第6章 ~変心~ ~エピローグ

 

 祐巳と一緒に家に戻り、自室に戻った俺は言い知れない感情に支配されていた。

 一つには、白鳥さんの男性への帰還。

 それを素直に喜べない俺。

 もしかしてコレは嫉妬なのか?

 …いや、そうじゃない。

 確かに、祐巳は「女の子には嫉妬って感情が、男の子より強いのよ」といわれたことがある。

 でも、白鳥さんについては、祝福しているつもりだ。

 確かにうらやましくあるが、いずれは同じように男に戻れると思う。

 …そう思った瞬間、俺は不意に不快感に襲われる。

「…まさか…そんな」

 その不快感を感じながら、ふと不吉な考えに行き当たる。

「…俺…女でいたいんだろうか…」

 トクッ。

 心臓がなる。

「…」

 

 はっきり言ってしまえば、俺は男で居ることに得を感じたことがなかった。

 祐巳に言わせれば、女も大変だとは言うけれど。

 それでも、女になってわかったこともたくさんある。

 それに…男で居ると、少し調子が悪いことがある。

 

 祐巳だ。

 

 これは誰にも内緒だが、俺が男として「愛してる女」をあげろと言われたら祐巳の名前を挙げる。

 もし俺が女になれば…。

 

 そこまで考えて俺は携帯電話を取る。

 そして電話帳を開き、ある番号にコールする。

 TELLLL TELLLL。

「…あ、俺…福沢祐麒です!」

 電話の相手は驚いたような声を出す。

「ええ…それで実は…あの、たとえば、なんですけど…」

 俺の質問…というかお願いに、古泉さんは言いにくそうに答える。

『…そうですね…わかりました』

 

 俺の腹は決まった。

 そして俺は、祐巳の部屋に向かった。

 

 

  エピローグ ~翌春~

 

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 さわやかな朝の挨拶が、澄み切った空に木霊する。

 汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。

 私立・リリアン女学園。

 ここは、乙女の園。

 

「ごきげんよう、紅薔薇のつぼみ!」

「へ、あ、…ああ、ご、ごきげんよう」

 声をかけられた祐巳は、一瞬姉妹制度の姉である小笠原祥子を探そうと目を動かしたが、自分であると思い直し挨拶を返す。

「ごきげんよう、祐巳さん。

 …一瞬祥子さまさがしたでしょ?」

「…あはは、蔦子さん、よくわかるね?」

 愛想笑いしながら、よく知った声に振り返る。

「まるわかりよ。

 ところで…」

「あ、ええ、紹介するわ。

 私の実の妹、今年から一年生の祐麒よ?」

「あ、ええ、ごきげんよう、えと…蔦子さま」

「ごきげんよう。

 …あれ? 祐巳さん、妹さんは年子、じゃなかったかしら?」

「うん、一年だけほかの高校に居たの。

 私と一緒にいたくないってね…ね、祐麒?」

「…そんなこと言わなくてもいいじゃないの」

「そうなんだ…でも祐巳さんによく似てる。

 一枚、いただき」

 蔦子さま…とはいえ、俺と同じ年なんだろうけど…がカメラを構えると、小気味のいいシャッターの音がした。

「ところで蔦子さん、お姉さましらない?」

「ああ、祥子さまなら薔薇の館に向かってたわよ?」

「ありがと! さぁ祐麒、行くわよ!」

「了解! ではまた、蔦子さま!」

 そういって、俺…いや私たちは、薔薇の館へと向かった。

 

 その私の首にある、光ったものを、祐巳の大事な姉・小笠原祥子さまに見せるため…。

 

  ~fin...~

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涼宮ハルヒの弊害 ~SOS団HPを見た面々~ 粟飯原勘一 @K-adashino

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