アタシは異世界で偉くなる!!

満仲充

第1話

王様が座るような玉座を目前に

長く綺麗で黒い髪とチェック柄のミニスカートをなびかせながら

コツコツと神々しく歩き進む少女がひとり



両脇には縦に並び跪く兵士が数十人

玉座に辿り着き、大きく足を上げて膝を組み替えた後

横柄な態度を取り小さなため息をこぼすその女性は心底悩んでいた。

「はぁ…なんでこうなっちゃったんだろう…」



遡る事 数時間前――――


蒸し暑い夏も終わりかけ、大学受験が控えていたアタシ―泉沙薫子いずみさ かおるこは赤本とノートを机に広げ、一心不乱にシャーペンを走らせていた。

「ふぅ…今日はこのくらいにしとこっかな…」



大きく伸びをし

私服にも着替えず制服のままベッドに身を投げる

「んー…アっツー…8月ももう終わりだなー」



下敷きで顔をパタパタと扇ぎながら涼んでいると

次第に喉が渇いてきたが

冷蔵庫には底が尽きそうな1リットルの天然水しかなかった。

「よっし!コンビニいくか〜!!」



パッとベッドから起き上がり

スニーカーに履き替え近所のコンビニを目指し玄関の扉を颯爽と開け飛び出した。

「ハァ…ハァ…ハァ…」



乱れる呼吸と共に真夜中の外を駆け抜け

辿り着いたコンビニでコーラと天然水を手に取り両脇に挟みながらすぐさま会計を済ませた。



目的を済ませ頬を伝う汗を腕で拭き取り今度は家路へ小走りで向かう途中 キラキラと光る何かが薄暗い先に見えた。

『キィーーーッッ!!!』



「え…?」

光の正体はトラックだった。

ブレーキ音を鳴り響かせコチラに向かってきたが

急いでいたアタシはそんな事にほんの数秒気づくのが遅かった。

『ドンッッッ』



正面からトラックと衝突したと同時に目前は劇場の幕が閉まるように徐々に暗くなっていった。

アタシは死んだのか…?それともこの出来事はただの夢なのか…?

夢であってほしい… そう思いながら冷たい地べたに蹲った。



『お…きて…おきて…くだされ』

何処からか聞き覚えのない老人の声が脳内に響いた。


「う…う〜ん……」


目を覚まし

気がつくと辺りは砂漠の山でいっぱいいっぱいだった。

そこは真夏の夜より何倍も…何十倍も暑く、汗が滝のように吹きこぼれるかのようだった。


「え…なんなの…ここ。。。」



ああ…そっか 、ここは夢だ…そうに違いない

それを確かめる為に自分の頬を捻じるように引っ張った。


「痛ッッたーーい!!」


頬には確かな痛みがジンジンと感じる

夢だと思ったこの世界は確かに存在するものだと確信した。


「ソ、ソナタは旅人…ですかな?」



「い、いや…まぁ はい」


動揺を隠しきれずまごまごと返事したアタシに老人は縋るように尋ねてきた。


「お…お水をお持ちではないですか…?ほんの少しでも構いません…!!」



老人はまるでスルメの様に乾涸び、顎先の髭まで汗で濡れていた

無理もない…きっとこの広い砂漠の暑さにやられていたのだろう。



「いやー…そう言われても…あっ」


ふと自分の身体を見渡すと両脇にコーラと天然水を抱えていて

それはこの世界に来る前にコンビニで購入していた物だった。


「あの…これで良ければどうぞ!!」



コーラと天然水を差し出すと老人の表情がすらりと曇った。

「この…黒色の液体はなんですかな……??」



「コーラ知らないんですか…??…ええと…コーラっていうのはその最初は刺激が強くて…でも甘くなって…とにかくすっごい美味しいんですよ!!!」


身振り手振りで上手く伝わるかは微妙だがとにかく老人にコーラの美味しさをハイテンションで語った。


「ほぉ…そんなにも美味な物をこんな時に…頂いてよろしいんですかな…??」


「どうぞどうぞ!!アハハァ…」


「はぁ…本当に有り難い…感謝致します…それでは」


ボトルのキャップを乾いた手で力いっぱい振り絞って回し開けると

同時に老人はコーラをゴクゴクと飲み続けた。


「ハッウッグッ…!!!」

老人は喉元に手を当て呻き始めた。

一体 どうしたんだろう…まさか毒でも入ってた…?!

いやいやそんなはずはない…


「あの…だっ大丈夫ですか…?!」


「ウォッーーー!!!!!」

「えっ?ちょっ…ちょっと!!ご老人!どうしました?!」


苦しんでいたかと思うと老人は雄叫び始め眼を開眼させた。

「な…なんて美味さじゃ…す…素晴らしい… 。。。」


「へっ?」

先程までの老人とは嘘のように艶やかな表情

眼にはキラキラと虹が架かったかのように明るく光っていた。

どうやらアタシが普段 当たり前のように飲んでいたコーラは

老人にとって初めての物だったのだろう。


「一口目の衝撃と後からくる甘み…最高じゃっ…!!」


「あ…そですか…はは…それは良かったです。。。」


老人はみるみる元気を取り戻した。

そうこうしていると突然砂漠の遠く先から砂ぼこりが舞い上がる様子が見えた。

砂ぼこりから殺到と駆け抜け現れたのは馬に跨る兵士の一人だった。

「――国王ッーーー!ご無事ですかッーーー!?」


「おぉ…お〜い!こっちじゃ〜!!!お〜い!!!」

老人は両手を大きく振り返事をした。

助けが来てホッと安心したが兵士の"国王"という言葉が気になった。

国王って…もしかしてこの老人が…??

「あの〜…国王ってもしかして…?アナタが?」


「如何にも!ワシがこの国の王であ〜る!!!」


「え〜!!!ウッソッーーー?!」

驚きで新喜劇の舞台芸人のようにズッコケてしまった。

アタシはこれから…どうなるのだろう。

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アタシは異世界で偉くなる!! 満仲充 @kirinoranmaru

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