君と僕
羽入 満月
君との距離は縮まらない
僕の記憶の中の君は、いつまでたっても可愛いままで、笑ってはだめと我慢するように口角を少し動かすぐらいの微笑をしている。
いつまでたっても君と僕の距離はかわらなかった。
始めて君を意識したのは、中学三年生の春だった。
君と同じクラスになって、噂の彼女だと目で追っていた。
きっとみんなは知らないだろう。
君がよく笑うことを。
君が泣き虫だってことを。
君が優しい子だってことを。
みんな、君を見ているようで、全然見ていないからね。
笑うときは、口角が少しあがるんだよね。
泣きそうになると、下を向いて手をぎゅっとにぎるんだよね。
君の口から悪口なんて聞いたことがない。
よっぽど周りのやつらの方が悪口ばかりだ。
気になって見ているうちに気付いたんだ。
ずっと、ずっと君だけを見ていて、今思えば、僕は君に恋をしていた。
だけど、君に声をかけることなんて出来なかった。
僕なんかが声をかけたら、迷惑なんじゃないかと思って。
実際、友達に「お前、あいつが好きなの?」とからかわれたことがある。
恥ずかしくて「違う」って言ったあとで、その言葉を君が聞いていたのに気付いて、落ち込んだんだ。
あの時、素直になれば良かった。
「好きです」の一言が言える勇気がなかったのだ。
夏が終わって、秋になる頃、君は僕たちの前からいなくなった。
さよならも、
またねも、
ごめんねも、
なにも言わせてくれなかった。
もちろん、この想いはずっと心に仕舞ったままだ。
舞い込んだ同級会の案内をきっかけに君に会いに行ったのだ。
アルバムの中の君は、僕の記憶と寸分たがわずそこに居て、僕は一生届かない言葉を紡ぐのだった。
「あの時はごめん。君のことが好きだ。もし叶うことならば…」
届かない言葉は宙に舞い、その後静寂が訪れる。
写真の中の君は変わらず、ただ静かに僕を見つめ返す。
君との距離は縮まない。
これからもずっと、縮まらない。
君と僕 羽入 満月 @saika12
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