジの電球がまだ残ってる金魚すくいの軒先低く


引っ張ればいくつか亡者がおりそうな百本くじの一つをたぐる


逆光で顔の見えない店員がかき混ぜている焼きそばの玉


誘蛾灯青く光ってその位置で待ち合わせてる人型の虫


おめん屋の知らないキャラも知っているキャラも全員空洞の目で


わたあめの機械の穴に色付きのざらめはひとまず砕かれていく


射的屋の周りにしゃがむ子供らはコルクの弾をずうっと拾う


人ごみも光も避けた境内の狛犬たちの背を覆う苔


溺れてる鳴き声のような水笛がそこら中から響く参道


追い詰める速さで数を増す花火 楽しい人しかここにはいない


寒色の残像がある夜空へと迷子を知らす放送が鳴る

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