電車の窓
たなちゃん
第1話
10代前半の頃だったか、電車に母と乗るのが嫌だった。
母は窓から見える景色に
「桜、綺麗ねぇ」
とか話しかけてくる。
話しかけられる、という事がそもそも嫌だった。
「声、大きいよ」
と答えて下を向く。
母は常識的で、父に従順で、いい人で、誰に対しても分け隔てがなかった。私の学校の先生方からも信頼され、何より私と姉を大事にしてくれた。料理もとても美味しかった。
出来た母であった。
だから、電車の声の大きさくらいでしか母を責められなかったのだと今思う。私の気持ちはただの反抗期だった、としか言いようがない。
やがて私は母となり、娘と電車に乗る。
「お母さん、人をジロジロ見ちゃダメ」
10代の娘に言われた。
私は母のように完璧ではなく色々娘たちに日常的にツッコまれてきた。娘というのは母親の一挙手一投足が気に食わないものらしい。
完璧でも、そうでなくても、母親というものは鬱陶しい、そう思う時期があるのだ。
今母は施設にいる。認知症で時々私の事もわかっているのかと疑う。
私も六十歳を過ぎ、母の良いところしか覚えていない。
電車の窓 たなちゃん @Tanka556
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