第25話 龍の声を聴いて
私とシュナさんは舞を観ていました。
如何やらこの舞は十五分くらい行うようで、既に五分は経っていました。
しかしその間に飽きが来ることはありません。
私は二転三転し、様々な龍の持ち味を披露する舞に拍手を送りたくて仕方ありません。
それに伴い、ふと頭の片隅をよぎりました。
「ブレイズさんやこの村を守護する龍神様にも観せてあげたいですね」
そう呟いた時でした。
不意に私の首筋を優しい風が撫でます。
「えっ?」
私は近くの森から吹いていると気が付きました。
何かいるのでしょうか? 私は気になってしまい、シュナさんに気が付かれないように森へと足を運びます。
すると不思議なことに、シュナさんは私が移動したことに気が付いていませんでした。
しかもシュナさんだけではありません。
他の誰もが、私のことに気が付くことはなく、私はその場を後にしました。
「不思議ですね。如何して私は呼ばれたのでしょうか?」
不意にそんなことを口にします。
実際、そうでもなければこんな森の中に足を踏み入れたりはしません。
それにこの感覚を私は知っていました。
以前もこの感覚に導かれ、そして彼の方に出会ったのです。
「お疲れ様でした、アクアス」
「えっ!?」
私は立ち止まります。
振り返ってみると、そこには美しい女性。
しかし頭からは金色の角が生え、普通の人間ではないことは確かです。
格好も白と青を基調した着物姿。
足元には草鞋を履いていました。
肌は白く、背丈だけではなく手足も長い。
私は目の前に居る人のことを知っていました。いいえ、お会いしたことがありました。
「お久しぶりです、龍神様」
「その呼び名はよして欲しい。今の私はただの竜人族。アクアスの相談役のただのマイでしかない」
マイ。彼女はそう言います。
しかしその正体はこの村を守護する龍神様。
今の姿は人として現れる時の姿であり、本来はこのように隠れて会うことはありませんでした。
「もしかしてマイさんも、舞を観ていてんですか?」
「ええ。とても素晴らしい舞だったので、ついこの姿で観に来てしまいましたよ」
「そうですか。それは何よりです」
「それからこの景色は、アクアスの夫、ブレイズの脳裏にも映り込むよう魔法を掛けておきました」
「えっ!?」
私は驚いて声を上げてしまいました。
するとマイさんは唇に人差し指を預けます。
「アクアスがしてくれたことにはそれだけの報酬がある。これは私の気まぐれでもあり、そう気にしなくても構わないよ」
「マイさんはもしかして私の考えを?」
「さあ、如何だろうね。そこまで職権濫用はしていないよ」
実際のところは如何だろうか?
それにしても神様が職権濫用なんて言葉を使うとは思ってもみなかった。
私は呆気に取られてしまうが、それでも感謝はしっかりと伝えます。
「ありがとうございました、マイさん」
「ふん。アクアスは本当に謙虚だ」
マイさんは笑っていました。
龍神様に笑われてしまった。のではなく、友人に軽口を叩かれた程度の思いでした。
なので何かを気にする必要はなく、私は笑みを浮かべ、楽しさに浸りました。
「ところでマイさん。あの舞は貴女に贈るものらしいですよ」
「そうみたいだね」
「今までは、呪いのようでしたけど?」
「うん。だから無視していたよ。でも今は違う。全て解放された。本物の舞になった。これもアクアスのおかげだ」
私は褒められました。
私は嬉しくて頬を緩ませます。
「ですが、私は……」
「謙虚すぎるよ。それより、笑った方がいい」
私はマイさんにそう言われました。
だからこそ、ようやく本当の意味で笑みを溢します。
私のやったことは無駄じゃない。そう思えることが、一番嬉しいのですから。
「聖水、人によって価値の変えるもの。だからこそ、私は好きなんです」
私の声は森の中を抜けて空へ届きます。
きっと、これからも、多くの人の助けになれば、私は満足するのでしょうね。
一度婚約破棄された「聖水」作りが得意な令嬢の結婚後 水定ゆう @mizusadayou
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