第二章 ヒロインレースは突然に。

なぜか、手作り料理を食べさせられてます。

第1話

 残った数少ない体力で、目覚めた俺は、ベッドから少し体を起こす。


 今日は学校のはずだったが、風邪を引いてしまい自宅で寝ていた。


 ドアの方を見るとリビングから白い明かりが差し込んでいて、疲れて明かりを消し忘れたんだと思い、一人暮らしはやはり大変だなと自覚する。


 ベッドの上にある時計に目を向けると、時刻は十六時を示しておりこの時点でようやく夕方ゆうがたなんだと気が付いた。


「痛てて……」

 

 単なる風邪だったものの、体温は少し高めで火照っていて、関節が少しばかり痛い。


 顔や首筋に、汗がにじみ出ていてすぐにふき取りたい衝動にかられていたが、近くにタオルがなかったことがわかって、諦める。


 そしてドアの向こうから、トントントンとまな板を楽器のように軽快に鳴らして誰かが料理しているようだと気が付く。


「ん? 誰か……いる?」


 空き巣だったらどうしよう。超怖い。襲われたくない。


 このせいでだんだん脳が覚醒かくせいしてくるのがわかって、誰かがいる安心感より、恐怖感の方が強くなってきて、そのまま布団にもぐっていたい気持ちになる。


 そのままベッドの上で少し動き、ギシッと苦しそうな音を立てながら心地いい場所を探していると、スリッパの軽快な音が近づいているのがわかった。


 ……やべっ。気づかれた?


 えっ? ちょっと待った。気づかれたって誰に?


 ……誰がこの家にいるんだ?


 この家は、俺一人しか住んでいなかったはず。


 合鍵あいかぎも渡した覚えはない。


 ……そういえば、スマホはどこやったんだっけ……?

 

 俺は寝る前の記憶をたどり、ベッドの上に置いていたことを思い出す。


 そのまま寝ながら腕を伸ばして、頭上を確かめるようにベッドの上の凹凸おうとつをくまなく触りながらスマホを探した。


「……あれ? ないな」


 独り言のようにつぶやいたつもりだったけれど、この声でどうやらキッチンにいた不法侵入者に起きたことが気づかれたらしい。


「あっ。透、もう起きたかしら? 具合はどう?」


 この凛とした透き通るような声……。ってもしや。


 お玉を片手に持ち、制服の上にエプロンを纏った、由夏が俺を見る。


「具合は、まあまあってところかな……。って、なんでお前がいるんだよ。」


「うふふ。幼馴染なんだから、病人のお世話をするの当たり前でしょ?」


「その当然みたいな言い方やめてくれ……。全然当たり前じゃないし、今の状態、不法侵入なんだけど」


 自慢げに言っていた由夏に、呆気あっけをとられながら、言い返す。


 由夏、どうしちゃったんだ……。


「そもそも、鍵渡してないのに、どうやって入ってきたんだ?」


 最大の疑問だったこの問を、ぶつける。


 由夏は、にやりと笑って答えた。


「ん? しっかり玄関から入ってきたけれど?」


 は?


「玄関、鍵でしまっていたはずだけど……?」


「ああ、そういうこと。しっかり合鍵使って入ってきたわよ☆」


「えらいでしょ」と言いながら、ニッと笑って鍵を出す。


 は?


「今、合鍵って言った?」


「ええ、言ったわ。それがどうかしたかしら?」


 いやいや、どうかした? じゃないんだけど。


「……その合鍵、誰からもらったんだ?」


 疑問に疑問が連鎖する。そしてその疑問が大きくなる。


「うふふ。それは、秘密……よ」


 ウインクして鍵を、制服のポケットにしまった。


「でも、私がいてよかったでしょ? 少しは楽になったんじゃない?」


「まあ、それは言えてる。ありがとう」


 これは本当だ。一人だったらまだここまで回復していなかった可能性が高い。


 まあ、いつ入ってきたとか、いつから合鍵を持っていた、とか細かい事は気になるけど今は素直に感謝するべきだな。


「嬉しいな。やっぱり透は優しいのね。そうそう、おかゆ作ったから食べて。透だけけに作った、特製のおかゆだから」


「ちょっと待っててね。持ってくる」とだけ言ってまたキッチンへと消えていった。



________________


 読者の皆様、長らく更新できておらずお待たせしてしまいました。

 申し訳ございません。

 期間が開いてしまったため、書き方を少し忘れてしまいました。

 あちゃー。と思いながら書いてみたのですが、やっぱり何かが違います……。

 思い出しながら、書いていこうと思っていますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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